89 幽霊船
いよいよ、積荷を積み込み出発する。
出発に先立ち、大々的にセレモニーが行われた。建前としてはギルドの依頼で、西大陸最南端の砂漠の国サハール王国にポーションの原料となるキシサ草を届けるというものだった。ギルマスがスピーチを始める。
「勇者様は最近出没した新手の海賊に悩まされている俺たちの代わりに積荷の輸送をしてくれる。そのときに海賊が出てくれば、返り討ちにしてくれるそうだ・・・」
幽霊船と言わないところは国側への配慮だろう。
心配そうなレイチェルさんたちの見送りを受けて俺たちはスキャリー海峡に向かった。一応周囲を見張らせていたが、分かりやすく獲物を狙っているような奴はいなかった。
しばらくして、見張りのインプから報告が入る。
「船長!!2隻の小型艦がつけて来ているかもしれません」
「了解!!ちょっとからかってみるか・・・」
少しスピードを上げたり、落としたり、急に進路を変えたりしたが、ついて来ていた。それなりに操船の技術はあるようだ。
「どうだリュドミラ、アイツらの腕は?」
「まあまあと言ったところでしょうね。センスはあるようですが、経験が足りない感じがしますね」
「俺もそう思う。多分幽霊船の関係者だとは思うが、戦闘には参加しないんだろう。アイツらをとっちめても白を切られるだけだろうからな」
一応ハープに偵察を頼む。
帰って来たハープから報告を聞く。
「2隻とも子供が操縦していたよ~男の子と女の子~貴族っぽい服を着てた~」
「どういうことだ?」
リュドミラが言う。
「もしかしたら、どこかの貴族が興味本位でついてきているのかもしれませんね。わがままな子供たちのお遊びに付き合って・・・」
「なら、トラブルを起こすのもあれだから、無視しよう。どっちにせよ、あまり戦力にはならなそうだしな。それなりに武装はしているようだけど」
2日後、スキャリー海峡に到着した。
2隻の小型艦はまだついてきていた。しばらくして、風が弱くなり、霧が出てきた。そろそろ出て来るころじゃないのか?
「総員警戒体制を取れ!!幽霊船が来るかもしれんからな」
緊張が走る。一応、動力は風力のままだが、いつでもスクリューに切り替えられるようにはしている。そして霧は深くなる。そしてとうとう現れた。
クリスタリブレ号と同じ大きさで、ボロボロのマスト、薄汚れた船体の中型艦が現れた。泥や海藻で偽装しているが、手入れはされているように見える。幽霊船に見えるような演出だろうな。
しばらくして、幽霊船から声が響き渡る。苦しそうな女の声だ。
「帰れ・・・立ち去れ・・・積荷をすべて海に捨てろ・・・お前らが運んでいる積荷の所為で、私は死んだ・・・そうしないと沈めてやる・・・」
凝った演出だ。俺はアトラに指示をする。
幽霊船との交渉の仕方なんて習ってないからな。
「よし!!木っ端微塵だ!!勇者砲発射!!」
アトラは2連発で勇者砲を発射した。先手必勝ってやつだ。たとえ海賊でも一応は投降を促す交渉はするが、相手も設定が幽霊なんだから文句は言えないだろう。
轟音を響かせて勇者砲から放たれたエネルギー弾が、幽霊船に飛んで行く。誰もが終わったと思ったとき、幽霊船に魔法障壁が展開され、エネルギー弾は弾かれて、上空に飛んで行った。
「僕の勇者砲が防がれるなんて・・・」
リュドミラが言う。
「上手いですね。勇者砲を受け止めるのではなく、逸らすような魔法障壁を張るとは・・・」
マルカも続く。
「乱戦では難しいですが、敵が1隻だけなら不可能ではないですね。ただ、相当の技量だと思います。帝国では、それ専門の技師がいるくらいですからね」
「じゃあ、本気で行くしかないってことだな?
マストを畳め!!スクリューに切り替える!!」
臨戦態勢に入った。
すぐに幽霊船から怒鳴り声が響く。
「いきなり撃ってくるなんてどういう神経してんだい!?親の顔が見てみたいよ!!」
「幽霊っていう設定が台無しだぞ!!そっちこそ、降参しろ!!今なら命だけは助けてやる」
「可愛くない坊やだね・・・ちょっとお仕置きしてあげるよ」
女の声が響く。もう、幽霊船の設定は止めたようだった。
すぐに相手からも魔道砲が発射される。主砲からの一撃だ。俺は魔法障壁を展開し、幽霊船がやったようにエネルギー弾を上空に逸らした。
「それくらい俺でもできるぞ!!沈められたくなかったら大人しく投降しろ!!」
「フン、生意気な!!」
俺はデイジーに指示をする。
「デイジーちょっと、上空から攻撃してやれ。こっちに竜騎士が居るなんて思わないだろうから、マストの1本でも折ってやれば、大人しくなるだろう」
「承知した。デイドラ!!」
デイドラに跨ったデイジーは幽霊船に目掛けて飛んで行く。その時、幽霊船からエネルギー弾が飛んで来た。確実に狙うのではなく、弾幕を張るような撃ち方だ。対空兵器まで持っているのか・・・これでは、デイジーたちが危険だ。竜騎士が後5騎でも、いてくれれば結果は違ったかもしれんが、このままでは、デイドラたちが撃ち落されてしまう。
俺は拡声の魔道具で叫ぶ。
「デイジー戻れ!!一旦帰還しろ!!」
すぐにデイジーたちは戻って来た。
「すまない船長」
「いいさ、敵が対空兵器まで持っているなんて予想外だ」
すぐに挑発するような女の声が響く。
「もう終わりかい?竜騎士なんて大したことないね」
「なんだと!!」
「キュー!!」
キレているデイジーとデイドラを宥める。
「挑発に乗るな。お前たちが脅威だから、煽って無力化しようとしているんだ。それにデイドラは空中戦だけじゃないしな。ザドラ、ちょっとビビらせてやれ」
「いいぜ!!アタイもデイドラが馬鹿にされて腹が立っているんだ。沈まない程度に穴を開けてやるよ」
ザドラはデイドラに乗り、海中に潜った。その間も海上では魔道砲を撃ち合う。2発程、勇者砲を放ったが、これも防がれた。まあでも、そろそろ水中で決着がつくだろう。
しばらくして、ザドラとデイドラが戻って来た。
「どうだ?やれたか?」
「すまないね・・・船底にはマーマンの1個分隊が居て、近付けなかった。こっちも対策されてる・・・」
どういうことだ?こっちの手の内が読まれている?
また、挑発するような女の声がする。
「こっちは幽霊だからね。アンタたちの考えていることは手に取るように分かるのさ」
これは相当厄介な敵に当たったな・・・・
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