96 砂漠の国へ
とうとう俺たちは魔王国を離れる。今生の別れになるわけではない。またすぐに戻って来る予定だ。
名残惜しいが、俺たちは依頼を受けているからな。砂漠の国サハール王国の港町バクールまでキシサ草を運ぶのだ。キシサ草自体はポーションや薬の材料になるので問題はないのだが、麻薬の原料として利用される可能性は非常に高い。
なので、魔王国からも依頼を受けた。それは諜報員の搬送だ。サハール王国でキシサ草がどのように利用のされるのかを調査するのだという。場合によっては工場を破壊することもあるそうだ。セガスが色々と指示していたが、聞かないことにした。だって怖いし、変なことに巻き込まれたら嫌だからな。
見送りには多くの者が来てくれた。魔王や俺の親父たち、ベイムにマロンも来てくれていた。親父たちと挨拶を交わす。
「元気でな。無理はするなよ」
「アトラちゃんをよろしくね」
カインとメアリーとも挨拶を交わす。大分打ち解けてくれた。
「また指導してください。ネルソン兄さん」
「無事に帰ってきたら、指導を受けてあげてもいいわ」
そして、俺たちは魔王国を旅立ち、サハール王国に向かった。
★★★
魔王国を出て3日後、俺はミケと船長室で話をしていた。
「キシサ草の輸送費も破格ニャ。絶対怪しいニャ」
「それはそうだ。だから諜報員を搬送しているんだろ?」
「そうニャ。これも破格の額ニャ。それだけでウハウハだニャ。でも利益相反にはならないのかニャ?」
一応ギルドの規定では、相反する依頼は受けられないことになっている。俺たちは受けたことはないが、傭兵としての依頼があったとき、敵対する双方の国から依頼を受けられないのと同じだ。
「物は考えようだ。俺たちは、ただキシサ草を運ぶだけ。そして諜報員を搬送するだけだ。両者が対立するなんて、誰が想像できるんだ?」
「ああ、船長がどんどんずる賢くなっているニャ。後は、幽霊船の討伐依頼はどうするニャ?」
「それも考えがある。依頼内容に重大な誤りがあると報告するんだ。『こっちは1隻だって聞いていたのに、艦隊だったとはどういうことだ?』とか言って、誤魔化す。嘘は言ってないだろ?」
「その作戦なら任せるニャ。満額はおろか、違約金もせしめてやるニャ」
「そこまではするな。依頼主はレイチェルさんだから、ある程度のところで止めておけ」
そんな話をしていたところ、水夫が呼びに来た。
「失礼します!!カーミラ王女が来られています!!」
どういうことだ?
俺はすぐに甲板に向かう。甲板には3騎の竜騎士が待機していた。カーミラ王女と護衛の竜騎士だ。
「魔王国はどうであった?」
「ええ、有意義でしたよ。間違っても魔王国と戦争してはいけませんよ。大変なことになりますよ」
俺は魔王国の現状、勇者と魔王との関係などを説明した。
「なんだと!!我らは教会に騙されていたのか・・・・」
「そうなんです。これも各国に報告していただければ助かるのですが」
「そうしよう。それと少し言いにくいのだが・・・船長殿、我とサギュラをこの船で雇ってくれないか?」
「はい?」
「実は、第一飛竜騎士隊の隊長を解任され、2年間の国外追放処分となったのだ・・・・」
カーミラ王女が言うには、度重なる国外での活動が問題視されたようだ。
1件1件はグレーでも、ここまで連続でやるとやり過ぎという意見が出たそうだ。
「グレーがいくら積み重なっても、王族でもある我を処分することはできん。だから、表向きは留学という形にしている。頭の固い連中を納得させるためにな。父上も『ちょっと世界を見てこい』というようなことを言っていたから、そんなに深刻に考えるな」
「分かりました。ここで断ったらデイドラが悲しみますからね。お受けします。
