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90 幽霊船 2

 相当厄介な相手だ。ザドラの報告では、スクリューも付いているようだった。


「スクリューも付いているのか・・・だが、こっちにはアトラが居るからスピードでは負けない」


 リュドミラが言う。


「問題は相手がどういう風な作戦で来るかですね。艦の能力は互角ということになれば、後は船長のスキルと戦術の勝負になりますね」


「ああ、次は相手に仕掛けさせよう。こっちの手の内ばかり晒すのは癪だしな」


 それからは小型の魔道砲での牽制に留め、様子を窺うことにした。

 すると幽霊船は予想外の行動に出る。いきなり反転して、逃走を始めた。


「まあ、今日のところはこの辺で勘弁してあげるよ。後、アンタらの積んでいるのは麻薬の原料だからね。無事に麻薬工場まで運べるといいね。薬中勇者さん!!それじゃあね」


 これにキレたのはアトラだ。


「なんだと!!追いかけろ!!ネルソン、何をしている!!」


「分かったよ。追いかけっこに付き合ってやるよ」


 俺は幽霊船を追いかけて、船を進める。かなり本気でスクリューを回しても追いつかない。アトラが怒る。


「何をしてるんだ!!僕に代われ!!」


「いいけど、無理するなよ」


 アトラにスクリュ―を任せ、俺は操船に集中する。差は徐々に詰まって来た。

 ここでリュドミラが叫ぶ。


「間もなく魔族領の海域に入ります。この付近の海域は調査してません。危険です」


「分かった。危険になったらすぐに中止する。それまではこのまま追うぞ。それに高速でスクリューを回しながら、魔法障壁を張るのはまず無理だ。魔道砲で牽制しろ」


 しかし、魔法障壁を展開して防いでいる。


「だったら、これはどうだ?アトラ、勇者砲を撃ち込んでやれ。俺でもこの距離を維持することはできる」


「分かったよ。勇者砲発射!!」


 これも駄目だった。上手く勇者砲を弾いている。

 リュドミラが言う。


「まるで操船スキルを持った船長が二人いるようですね・・・こんなことができるのは・・・」


 そんなときに警告音が鳴り響く。


「船長!!スクリューが悲鳴を上げているッス。追跡中止を進言するッス!!」


「仕方ない。マストを張れ!!追跡を中止する。相手がどんな奴か分かっただけでも、今回は良しとしよう」


 俺も船員も極度の緊張で気が抜けていたのだろう。後方を見るとラトゥスからつけて来た2隻の小型船が後方に張り付いていた。それに幽霊船が反転してこっちに向かってきている。

 リュドミラが言う。


「戦術的には相手が一枚上手でしたね。1対1では分が悪いと考えて、集団戦に持ち込む。それにこちらのスクリューが限界を迎えたの見計らって攻勢に出る」


「そんなことは分かっているよ。負けは負けだが、終わっちゃいないぜ。こっちにはまだ秘密兵器があるからな」


 そんなことを話していると幽霊船から降伏勧告を受けた。


「大人しく投降しろ!!命だけは助けてやる」


「少し待ってくれ!!考えたい!!」


「何をふざけたことを!!乗員の命を守るのが船長の使命だろうが!!」


「幽霊に船長の道を説かれたくないぞ!!」


 そんな話をしているところで、俺はアトラに言った。


「すまない、アトラ・・・・死んでくれ・・・」



 ★★★


「ネルソン!!僕に死ねってどういうことだ?」


「事情は説明する。俺だってやりたくないが・・・・」


 俺が考えたのは、アトラの能力、死に戻りを使うことだ。どうも教会の奴等が信用できなかったので、転送場所をウエストエンド港に設定している。ここでアトラたちに死んでもらえれば、なんとか逃げ出せる。帝国や教会並みに非人道的な決断だが、乗員を守るにはこれしかない。


「分かったよ・・・死んであげるよ。ただ、この埋め合わせはしてもらうからな。ディナーの1回2回じゃ許さないからな・・・」


 これにはデイジーたちも了承してくれた。


「船長殿の決断を支持する。今更、1回や2回死んだところで、何も変わらん」

「痛いけど、我慢するよ」

「この使い方は今までで一番効果的ですね。戦術的な使用法の研究もしたほうがいいですね」


 俺はベイラに尋ねる。


「スクリューの方はどうだ?」


「無理をすれば、しばらくは動くッス。でも1時間はクールダウンさせたいッスね。無理して回した場合は、多分ラトゥスまではもたないッス」


 本当はアトラを殺したくはないからな。


 そんなとき、また幽霊船から声がする。


「いつまで待たせるんだ!!優柔不断な男は嫌われるよ」


「後少し、10分だけ待ってくれ・・・積荷も捨てるから」


「10分だけだよ!!」


 よし!!気乗りはしないが、やるしかない。


「すまんアトラ、デイジー、ニコラス、マルカ・・・お前たちの死は無駄にしない」


「船長殿!!もう会えなくなる感じは必要ないと思うぞ。謝罪の気持ちは十分伝わっているしな」


 デイジーにツッコミを入れられた。


 そんなとき、首筋に冷たい感触がよぎった。ナイフを突きつけられている。後ろを見るとセガスだった。


「自殺は止めてください。大人しく降伏することを提案します。勇者パーティーの皆さん、くれぐれも早まることのないように。ネルソン様がどうなっても知りませんよ」


 思考が追い付かない。


「俺のことは気にするな。乗員の命の為なら、俺が犠牲になってもいい。デイジー、すぐにやれ!!」


 デイジーが苦渋の表情を浮かべ、アトラに手を掛けようとしたところで、アデーレが叫ぶ。マルカを羽交い絞めにし、ナイフを突き立てている。


「マルカ様を拘束しました。ここで貴方たちが死んでも、何にもなりませんよ」


「リュドミラ!!気にせずにやれ!!この距離ならいくらセガスやアデーレでもまず躱せない」


 そんなとき、幽霊船から間の抜けた声がする。


「なんかお取込み中のようだねえ。リュドミラも大変だねえ。そんな馬鹿の副官をやってるなんてねえ」


 リュドミラが何かに気付いたような顔になる。そして言った。


「船長!!副官として降伏を進言します。多分、大丈夫です」


 なぜ、幽霊船の女はリュドミラを知っているんだ?リュドミラもそっち側か?

 だが、リュドミラを信じることにした。


「分かったよ。もういい・・・セガス、乗員の命だけは助けてくれるように言ってくれるか?」


「それはもちろんですが・・・・」


 言いかけたところで、奇跡は起きた。


 上空に10騎の竜騎士が現れた。

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