9 勇者の秘密
ロゴス出港から4日目、勇者による勇者パーティー惨殺事件が発生し、なぜかロゴスに転移した俺達だった。
セガスが言う。
「これが勇者の能力なのです。つまり、勇者パーティーが全滅した時点で地点登録した教会に自動的に転移されるのです。今回無理を言って、船首に邪神・・・女神像を設置させてもらったのも、勇者パーティーの所有物として、私たちが「神の奇跡」と呼んでいるものに認識させるためだったのです。マルカ様もこの研究に携わっており、女神像内部には高度の魔法陣が刻まれているのです」
何となく話は分かったけど、今、邪神って言いかけたよな?
どう見ても女神には見えないからな。
「聖神教会の古い伝承には、その昔「不死身の聖女」という女性がおり、魔王を討ち倒したそうです。その者は名前のとおり、なぜか死んでも生き返る特殊な体質を持っていたそうです。長年の研究の結果、仮説ですが、そういった者は魔王が復活したときに現われるようでした。アトラ様が誕生したことで、魔王復活の可能性が高まったということです」
「おいおい、ちょっと待て!!魔王復活が確認されたわけじゃないのか?」
「そのとおりですが、過去の資料等からも復活の可能性が非常に高いのです」
「頭がクラクラする。つまり、こういうことか?魔王が復活してないのに、復活したことにして魔族領を攻めようって話か?」
「そうですね。帝国式に言えば「やられたらやり返す。やられる前にやる。やられなくてもやる」ってことですかね・・・」
一同唖然としている。
「それに勇者って誰が言い出したんだ?アトラ達はただ、死んだら生き返るスキルを持っただけの奴じゃないのか?」
「そう言われればそうですが、聖神教会が勇者と言えば勇者なのですよ」
つまり、帝国は戦争を吹っかけたいだけじゃないか・・・・
「ここからは私の独り言と思って聞いてください。勇者アトラ様の能力が判明したのは、10歳のときでした。アトラ様は今でこそ、ルース公爵家の令嬢ですが、当時はルース家に男子がいなかったので、男として育てられました。言葉遣いが変なのもその名残です。しかし10歳のとき、ルース公爵家に男の子が生まれてしまいました。使用人との間に生まれた子であったアトラ様は、一夜にして蔑まれ、邪魔者扱いです。
母君は既に亡くなられており、絶望したアトラ様は自ら命を・・・」
聞くに堪えない話だった。死んだと思ったアトラだったが、気が付いたら、洗礼を受けた教会に居たそうだ。教会関係者は文献を調べると「不死身の聖女」に行き着く。しばらくはそこで、人体実験を繰り返されたそうだ。
最終的にどうせなら勇者にしてしまおうということになったそうだ。好きにはなれないけど、アトラには少し同情する。
「ところで、他のメンバーはどうなんだ?そんなにその特異体質の奴はポンポン生まれるものなのか?」
「いい質問ですね。実は他の3人はアトラ様の能力を移譲する形で作られたのです。専門的な知識は持ち合わせていませんので、ざっくり言うと実験で生き残った者達ということでしょうか・・・・」
教会と研究者達は思ったそうだ。アトラの能力を他者に移譲することができれば、無敵の軍隊ができると。そこでアトラを殺し続け、データを取り、アトラの所有物という扱いであれば能力の移譲は可能だということが判明したそうだ。最初は物、馬車、船となり、次第に子犬や馬などの生物にも応用されることになったのだが・・・・・
「物や乗物については膨大なデータがありますから、安心してくださいね。皆さんは安全です」
一同、ホッとする。
って、ちょっと待て、それってその膨大なデータ分だけ、アトラは殺され続けたんじゃないのか?
「それで生き物については上手くいきませんでした。馬車に乗せた状態であれば、馬車に魔法陣を描いて、馬車の積載物として転移されることは確認できたのですがね。丁度みなさんと同じ状態ですね」
つまり、俺達はクリスタリブレ号の積載物ということなんだろう。
そこからは更に話はエグくなった。
「そんなとき、帝国軍の上層部が痺れを切らし、「とっと人間で実験しろ」と指令を出したのです。あまり口に出したくはありませんが、実験には孤児たちを使いました。多くの孤児たちが犠牲になったのです。そしてその中で生き残ったのがニコラス様です。現金なもので、教皇様はニコラス様を養子にしたのです。神に選ばられた子としてね。ニコラス様が普段、怯え切っているのは、そういう環境で育ったからです」
神というか、もう悪魔の所業だろうが!!
「当然そんなことをすれば、孤児たちも減って来て、世間にもバレてしまいます。それに勇者の仲間が孤児ばかりというのも如何ともしがたい。ということで、それなりの身分の者が選抜されました。当然、帝国貴族が子女を差し出すなんてしませんから、他国の人質となっていた者から選ばれました。それがデイジー様です」
国を奪われ、民の為に命を捧げた結果がこれか・・・・神って本当にいるのか?
「後はマルカ様ですが、少々特殊でして・・・自ら志願されました。マッドサイエンティストというのでしょうか。研究のためなら後のことはどうでもよくなる方ですので、体に魔法陣を彫るときには、自ら技術者に指導されたそうです。普通は背中に彫るのですが、見えないからという理由でマルカ様だけ、お腹に彫られています」
普通じゃないとは思っていたが、もしかしたら一番ヤバい奴かもしれないな。
「これで最強の軍隊ができると思ったのですが、何をどうしても人に対するアトラ様の能力の移譲は3人までだったのです。それに御三方の術式の解除はできなかったので、結局4人で活動することになったのです。それなりに能力はありますが、歴戦の兵士や冒険者には敵いません。死ぬほど訓練はされてはいますが」
言葉どおり、死ぬほどだろうな。
「事情は分かったよ。多分他国もこの情報は掴んでいると思うんだが、それなら誰か一人拉致しておいて、生かさず殺さず監禁しておけば、無力化できるんじゃないのか?それなら、行方不明ってことで何とでもなるだろ?」
「もう気付いてらっしゃると思いますが、そのために私とアデーレがいるのです。もちろんお守りするためではなく、確実に殺すためにね。ネルソン様を始めとした皆様が、帝国に恨みを持っていることは当然知っています。くれぐれも短絡的な行動を取らないようにしてもらいたいものです」
そういうことか・・・セガスやアデーレのほうが手練れだと思ってたんだ。
「一つ聞くが、アンタ程の手練れがどうして帝国に従ってんだ?」
「詳しくは言えませんが、そうせざる得ない理由があるのですよ」
一同押し黙ったところで、ザドラが声を荒げる。
「同情の余地もあるし、事情も分かった。でもな、この血塗れの甲板はどうしてくれんだ?みんなで必死に磨き上げたんだけどな!!」
これにはアデーレが反応する。
「私が綺麗にして差し上げます」
しばらくすると、血塗れの甲板がピカピカになっていた。これなら、他の部屋も頼もうかと思うくらいだ。作業を終えたアデーレが言う。
「これでも前職の時は、「困ったときのお掃除屋さん」って呼ばれてたんですよ」
それって別の意味だろ?
これなら、証拠も残らないだろうな。
そんな話をしていたところ、勇者パーティーが船に帰って来た。
そして開口一番、勇者は言った。
「いやあ、ネックレスはポケットに入ってたなんて、びっくりだね。灯台もと暗しとはよく言ったものだね。というか、早く出発しないと期日までに間に合わないよ。間に合わなかったら責任問題だからね」
少し同情していたが、やっぱりクズだ。
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