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88 下準備

 話は大体分かったが、問題は如何にして幽霊船を討伐するかだ。

 俺はミケに指示をして、船から降ろし、陸地での調査をさせることにした。今回もアデーレが護衛を買って出てくれた。


「レイチェルさんは、ミケの調査を手伝ってくれませんか?」


「もちろんです」


 そして俺たちはというと、幽霊船の目撃情報の多い海域に来ていた。スキャリー海峡だ。

 ここから北に行けば北大陸、魔族領がある。うっすらとだが、北大陸が見える。ここに来たのは、幽霊船を討伐に来たからではない。海の様子を確認しに来ているのだ。


 相手は高性能艦で、この辺を主戦場にしている。今のままではこちらが完全に不利だ。もちろん、今出くわせば戦うことになるだろうが、相手は出てこないと予想している。資料によれば、積荷をすべて海に捨て、ラトゥスに引き返せば、それ以上は何もしないそうだ。それから考えると、相手は無駄な戦いをしたくないと考えているのだろう。商船が逃げ去った後、ゆっくり積荷を回収すればいいからな。


 航海士とともに細かくチェックをする。海流は特に激しくない。しかし、風向きがコロコロ変わるし、凪になることもある。それに霧もよく出る。一言で言うと船乗り泣かせだ。ここを自由自在に動き回るなんて、幽霊船と思われても仕方ないだろうな。

 それに霧が出ているときに出没することが多いようだった。ということは、この付近の海域を知り尽くしている。2~3日でどうにかなるものではないが、それでも初めての海域で戦うよりはいい。


 副官のリュドミラが言う。


「もしかしたら魔族領から来ている可能性もありますね。そうなれば、魔族と本格的に戦闘になるかもしれませんよ」


「なったらなったときだ。魔族も帝国や教会と同じで、禄でもない奴等なんだろうぜ」


 ここで珍しくセガスが会話に入って来た。


「船長は魔族に恨みでもあるのですか?」


「まだ会ったことはないけど、ウチのインプやゴブリンたちを追い出した馬鹿どもだろ?だったら、俺たちがその借りを返してやってもいいと思うぜ。アトラの勇者砲で木っ端微塵にしてやってもいい」


 甲板で、寝ぼけていたアトラが言う。


「これから魔族領に攻め入るんだね。よし!!殲滅だ!!」


「おい!!違う!!冷静になれ」


 主砲の砲手席に座ろうとするアトラを必死に止めた。


 5日程、その海域での調査を終えた俺たちは次の目的地に向かった。



 ★★★


 ここは竜王国の最西にあるウエストエンド港だ。ウエストエンド港にある竜騎士団の北部方面隊本部を訪ねた。目的は、各地に手紙を届けてもらうためだ。宛先はクリスタ連邦国、ボンジョール王国、竜王国、虎王国、海洋国アルジェットだ。帝国には届けず、代わりにゴースト宛てに出す。


 内容は、こんな感じだ。


 〇ゾロタス聖神国は国ぐるみで麻薬の原料をどこかに輸出していること

 〇それを幽霊船が掠め取っていること

 〇幽霊船は高性能の軍艦で、乗っている船乗りも、かなりレベルが高いこと


 カーミラ王女の名前を出したら、丁寧に応対してくれたので、問題ないだろう。


 用を済ませた俺たちはクリスタリブレ号に乗り、出発しようとしたところで、竜騎士が甲板に着陸した。なんとカーミラ王女だ。


「サギュラがどうしてもここに来たいと言ってな。そうか・・・そういうことか・・・」


「どういうことですか?」


「サギュラとデイドラは番ったのだろう。ドラゴンは番うとお互いが離れていても意思疎通ができると聞く。大陸の端から端まで、できたという記録もあるぐらいだ」


 もうそういう仲になったのか・・・


 ここでベイラが質問する。


「それって、浮気とかしたらどうなるんスか?」


「記録にはないが、サギュラの性格からして、デイドラの命はないだろうな。というか、まさかデイドラはそんなことを考えているのか?」


「キュー!!キュー!!」


 カーミラ王女とサギュラに睨まれ、デイドラは必死で否定の声を上げていた。


「ニコラス、通訳してやれ。デイドラが可哀そうだ」


「分かりました。デイドラは浮気なんかしてませんし、サギュラさん一筋だと言ってますよ。それにここに呼んだのは、どうもデイドラみたいです」


 このドラゴンは本当にちゃっかりしているな。


「分かったよ。デイドラ、サギュラさんとデートでもしてこい」


「キュー!!」


 デイドラは嬉しそうに鳴くとサギュラを連れて飛び立った。

 残されたカーミラ王女が言う。


「部下から報告を受けたが、危険な相手と戦うようだな?」


「そうですね。でも負けるつもりはありませんから」


「くれぐれも無事でいてくれよ。サギュラも悲しむからな。それに本当に危ないときは呼んでくれ。竜王国の基本理念を曲げてでも助けに行くからな」


「それは有難いですが・・・もしその理念を破ればどうなるんですか?」


「最悪は死罪だろう。まあ、破った者は、いないらしいからよく分からん」


「じゃあ、カーミラ王女が死罪になったら、俺も悲しいんで呼びませんよ」


「まあ、貴殿ならそう言うと思った」


 そこからは、滞在を1日延ばして、カーミラ王女とその護衛の竜騎士を交えて宴会をすることになった。少しの間だが得られた情報が大きく、その話を聞き、カーミラ王女も興奮する。


「本当に腐っておる。教会も教会だ。仮にも神の国を騙っているのなら、少しは考えればいいものを・・・幽霊船をそのままにしてもいいのではないのか?」


「そう思ったこともありましたが、幽霊船の奴等がそれで大儲けしようとしているかもしれませんからね。どちらにしても危ない船には違いありませんから、討伐は必要でしょうね」


「それはそうだな。だが、十分気を付けるんだぞ」




 宴会が終わり、そして俺たちは再びゾロタス聖神国の聖都ラトゥスに戻って来た。早速、ミケたちと合流し、報告を聞く。


「こちらで調査したらやっぱり、国が依頼していたことが分かったニャ。それでいい作戦を思い付いたニャ」


 ミケの説明によると、現在、原料を輸送してくれる商会がいなくて国も困っているようだった。レイチェルさんが捕捉する。


「国も大分焦っているようで、御用達ではない商会にも声を掛けるようになりました。報酬はいいのですが、船乗りたちの間では、幽霊船の話は有名で、まだ輸送する業者は決まってないようです」


「だったら、海軍が大艦隊を組んで、輸送したらいいんじゃないか?」


「それは無理ニャ。採算が合わないニャ。それで作戦の話に戻すけど、原料の輸送に私たちが名乗り出るのニャ。そうすれば、輸出先も分かるし一石二鳥ニャ」


 大体話は分かった。それにミケとしては儲かると思っているのだろう。


「だったらレイチェルさんに頼もうか。派手に宣伝してください」


 まあ、バリスの海賊団を討伐したときに使った手と同じなんだけどな。

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