94 勇者と魔王
食事は既に用意されていたようで、難しい話はとりあえず置いておいて料理を楽しむことになった。魔王国料理は特徴的で美味しかった。芋を使った料理が多く、ビッグサーモンなどの魚料理もあり、肉料理はひき肉料理が多かった。魔王が説明してくれる。
「魔王国は北国ですから、芋や保存の効く料理が主流ですね。後は強い火酒も名産です。私は果実水で割って飲んでますが、ドワーフの方は・・・」
ベイラとベイムが火酒をストレートでガブガブ飲んでいる。
「ベイラが、酒が飲めるくらい大きくなったなんて、嬉しいぞ」
「私も父さんと飲めて嬉しいッス」
アトラはというと芋料理を絶賛していた。
「この芋は凄く美味しいな。僕の領地でも作りたい」
「男爵芋ですね。これは功績のあった男爵が発見したものです。よろしければ、種芋をお渡ししますよ」
「もちろん貰うよ」
お腹も落ち着いてきたところで、俺は魔王に質問をする。
「ところで、要望って何ですか?」
「そうですね。大きく言えば教会やゾロタス聖神国の暴挙を止めてもらいたいということです。そのためにはそちらの持っている情報とこちらの持っている知識を擦り合わせる必要があると思います。一例ですが、死に戻りの研究もその一つです」
ここでマルカが会話に入ってくる。
「私も死に戻りの研究をしているので、凄く興味があります。今の課題は死に戻りの地点登録ですね。教会以外だと上手くいかないんですよね」
「じゃあ、少し話は逸れますが、魔王スケープ様の話をしましょう。ヒントにはなると思います。先程話したとおり、好き好んで死に戻りする人なんて、まずいません。その例外中の例外が魔王スケープ様なのです。スケープ様も最初は偶然亡くなられたそうです。それで魔王になられたのですが、丁度そのときに人族との戦争が勃発しました。人族の戦術は弱い種族を狙うというものでした。その種族の集落には人族も住んでいましたが、関係なく蹂躙されたそうです。
心を痛めたスケープ様は単身人族の部隊に突撃し、死ぬ間際まで暴れまくり、最後は自爆するという攻撃を繰り返したのです。その姿を見て、教会側は恐怖の魔王という見解を示し、逆に魔族の集落に住んでいた人族は女神と崇められる存在となったのです。教会にもスケープ様を信仰する者がいるのは、そういう背景があるのです」
スケープ派って、パウロの宗派だよな・・・
「相手にも「不死身の聖女」と呼ばれる存在がいて、お互いが自爆をやり合うという壮絶な戦場になったそうです。戦場で相まみえた二人ですが、いつしか友情が芽生えたそうです。そして停戦の話もするようになったそうです。結局、魔王国が西大陸の領土をすべて放棄して、北大陸に引き籠ることになりました。そもそも西大陸に領地を持つメリットがなかったのもありますが、人族がある程度の戦果がないと戦争を止められないというのもあったみたいですね。ただ、今となっては勇者が居れば魔族に勝てるという成功体験を与えてしまったのでしょうね」
本当に馬鹿だ。一体何が目的なんだ。
「人族からしたら、魔王国の高い技術と豊富な魔石が魅力的に映ったんでしょうね。それで停戦となった訳ですが、スケープ様と聖女との交流は続き、一緒に死に戻りの実験を繰り返したようです。特にこだわっていたのは、死に戻りの地点登録だったようです。聖女様が教会の言いなりだったのも、死に戻りの転送ポイントを握られていたからというのが理由です。友人の聖女様を何とかしてあげたかったんでしょうね。でも実験を繰り返すうちに感覚が麻痺してきて、少しおかしな言動をするようになったとの記載もありますが・・・」
魔王は当時の研究者の手記を見せてくれた。驚くべき内容だった。
「魔王様と聖女様がヤバすぎる。今日も実験で服毒自殺にするか、首吊りにするかで揉めて、結局二人で自爆してしまった。それにゾロタス聖神国で保険金詐欺をしようという話までしていた。本気なのか冗談なのか分からないところがまた怖い。研究が進んでいるだけにどうしていいか分からない」
しかし、マルカは興味を持っていた。
「じゃあ、これからすぐにでも研究者を紹介してください。難しいなら文献だけでも閲覧させてください」
「すぐに手配しますね」
マルカは呼ばれた研究者とともに会場を後にする。
