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93 魔王

 魔王国の王都サガットに着いた。町は栄えているようだ。人間もいるし、獣人もいる。インプやゴブリンも普通に生活をしているようだった。

 俺は親父に尋ねた。


「インプ、ゴブリン、コボルトは魔族領から逃げて来たって言わなかったか?」


「そうだな。昔は北大陸だけでなく、西大陸の一部も魔族領、つまり魔王国の領土だったらしい。そこをゾロタス聖神国の奴等が攻めて来て、ゴブリンたちが住んでいる集落を蹂躙したそうだ。それで散り散りになって逃げ、多くは魔王国の本土に逃げ込めたが、一部はドレイク領にもやって来たというわけだ。私もここに来るまでは、魔族は許せないと思っていたよ。多分、ゾロタス聖神国や聖神教会の印象操作の賜物だろうな」


「じゃあ、本当に借りを返さなきゃならないのはゾロタス聖神国や聖神教会ってことだな?」


「そうなるな。だが、今の世代はそんなことは覚えちゃいないだろうが・・・」


 魔族が非人道的な政策を取っているわけではないことが分かった。よく考えてみれば、親父たちが噂通りのヤバイ奴らに協力するわけないしな。


 そんな話をしている内に馬車で魔王城まで案内された。かなり大きな建物だが、無駄な装飾はされていない。機能性を追求した感じになっている。魔王城は直方体の建物だ。

 すぐに謁見の間に案内された。エレベーターと呼ばれる上昇して上の階まで運んでくれる箱に乗って移動する。ベイムの話によると魔王国は魔石が豊富に取れ、技術力も高いので、このような装置も日常的に使えるようだ。


 謁見の間の中央には褐色の肌の美少女が座っていた。アトラと同じくらいに見える年頃だ。


「皆さんこんにちは、一応魔王をさせてもらってますシャイターン族のリリス・シャイリシアです。魔王になってまだ100年にも満たない若輩者ですが、どうぞよろしくお願いします」


 魔王に似つかわしくない腰の低さと物腰の柔らかさ、それで100年近く魔王をしているのかという驚きで、一同が唖然となっていた。アトラ以外は・・・


「勇者のアトラ・ルースです。実は頼みがあるんだ。勇者砲を強化したいんだけど、いい技術者を紹介してくれないかな?ちょっと目的は言えないんだけどね。と思います」


 目的を言えない奴にそんなことをするお人好しはいないだろが!!

 それに目的が魔王討伐なんだから、そもそもの話、本人に頼む案件ではない。


「いいですよ。そちらのベイム技官が国一番の魔道砲の技術者ですから、通常業務に支障がない限りは協力させます。ベイム技官、いいですね?」


「もちろんです」


 って、いいのか!!


 アトラが嬉しそうにしているから、放っておこう。

 ふと、魔王の後ろに目をやるとクリスタリブレ号の船首に取り付けてある禍々しい女神像が祀られていた。気になって見詰めていると魔王が声を掛けてきた。


「ネルソンさん、気になりますか?こちらは魔王スケープ様です。伝説的な魔王で英雄でした」


「はい、クリスタリブレ号の船首に取り付ている女神像にそっくりです。腹を槍で貫かれ、両手を蛇、両足はワニ、首筋は虎に噛みつかれている斬新なデザインが・・・」


「言葉を濁さなくていいですよ。結構危ない人だったとも伝承に残されていますからね。それを含めて、魔王と勇者の関係について話をさせていただきます。多分、ネルソンさんたちが、聞いた話と全く違うと思いますので、質問があれば気軽にしてくださいね」


 そう言うと魔王は語り始めた。


「まずは魔王についてですが、これは勇者さんと同じ、死に戻りの能力を持った者が務めることになっています。まあ、名誉職みたいなものですね。イベントに参加したり、式典でスピーチをしたり・・・一応、書類の決裁などもしてますが、細かいことは文官の方にやってもらってますね。最近漸く仕事にも慣れてきたのですが・・・」


「ちょっと待ってください。勇者と同じ能力って?」


「ああ、そうでしたね。私たちシャイターン族の中には、死に戻りの能力が備わった者が生まれることが稀にあるのです。勇者さんもシャイターン族の血を引いているのではと思っています。所謂先祖返りってやつですね。だから、人族の中にも過去にそういった能力を持った者が生まれています」


 ここで一つの疑問が生まれた。


「ところでその能力って、どうやって分かるんですか?」


「それは実際に死んでみないと分かりません。そういう私も100年近く前に薬草取りに山に入ったところ、魔物に追われて逃げている途中で崖から転落して、死んでしまいました。でも気が付くと村の祭壇で寝ていたので、死に戻りの能力があると分かったんですよ。伝承ではシャイターン族にごく稀に発現するとありますが、実際はもっと多いのかもしれません。だって、普通に生きて、普通に死ねば、その能力を持っていても意味がありませんからね。それに魔王国では、それを調べるために手当たり次第に候補者を殺すなんてしませんからね。どっかの国のように・・・」


 一応、死に戻りの能力を持った者の特徴は、膨大な魔力を秘めているが、それを上手く使いこなすことができないという。これもアトラの特徴と一致する。


「まあ、シャイターン族は長命種なので、魔王職は適任だと言われてます。100年以上前の話をすると、かなり喜ばれますからね。魔王を務める動機付けみたいなものですね。それに100年に1人位は死に戻りの能力を持った者が不幸な事故で死ぬこともありますから、伝統になったのだと思います。偉そうに言ってますが、私も1回しか死んでませんからね」


 ここで馬鹿が無駄に張り合う。


「それなら僕の方が凄いな。なんたって僕は1000回以上死んでいるからね。100回を超えたくらいから数は分からなくなったけど、帝国には記録があるから、僕の凄さが分かると思うよ。そういった意味では僕が上ってことだね」


「正確には1万3458回です」


 マルカも余計なことを言うな!!

 魔王国の人がドン引きしているだろうが!!


 魔王も引き気味で話を続ける。


「そ、それでは勇者に話を移します。勇者は私たちの認識では、死に戻りの能力を持ち、人族領に生まれ、教会に認定された者のことで、これがかなり厄介なのです。人族はこの勇者を旗印に魔族領に攻め入って来るのです。そうなると当然戦争になります。魔王が不在の時期もあるのですが、多くの者が戦争で命を落とし、その中には死に戻りの能力を持った者も含まれるので、勇者が誕生すれば、必然的に魔王が生まれるというのは、そういうことです」


 つまり、魔王は人間が作り出したってことか・・・・


「そのような事情ですので、私たち魔族が勇者に警戒心を抱くのは当然ですよね?これまでの行動の結果から、危険は少ないと判断してここに来てもらったわけですが・・・」


「十分分かります。結局、俺たち人族は教会の奴等に騙されているっとことですね?それで、俺たちに何をお求めですか?」


「こちらからの要望はあります。でもせっかく来ていただいたので、食事でもしながらどうでしょうか?」


「魔王さんは気が利くなあ。グルメの僕を唸らせる料理を期待しているよ」


 本当に緊張感のないアトラだった。

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