92 13年前の真実
セガスは話を続ける。
「あの海戦のとき、私は帝国の諜報員として情報収集に当たっていました。そもそもが、帝国の侵略政策に危険を感じて、魔王国から帝国に潜入していたのですがね。そこで、偶々漂流しているトーゴ様や奥様たちを発見しました。私の部下は全員魔族側の人間だったので、保護することは容易でした。
衰弱が激しく、帝国領に着くまで皆様は、目を覚まされませんでした。意識が戻り、話を聞くとトーゴ様は、帝国で当時「クリスタの亡霊」と言われていたこの船の副船長で、奥様は船長ということが分かりました」
実は船長はお袋で、親父が副船長だ。領主は親父がやっているから勘違いされるが、船に乗ったときはこの方がしっくりくるらしく、そうしている。まあ、お袋が副船長なんてできないからな。
ここでまた馬鹿が余計なことを言う。
「奥さんが船長だったんだね!!だったら今日から僕が船長だ!!ネルソンは副船長にしてあげよう」
とんでもない雰囲気になったので、俺がアトラを遮る。
「馬鹿は無視してくれ。セガス、続きを」
アトラが「馬鹿とはなんだ!!」と言っていたが、みんな無視していた。
「それでは続きを。このまま捕虜として帝国に引き渡しても、戦争に利用されるだけだと思いましたので、一旦は身分を隠して、魔王国で保護することにしました。当然、ドレイク領に帰らせようと努力はしましたが、私も帝国の諜報員という身分がありますし、戦争中で危険を冒すことはできないので、断念しました。戦争が落ち着いたころに帰還を考えていたのですが・・・その・・・」
何か言いにくそうだな・・・
ここでお袋が発言する。
「カインとメアリーがデキちまったんだよ。それに産後の肥立ちが悪くてねえ。魔王国からドレイク領まで帰るのに幼い子供を連れて敵地を抜けて帰れないだろ?ベイムやマロンには帰れって言ったのに、旦那様や奥様の側を離れませんって言ってね・・・」
非常事態に何をやっているんだ!!と思ったが、弟と妹がいるので、それは止めにした。
セガスが続ける。
「カイン様もメアリー様も大きくなりまして、そろそろ帰還を考えていたところにアトラ様という勇者が誕生したのです。勇者の詳細については、ここでは話しませんが、魔王国にとっては、かなり危険なことだったのです。私はそちらの対策に追われていました。また皆さまは、トーゴ様を筆頭に魔王国の要職に就いておられたので、トーゴ様も『今帰ることはできない』と言われて、そのままズルズルと滞在を延ばされたのです」
因みに親父は領主の経験を生かして文官をまとめる文官長兼海軍参謀、お袋は海軍の提督、マロンは潜水指導員、ベイムは鍛冶師だそうだ。
親父が言う。
「ネルソンやスターシアには悪いとは思ったが、恩を受けた魔王国が危機のときに我々だけが帰ることはできん。それにまた同じような悲劇が世界中のどこかで起こらないとも限らないし、それがクリスタ連邦国かもしれない。すまなかった・・・・だが分かってほしい」
律儀で真面目な親父らしい。
「いいよ。俺も姉貴も生きててくれただけで有難いよ・・・」
「そうか・・・まあネルソンも大人になったってことで。ところでオネショは治ったのかい?」
「いつの話だよ!!」
空気の読めないお袋の発言で、セガスの話は、なんとなく終わった。
「ところでこれからどうするんだ?俺たちの活動は逐一報告してたんだろ?それなら、何でこんな大がかりなことをやったんだ?普通に遭遇したときに言ってくれればよかったのに・・・」
「それはそうですが・・・アンヌ様が『連戦連勝で調子に乗っているようだから、ちょっと鼻っ柱を折ってやろう』と言い出されまして・・・・お止めはしたんですが・・・」
やっぱりお袋は昔のままだ。本当に無茶苦茶だ。親父が居なければドレイク領はとうの昔に滅亡している。
「それで、今後なのですが、魔王様に謁見していただきます」
これに馬鹿が反応する。
「つまり魔王を討伐に行くんだね?でも、勇者砲を強化したいんだよな・・・さっきは防がれてショックだったから・・・そうだセガス!!魔王と知り合いなら勇者砲を強化できる技術者を紹介するように言ってよ。戦いはそれからだな」