「ところで、魔王スケープ様以後はどうなったのですか?」
「2回程攻めて来ました。しかし、2回とも撃退しています。海戦で陸に上げなければ、被害も少ないですからね。ただ、2回の戦いで、こちらの魔道砲の技術が人族に流出してしまいました。まだ、こちらの技術には及びませんが、今回の勇者さんは船を手に入れて活動をさせる計画だったので、セガスとアデーレにお世話係として勇者パーティーに加入してもらったのです」
すべてはここに繋がっているのか・・・・
つまり帝国にクリスタ連邦国に攻めてさせたのも海軍力が欲しかったからだ。帝国の大部隊をもってしても魔王国には上陸できないと考え、小回りの利くクリスタ連邦国の海軍に目を付けたんだろう。そうなると俺たちも利用されたということか。それで俺たち家族は離れ離れに・・・・
「トーゴさんたちがここに残ってくれた理由も分かったと思います。暗い話はこれくらいにして、せっかくですので、ご家族でお話をされてはどうでしょうか?」
★★★
俺は魔王に促され、親父たちのテーブルに向かう。そこにはアトラも居て、なぜかお袋に懐いていた。
「最近ネルソンが僕にしつこく絡んでくるんだ。お母さんから少し注意してくれないかなあ。着替えを覗かれたりするし・・・」
「それは困ったねえ。あの子は甘えん坊のかまってちゃんだからね。育て方を間違えたかねえ」
メアリーも続く。
「最低の兄貴ね。虫唾が走るわ」
アトラの所為でまた、家族からの信頼が下がってしまった。
「おい!!アトラ、嘘を吐くな!!この妄想女が!!」
「お母さん怖いよ。こんな感じでいつも怒ってくるんだ。それにこの前は『死んでくれ』って言われたからね」
「なんてことを言うんだ!!言っていいことと悪いことがあるよ」
「そうだぞネルソン。謝りなさい」
「それは悪かったよ・・・ごめん」
というか、何で俺が謝っているんだ!!
しかし、後の祭りで主導権はアトラにあるようだ。
「ネルソンのことは置いていおいて、スターシアお姉さんの結婚式について、教えてあげるよ。それはまさにサプライズだったんだからね」
それは俺が言う話だと思ったが、親父たちはアトラの話を真剣に聞いている。話が一段落したところで、俺も会話に入ろうとする。
「ところでクリスタリブレ号だけど、実は世界中に二つ名がいっぱいあってな・・・」
ここでもアトラが遮る。
「それは僕から話したほうがいいな!!今の船の名前はミラクルオブアトラ号でね。「クリスタの亡霊」ってのに由来があってね・・・」
これもアトラの独壇場だった。会話に入れない。これも親父たちは楽しそうに聞いている。
今度はアトラが会話に入ってこれない話題を話してやろうと思い、話が途切れたところで話題を変える。
「親父覚えているか?俺の7歳の誕生日のときに・・・・」
これは流石にアトラも入ってこれないだろう。
アトラを見ると少しつまらなさそうにしている。
「ネルソン!!アトラちゃんにも分かる話をしな!!可哀そうだろうが!!そんな空気の読めない男はモテないよ」
お袋に怒られた。
アトラが言う。
「じゃあ、軍艦で空を飛んだ話をしてあげよう。ネルソンもあのときは頑張ったからねえ」
「アトラちゃんは気遣いができるいい子ねえ。ネルソンにはもったいないよ」
どうしたら、そういう結論になるんだ!!
それから俺もアトラに分かる話題を提供する。デイドラの話や勇者砲の話、次第にみんなが集まって来る。
「それでコイツが「七色の勇者砲」で餓狼族の族長の息子に水をぶっ掛けて・・・・」
「あれはそういった作戦だって言っただろ!!僕がどれだけネルソンのことをフォローしているのか分かっているのか!!」
「父さん、また始まったッス。いつもあんな感じッス」
「まあ、仲がいいんだろ。今回の勇者がいい子でよかったよ」
「喧嘩するほど~何とかって言うからね~」
「どっちもどっちです」
何か俺たちを見て、笑われているような気がする。アトラにはムカついたが、宴会が終って見れば、みんなが仲良くなっていた。13年の時が嘘のように・・・
少しだけ、アトラに感謝した。
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