95 魔王国での日々
魔王国の王都サガットで、しばらく滞在することになった俺たちだが、乗員はそれぞれ別々で活動していた。まずはベイラだが、勇者砲やスクリューを中心に父親のベイムとともにクリスタリブレ号改造に取り組んでくれている。
今日はある程度成果が出たとのことで、みんなで成果を確認しに来た。
ベイムが説明を始める。
「結論から言うと、勇者砲の性能をこれ以上は上げることはできん。威力を上げようとすると発射可能弾数は減り、弾数を上げようとすれば威力が落ちる。どうしてもというなら、船ごと作りかえる必要がある。まあ、少し補強したから今のままでも30発は撃てる」
「ありがとう。それならそれでいいよ。アトラはどうだ?」
「この船には愛着があるから、僕もそれでいいよ」
「スクリューも同じだ。航行時間を多少延ばせた程度だ。今までどおり、丁寧に使ってくれ」
一通り確認したが、かなりのできだった。
「それはそうと、儂が一番感心したのは「七色の勇者砲」だ。師匠は失敗作だと言っているが、あれはあれで凄い技術だぞ。問題は使い方だ。魔道砲にするんじゃなくて、シールドにすればよかったんだ。なんたって、魔力の9割以上を飛散させるんだからな。それを元に魔法障壁に特化した3隻のシールド艦を建造中だ」
嬉しそうにベイムは建造中の軍艦を見せてくる。
更に超大型艦も見せてきた。
「こっちのでっかいのは、魔王様のために作った戦艦だ。10発しか撃てないが、主砲は勇者砲の3倍の威力、副砲は勇者砲の半分の威力だが、50発撃てるんだ。勇者砲に対抗して魔王砲と名付けたよ。更にツインスクリューで機動力も高い。これもすべてベイラのお陰だ。最後のピースが埋まったような気持ちだ。これで「シャイターンシャイニング号」という名前に負けない凄い船になったぞ」
ベイラも調子に乗って言う。
「そうなんス!!これならクリスタ連邦国の海軍が総攻撃しても上陸はさせれないッス!!それに今は竜騎士対策で対空砲に特化した戦艦も作っているッス!!魔王国は資源も豊富で技術も高いから技術者には天国ッス」
というか、なぜ魔王軍の強化をしているんだ?
魔王とは良好な関係を築いているが、それでも設定ではここに魔王を倒しに来たはずだが・・・
「ネルソンは、これを動かせる奴がいないと思っているんスか?それは大丈夫ッスよ。トーゴ様もアンヌ様も動かせるし、成長すればカイン様やメアリー様だって動かせるようになるッス。それに魔王様並みに魔力が強い奴が何人かいるらしんで、そいつらに砲撃手やスクリュー要員をやらせれば無敵ッス」
「それって魔王候補が何人もいるってことか?」
ベイムが答える。
「死に戻りをしないと魔王にはなれん。魔王になるために一か八か死ぬ奴もおらんし、魔王を作るために候補者を何人も殺すわけにいかんからな。まあ、戦争になれば別だろうが、今のところは魔王様だけの運用を考えているよ」
それって最強の海軍じゃないか!!これで陸軍も増強されたら・・・・
「それとだな。ベイラに聞いたアトラクターを改造すれば、戦車も作れるぞ。それに魔道砲を搭載してだな・・・」
「いいッスね。夢が広がるッス!!」
夢というか、悪夢だろ・・・・人族にとっては。
「あまり軍事目的に特化しないほうがいいんじゃないか?もっとアトラクターみたいなやつを作るとか」
「それはそうだな。魔王国は最低限防衛ができればいいからな。そうするよ」
なんとか、ヤバい開発は止めてくれそうだった。アトラはというと・・・・
「ちょっとこれは厳しいな・・・何とか勝つ方法は・・・」
「もう魔王と戦う必要はないんだぞ。もっと別の物を作ってもらえよ」
流石にシャイターンシャイニング号を盗めば勝てるとは言わなかった。
「勇者殿にシールドを作ってやったぞ。これなら魔力を込めれば自動で魔法障壁が張れて、大抵の攻撃は防げる。シールド艦を作るための試作品だがな」
これにはアトラも大喜びだ。見たところ普通のバックラーだが、試しにマルカが魔法を撃っても完全に防ぐことができた。マルカも使ってみると5回程で魔力切れを起こしてしまった。でも、念のために自分も欲しいということになり、10個程もらうことになった。
「よし!!これは「アトラシールド」と名付けよう。これなら魔王砲も防げるぞ」
例えそうでも、それをする勇気は俺にはない。
★★★
次の日はマルカの発表だった。
成果は死に戻りの地点登録を自在にできるようになったらしい。
「専門知識をいくら言っても分からないと思いますので、結論から言うと、聖神教会が登録した教会以外では地点登録できないように魔法陣に組み込んでいたんです。それを解除すれば、問題なくできました。しかし、今の時点では教会側に知られたくないので、しばらくはこのまま教会で地点登録をしていこうと思います」
それは妥当な意見だ。他にも研究は続けていたようだが、今のところは大きな成果はないようだ。
続いては、俺とアトラの成果を発表をする。
俺とアトラがやったのは、カインとメアリーの指導だ。親父たちから頼まれたからだ。当初は真面目で遠慮がちなカインと負けず嫌いで言うことを聞かないメアリーに苦労させられた。しかし、二人とも呑み込みがいいようで、教えたことをすぐに吸収する。だが、どうしても何か足りない気がした。そこで思い付いたのは、二人で1隻を操縦させることにした。
「お前たち!!俺とアトラの操船を見ておけよ」
俺は練習用の小型船にアトラと乗り込み、操縦する。二人とも操船スキルを持っているから、俺たちの凄さを理解してくれた。
「ネルソン兄さん、凄いよ!!」
「まあ、実力は認めましょう」
何度かやらせてみると、思い切りのいいメアリーを慎重なカインが支える形で上手く船を操れるようになった。そして今日、みんなにお披露目となったのだが、魔王海軍に協力してもらい、海上の追いかけっこをすることになった。相手は5隻でエリア指定をしているが、上手く逃げ切れている。
親父たちも褒めていた。
「短期間でかなり上達したな・・・ネルソンも兄としての威厳を保てたな」
「二人一組だったら、実戦で使えるかもしれないね。まだまだだけど」
訓練を終え、俺たちの元に帰ってきらカインとメアリーは誇らしげだった。親父とお袋に褒められている。後は二人で力を合わせてやっていけば、いい船乗りになるだろう。
魔王国の滞在はあっという間だった。楽しい時間は一瞬だ。
もうそろそろ、ここを出発しないといけない。名残惜しいが仕方がない。そう思いながら親父たちと、今日も盃を酌み交わす。
だって俺たちは勇者パーティーで、世界を救う使命があるからな・・・
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