97 砂漠の国の事情
ギルマスは話始めた。
「サハール王国は、良くも悪くも砂漠の国だ。国民は砂漠の厳しい自然環境を生き抜いてきた歴史がある。砂漠に点在するオアシスを開発し、大陸有数の大河、ナール川の流域で農耕を行う。また、砂漠の強力な魔物を狩って生計を立てているんだ。だから、冒険者ギルドは多いし、力も持っている。
それでだ。この国は今、保守派と革新派で国を二分している。昔からの伝統通りの生活を維持しようとする第一王子の保守派、新たな文化を取り入れ、より豊かな国を目指す第二王子の革新派の二つだ。今のところ、保守派が優勢だ。まあ、普通に考えたらそうなるわな・・・」
サハール王国は大陸の最南端にある。
国境を接しているのはボンジョール王国のみで、そのほとんどが砂漠や荒野だから、領土紛争も起きないそうだ。わざわざ争うメリットもない。それにサハール王国は、ボンジョール王国から格安で食料を卸してもらっている。ボンジョール王国は帝国方面に軍備を割きたいし、食料は豊富にあるから多少サハール王国との取引で損が出ても、軍隊を国境に多数配置することに比べたら安上がりだしな。
それと特段の事情がない限り、長子が王位を継承するのが一般的なので、第一王子の保守派が優勢だという。
「そこで革新派は帝国と手を組むことにしたんだ。帝国とサハール王国でボンジョール王国を挟み撃ちにしようってわけだ。一緒になってボンジョール王国を落としたら、分け前をやるってな。普通に考えたら、そんなことに賛成する奴はほとんどいない」
「帝国がよくやる手だ。周辺国もそうだが、東大陸でもやろうとしていたらしいぜ」
「帝国はまだ分かりやすくていい。欲望剥き出しだからな。そんなことを声高らかに主張しても、誰も耳を貸さない。だから革新派は、聖神教会を利用することにした。神がどうの、教えがどうのと言って、信者を増やし、富を独占している悪のボンジョール王国を打ち倒そうってな。
最近、聖神教会の奴等が多く入って来やがった。資金は豊富にあるようだし、何か良からぬことでもやっていると思うんだ。俺に言わせれば、ボンジョール王国に攻め込む前に、神の力で砂漠を森にでも変えてみろって思うがな」
「聖神教会と神の教えは、まるで侵略の道具だな」
「そのとおりだ。噂だが、ボンジョール王国がスニア派を粛清したのを根に持っているってのもあるしな。それでどうにかしてボンジョール王国を落とそうとしているのかもしれん。ボンジョール王国が厚遇しているカルタン派は、細々と孤児院や治療院を運営する奴等だから、儲けにならなそうだしな」
そんな話が続いた。この国にも帝国や教会の魔の手が忍び寄っていることだけは分かった。俺たちが運んだキシサ草だが、商業ギルドからの依頼だそうだ。商業ギルドに行かないと分からないが、ミケの話では、すぐには教えてくれないし、聞くこと自体怪しまれるとのことだったので、俺たちはクリスタリブレ号に戻ることにした。
船には待機させていた水夫とセガスがいた。セガスにギルマスからの情報を伝える。
「間違いなく、良からぬことを画策してますね。保守派と革新派か・・・そちら方面からも情報を取るように指示しておきます。もうそろそろ、みんな帰ってくる頃なので、一旦情報を整理しましょう」
諜報員たちが帰還し、情報を精査したところ、キシサ草は商業ギルドから第二王子のお抱えの商会の手に渡ったそうだ。セガスが諜報員たちに指示をする。
「以後は任務通りに行動し、麻薬工場を突き止めなさい」
諜報員たちは船から降りて夜の町に消えて行った。
3日後、俺たちはゾロタス聖神国の聖都ラトゥスへ向けて、バクールを出港した。
★★★
ラトゥスの冒険者ギルドを訪れるとレイチェルさんも待機していた。すぐに応接室に案内され、ギルマスに早速、依頼達成の報告と幽霊船の状況報告を行う。
「幽霊船は海賊団だ。それも1隻じゃなかった。討伐するには1隻じゃ難しい。以来内容に重大な誤りがある。よって、規定により抗議する。それで依頼失敗と判断するならこっちも考えがあるぞ」
いきなりのことでギルマスも狼狽える。
「そこはまあ、穏便にな・・・依頼主もいることだし・・・例えばだが、依頼内容を調査依頼に変更とかの措置もできるが・・・どうだい、レイチェルさん?」
「分かりました。もう少し詳しく説明をいただけますか?」
俺はある程度、真実を交えながら、予め用意していた話を二人にした。そしてバクールのギルマスに預かった要望書を手渡す。
「今回は積荷輸送の依頼を優先したってわけだ。相手が海賊って分かれば、海軍の仕事だろ?海賊団一つ潰せないようじゃ、海軍は解散だな」
少し煽ってみた。
自分のところに責任が来ないと分かるとギルマスも擁護してくれる。
「船長殿の言う通りだ。とりあえずは持ち帰って検討したらどうだ?そろそろドッグ入りしていた戦艦も動かせるだろ?」
「そうですね。そうします」
3日後、冒険者ギルドから呼び出しがあり、再びギルマスとレイチェルさんとの話し合いに臨む。
「こちらで検討した結果、全額報酬は払うようにとのことでした。それで、新たに依頼して来いと言われまして・・・・」
レイチェルさんが持って来た依頼はコーカの実の輸送だった。流石にこれは受けることはできない。これもある程度予想していたので、角が立たない断り方をする。それにレイチェルさんも国や教会の悪事に気付いているから、頼みにくそうだしな。
「報酬の件はありがとうございます。でもこちらはバクールのギルドから商品の買い付け依頼を受けているので、積載量的にお受けすることはできません」
レイチェルさんは、少し表情が明るくなった。自分も麻薬製造の片棒を担ぐことにならなくて、ホッとしているようだ。
「それはそうですね。流石に無理には頼めませんからね。それで、もしよろしければ、海賊団の討伐に際して、相手戦力と討伐方法のアドバイスをいただけたらと思います。これは正式な国の依頼になりますので、情報料はお支払いします」
これは親切?ほぼ嘘の情報だが、タダで教えるつもりだったんだが、報酬が貰えるのなら貰っておこう。
「じゃあ、明日にでも報告書を用意しますよ」
俺が書いた報告書の内容はこうだ。
〇海賊団は3隻以上いて、大型艦もいた。
〇過剰戦力と思われるくらいの戦力を用意したほうが安全だろう。
〇相手も商売だから、スキャリー海峡で2~3ヶ月程、軍が駐留しいれば、干上がるから、無理にでも攻撃してくるだろう。
親父もお袋もエグいことを考える。
干上がるのは、海軍の方だからだ。軍を維持するには金も食料も必要だ。居るだけで損失が出る。それに比べて親父たちは、海賊でもないし、何もしなければ何の損害も出ない。何もしないで敵戦力を奪うなんて・・・実際、帝国相手にやってたしな。
次の日、俺達はラトゥスを出港する。
セガスの話では、ドッグが夜通し稼働していたそうだ。出撃準備だろう。
親父たちの罠に嵌っているともしらずに・・・敵ながら可哀そうになってくる。
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