「馬鹿!!「これから貴方を討伐するので、技術者を紹介してください」って言って、「はい、分かりました」っていうお人好しがどこにいるんだよ!!というか、魔王が復活したことにもっと驚けよ!!」
「馬鹿って言ったな!!魔王って、実はいい人かもしれないじゃないか!!」
「だったら、討伐しなくていいだろうが!!いい人なんだったら」
「また始まったッス」
「緊張感がないねえ~」
「スターシア様も苦労されますね」
また、変な雰囲気になった。
ここでカーミラ王女が言う。
「流石に我は魔王国には行けん。これで失礼する。このことは各国に報告しておく。もちろん帝国とゾロタス聖神国には、しないがな」
「カーミラ王女、本当にありがとうございました。ところで、そっちは大丈夫なんですか?」
「竜王国は、魔王国を国とは認めていない。だから公海扱いだ。苦しい言い訳だが、それで切り抜けられると思う」
「本当にありがとうございます。この借りは必ず」
「まあ、気にするな。借りを返したのはこっちのほうだ。では武運長久を祈る」
カーミラ王女と龍騎士たちは去って行った。残念そうにカインが言う。
「僕も乗りたかったな・・・」
「だったらデイドラに乗せてやるよ。いいだろ?デイドラ」
「キュー!!」
メアリーが言う。
「別に私は乗せてほしいとは思わないけど、カインが一緒に乗ってほしいというのなら乗ってあげなくもないわ」
「分かったよ。一緒に乗ってくれよ。それでいいだろ?」
「まあ、そこまで言うなら・・・」
なんかメアリーは素直じゃないけど、カインは思ったより大人だ。
★★★
感動の再会を果たした後、俺たちは魔王国に向かった。親父とベイムとマロンはクリスタリブレ号に乗船し、お袋とカインとメアリーは自分の船に戻った。アトラとマルカは幽霊船に乗りたいと言い出したので、乗船させることにした。
甲板では、ベイラがベイムにしきりに魔道砲について、話を聞いている。
「魔族の技術がないと主砲は強化できないって言われたッス。ドワーフの里で父さんの師匠からも聞いたんスけど・・・」
「あれはな、特殊部隊の長官に色々と教えてもらったんだ。彼も最初は技術者だったけど、修行を途中で止めたみたいで、うろ覚えの知識と持っていた指南書から何とか読み解いて作ったから、未完成なんだ。今ならもっと強化できるかもしれんが、魔王国に着いてからだな」
「はいッス!!一緒に強化するッス!!」
ベイラは嬉しそうだ。
ここにセガスが会話に入る。
「少しクーズマのことで聞きたいのですが、奴とはどういう関係ですか?」
ベイムが言う。
「クーズマ?長官のことか?なんか、魔王国から事情があって逃げて来たって言ってたな。ヤバい仕事をさせられそうになったって・・・昔のことだから良く覚えてないが、変な物でも作らされたのかな?ドレイク領の飲み会で仲良くなって、それからの付き合いだが・・・」
「正直に言いますが、クーズマは私の弟子でした。当時、私は諜報員を養成するセクションの教官をしていたのですが、訓練の厳しさに耐え切れず、逃げ出したのです。その前は鍛冶職人の修行が嫌で私の所に転がり込んで来たのにですよ。ずっと捜していたのに・・・」
長官は凄そうに見えて、意外に駄目な奴かもしれない。でもフォローしておくか。
「でも長官は女王陛下に信頼されてますし、結構頑張っていると思いますよ」
「ネルソン様、そういえば、クーズマは私のことを何と言っていたのですか?」
「何か集団で不意打ちを喰らわせれば何とかなる的なことを言っていたような・・・でもかなりヤバいって言ってたけど・・・」
今までにないぐらいセガスから殺気が出ている。これは言わないほうがよかったかな・・・・
「それが師匠に対する態度ですか!!あれだけ、目を掛けてやったのに!!次に会ったらお仕置きですね。昔から逃げ足だけは天下一品でしたからね」
多分、それが逃げ出した原因だ!!とは言わなかった。
俺は心の中で長官に深く謝罪した。
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