オイ!!個室を一つ空けろ!!カーミラ王女のために・・・・」
言いかけたところで遮られた。
「個室も必要ない。一水夫として雇ってくれたらそれでいい。それにここでは貴殿の部下だ。王女も必要ない。カーミラと呼んでくれ」
「分かったよ、カーミラ。それで流石に水夫扱いはできないから、航海士待遇で雇用しよう。ミケ契約書を準備してくれ」
「はいニャ!!給料は見習い航海士からスタートニャ!!」
カーミラはミケと契約を交わしたり、部下との別れを惜しんでいた。
しばらくして、カーミラは部下と最後の挨拶を交わしていた。
「今までご苦労だった。元気でやれよ。武運長久を祈る!!」
「こちらこそ、お世話になりました。隊長もお元気で!!」
「情報はすぐに伝えます。ご安心を!!」
そう言うと2騎の竜騎士は颯爽と飛び立った。
甲板では早速、サギュラとデイドラがイチャイチャしている。
それにしても竜騎士が2騎もいる軍艦って何気に凄い気がする。この船に単独で勝てるのは魔王専用艦の「シャイターンシャイニング号」くらいだろうな。でもやり方によってはいい勝負はできる。というか、戦う気はないんだけど。
★★★
カーミラとサギュラという新たな戦力を手に入れた俺たちは、砂漠の国サハール王国のバクールに寄港した。すぐに冒険者ギルドを尋ねた。依頼内容を伝えるとかなり驚かれた。
「幽霊船騒ぎで、ゾロタス聖神国からの交易はほぼストップしていたので・・・・」
「幽霊船の正体は海賊だった。しかも、1隻じゃなかったぞ。こっちは幽霊船の討伐依頼も受けていたから戦闘になったが、討伐はできないと判断して、こっちまで逃げて来たんだ。1隻と聞いていたから、受けたのにラトゥスのギルドには文句を言ってやる」
俺はワザと大きな声で言った。注目を集めるためだ。これで俺たちに興味を持った奴の中に教会とのパイプを持った奴がいるかもしれないからな。これはセガスの案だ。その中で怪しい奴等を尾行するみたいだ。
「それは申し訳ありません。とりあえず先に受取証をお渡しします。それでお手数をお掛けしますが、ギルマスと少しお話を・・・」
俺とミケがギルマスと会うことになり、後の乗員は酒場に繰り出させた。情報収集のためだ。
応接室に行くと、ターバンを巻いた大柄で日に焼けた男が出迎えてくれた。この男がギルマスで、ナザールというらしい。ギルマスは、興味深そうに俺たちの話を聞いていた。
「なるほどな、つまり幽霊船に偽装した海賊団ってわけか・・・それにしても流石は勇者様の船だ。ラトゥスに戻るなら、積荷の輸送を頼みたいんだが、受けてくれるか?かなり報酬はいいぞ」
「受けるよ。ついでだしな」
「それは有難い。それで、その艦隊を討伐するにはどうしたらいいんだ?」
「海賊団って分かってんだから、海軍が出張るのが筋だろう。俺の地元のクリスタ連邦国だったら、プライドにかけて討伐に行くからな」
「分かった。その内容で、ギルドからも要望書を出す。それも併せて持って行ってくれ。海軍が総力を挙げて海賊団を討伐できなかったら、笑い者だ。そうなりゃゾロタス聖神国の面目も丸潰れだ。儲けは減るが、俺はいい気味だと思うぜ。神だ、教えだとうるせえんだよ。禄でもないことしやがって」
このギルマスは何か恨みでもあるのか?
少し聞いてみるか。
「何か恨みでもあるのか?俺もあまり好きじゃないんだ。神に選ばれた勇者パーティーの船長が言うことではないと思うが・・・」
「時間があるなら話してやるよ。少し長い話にはなるがな・・・」
俺たちはギルマスの話を聞くことになる。
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