91 幽霊船 3
竜騎士隊が現れたことで戦況は五分に戻った。
3騎の竜騎士が甲板に降り立った。カーミラ王女と護衛の竜騎士だ。
「船長殿、サギュラが騒ぎ出したので慌てて来てみたら、状況は分からんが、酷いことになっているな」
デイドラの危機ということで、サギュラさんがここに来るように騒いだらしい。
「お礼を言います、カーミラ王女。ちょっと下手を打ってしまいました。まあ、簡単に言うと、敵の策略に引っ掛かり、乗員に裏切られたって感じですかね」
「それで、あの3隻が幽霊船か?それを倒せばいいのだな?」
「それはそうですが、対空兵器も持っていますから、かなり手強いですよ」
「臨むところだ」
俺はリュドミラに拡声の魔道具を持って来させて、幽霊船に勧告した。
「おい!!竜騎士が来たからもう無理だ!!諦めろ!!」
「やってみないと分からないだろうが!!」
「そっちはそれでいいかもしれないが、2隻の小型艦ぐらいは潰せるぞ!!そっちの身内だろ?」
「なんて酷いことを言うんだ!!誰に育てられたら、そんなひねくれた奴になるんだ!!」
「幽霊女にそんなことを言われる筋合いはない!!だったら名を名乗れ!!」
幽霊女と口喧嘩をして思ったが、一体俺は何をしているのだろうか?
それにこの状況はなんだ?カオス過ぎる・・・
そんなとき、同じくパニックになっているヤバい奴が叫び出す。
「一体僕にどうしろって言うんだ!?死ねばいいのか?それとも爆発すればいいのか?」
どっちも駄目だろ!!
「おい!!幽霊女!!こっちの勇者様が爆発するって言っているぞ!!頼むから降伏してくれ!!こっちも、そっちもタダじゃすまないぞ!!」
「降伏するのはお前のほうだ!!」
「分かった降伏するから、勇者は丁重に扱えよ!!」
これにアトラがキレる。
「駄目だネルソン!!勇者に負けは許されない!!このまま死ぬよ」
「おい!!落ち着けアトラ!!幽霊女は俺が説得するから・・・」
言いかけたところで、リュドミラが拡声の魔道具を奪い取り、幽霊船に向かって叫ぶ。
「アンヌ様!!トーゴ様!!悪ふざけはもう止めてください!!何が目的なんですか?親子で喧嘩して・・・本当に・・・生きていたなんて・・・」
アンヌ・・・トーゴ・・・お袋・・・親父・・・
「分かったよ!!全員武装解除!!ネルソン、リュドミラ、ベイラ、それにミケ、みんな久しぶりだね。もちろんトーゴも無事だよ!!」
どういうことだ?
まさか生き返ったのか?
思考が追い付かない・・・・
★★★
結局、戦闘は引き分けということにして、五分と五分の交渉に入ることになった。親父とお袋が船に乗り込んでくる。その中にはベイラの親父さんのベイムもいた。俺より先にベイラがベイムに抱き着いた。
「父さん!!会いたかったッス!!何で生きていることを言ってくれなかったんスか?」
「ベイラも大きくなったな。こっちも事情があってな。詳しくは旦那様と奥様が話される。それにしても、いい腕だな。それに大切に使ってくれて有難い。この船には思い入れがあるからな」
「当たり前ッス。父さんの形見と思って大切に整備してきたッス」
ベイラたちが感動の再会を果たしている中で、俺たち親子は気不味い雰囲気だった。知らなかったとはいえ、あれだけ喧嘩をした後だ。何から話していいか分からない。
「それで、何から話したらいい?」
「全部だよ、母さん。俺も姉貴も心配していたんだから・・・」
これに親父が口を挟む。
「それは、すまなかったと思っている。まずは新しい家族の紹介からだ。カイン、メアリー、お兄さんに挨拶しなさい」
「カインです。ネルソン兄さん」
「メアリーよ」
「実はこっちに来てできた子なんだ。双子だ」
二人とも黒髪黒目、カインは優しそうな感じが姉貴に似ている。メアリーは美少女だが、気が強そうだ。12~13歳に見える。勇者パーティ―の活動を始めて約3年、戦争が13年前だから、それぐらいの年齢になってもおかしくはないか・・・
「ネルソン、お前も挨拶しなさい」
「ネルソンだ。その・・・よろしく・・・」
「何を恥ずかしがっているんだ。兄貴だろ!!もう甘ったれの末っ子じゃないんだ」
「うるさいババア!!」
「ああ・・・あんなに可愛かったネルソンがひねくれちまった・・・」
親父が言う。
「二人ともその辺にしときなさい。アンヌもからかうな!!ネルソンも挑発に乗るんじゃない。アンヌの性格は分かっているだろ?素直じゃないんだ。それではまず、どうして私たちがここにいるかということだが・・・・」
こういうとき親父は冷静だ。お袋とは全く違う。この二人が結婚したのが不思議で仕方がない。まあ、今言っても仕方ない話だが・・・・
親父の説明によると帝国との最終決戦となったドール海海戦では、本当に危機的な状況だったらしい。親父たちも魔力が尽き、もうスクリューは回せない状態だったそうだ。そのとき、敵の大将が乗っている旗艦を見付けた。この船さえ沈めれば戦況は大きく変わる。そう思った親父たちは、開発したスクリュー付きのボートに乗り込んだ。ボート程度ならスクリューを回せるからな。
当初は親父だけで行くはずだったが、お袋も志願した。それにベイムの親父さんも「新型のボートに不具合が出たらどうする?技術者がいないとトラブルに対処できんぞ」と言って参加した。そして、マーマンのマロンという男性乗員も・・・
リュドミラが言う。
「あのとき、私も志願しましたが、奥様に『誰がクリスタリブレ号をスパイシアにつれて帰るんだ?それに死ぬつもりはないからね』と言われて・・・マロンも本当によかった・・・」
リュドミラもマーマンのマロンとの再会を喜んでいる。このマロンとその部下は水中でザドラとデイドラと互角の戦いをしていたらしい。無口だが、手練れのようだ。
「話を元に戻すと、私たちの作戦は成功した。敵旗艦を沈めることができた。それで相手は総崩れだ。そして、全速力で離脱することになったスクリューは持ちこたえたが、船体が持たなかった・・・戦場を抜けたところで大破だ」
話に聞き入っていたアトラが意味不明な質問をする。
「それで?それで?じゃあ、死んだのかい?」
死んだらここにいないだろうが!!それに冒険譚を話してるんじゃないんだぞ!!
「勇者さんは面白いな・・・それから漂流していたところをそこに居るセガスに助けられた。それで魔族領で暮らすことになったんだ。後はセガス長官に話してもらったほうがいいだろう」
セガスに注目が集まる。
「まず、話に入る前にネルソン様をはじめ乗員の皆さんにお詫び申し上げます。騙していて申し訳ない。実は私は魔王国のスパイなのです。そして帝国の諜報員でもあります。所謂二重スパイというやつですね」
ヤバい奴と思っていたが、そこまでとは想像もできなかった。
「ウチの長官も、もっとハッキリ言ってくれればよかったのに・・・・」
ここでセガスの表情が変わる。
「長官?誰ですかそれは?」
「ああ、クリスタ連邦国の特殊部隊の長官だよ。名前も分からない謎の男だ。見たことあるだろ?」
「あの馬鹿弟子のことですか・・・・まあクーズマのことはこの際、置いておきましょう」
弟子って・・・一体どういうことなんだ?
ただ、今はそれよりも、もっと大事なことがある。
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