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86 ゾロタス聖神国へ

 ウエストエンド港では、サギュラとデイドラが名残惜しそうにイチャついていた。

 カーミラ王女が言う。


「それでは勇者殿、船長殿、健闘を祈る。このウエストエンド港には竜騎士団の北部方面隊の本部もあるから何かあれば、そこを訪ねてほしい。連絡要員のワイバーン部隊も居るし、5騎程飛竜騎士団員も常駐しているからな。

 ここだけの話、ゾロタス聖神国はどうも信用ができん。昔から竜王国の仮想敵国は帝国とゾロタス聖神国だ。ここに兵力を割いているのも理由があるのだ」


「気遣い感謝いたします」


「サギュラクラスのドラゴンだと、ドラゴニアから2日でここまで来られるからな。任務が終わったら、ここに寄港して欲しい。サギュラもあんな感じだしな」


 カーミラ王女は仲睦まじいサギュラとデイドラを目を細めて見ている。


「デイドラ!!そろそろ行くぞ。女々しい男は嫌われるぞ!!」


「キュー!!」


 デイドラは抗議の声を上げる。



 それから3日後、俺たちはゾロタス聖神国の聖都ラトゥスに寄港した。ゾロタス聖神国は、宗教国家で国民生活も政治も、聖神教会の戒律によって定められているらしい。神の正しい教えに従えば、幸福になれるというのが建前だが、実際は教会の思うがままだ。統治体制は合議制を採用しているが、教皇が承認しなければ、法律などは作れないという。

 ラトゥスの中心には、それはそれは立派な大聖堂がある。さぞ儲けているのだろう。


 港で手続きを済ませると文官の女性がやって来た。眼鏡を掛けた茶髪の女性でレイチェルという。


「ようこそお越しくださいました。こちらでの滞在の間は、私がお世話をさせていただきます。早速ですが、教皇様にご挨拶をしていただきます」


「国に呼ばれたんだから、挨拶するとしたら大臣とか、代表者になるんじゃないんですか?」


「我が国は少々・・・いや、かなり特殊ですからね。そういうものだと思って納得していただければ、助かるのですが・・・・」


 ここでゴネても仕方がない。

 しかし、教会が牛耳っていることだけは分かった。


 レイチェルの案内で向かったのは、あの金ピカの大聖堂だ。大聖堂には多くの信者たちが集まっていた。勇者パーティーの4人が大聖堂に入ったところで、金ピカの衣装をまとった50代位の太った男が現れた。多分あれが教皇なのだろう。


「余はヨハネス・ポルトスである。遠路はるばるこの聖都に来てくれたことを嬉しく思う。ゆっくりと観光でもして行ってくれ。この地は神話に出て来る聖地が多くあるのだ。神の奇跡に触れ、勇者としての使命を再確認してほしい」


「それは凄いです。神話ってワクワクするな。何の神話か今から楽しみだ。と思います」


 討伐の話はしないのか?

 何か勇者が挨拶に来ただけ、みたいな感じの言い方だな。


「そしてニコラス。我が息子よ。本当に誇りに思うぞ。勇者パーティーとなっただけでなく、竜騎士になったそうだな。これからも精進するように」


 また、ニコラスは嘘の報告書を出したんだろう。デイジーとザドラが冷たい目で見ているし、ニコラスも引き攣った笑みを浮かべている。

 後でニコラスに聞いたが、教皇とは、一応養子縁組をしているが、会うのはこれが初めてだったらしい。


 教皇への挨拶はそれだけで終わった。

 レイチェルに尋ねる。


「俺たちは討伐依頼だと聞いて来たんですよ。なんか挨拶だけっていうのも・・・」


「そう思うのは当然ですよね。詳しく事情を話させていただきます。表向き、教会も国としても依頼はしていないことになっています。これから冒険者ギルドで依頼を受けてもらいますが、あくまでもこの地に来た恩返しというか、ついでにということでお願いします」


「言っている意味が分からないのですが?」


「つまり、幽霊船などいないと言うことです・・・・あっ・・失礼しました。順を追って説明します」


 レイチェルの話によると、幽霊船の被害は深刻らしい。

 かなりの痛手を負い、廃業に追い込まれる商会もあるようだった。なら、勇者パーティーに正式に討伐依頼を出しても問題ないように思えるのだが、この国では事情が違うらしい。


「神の国を名乗る我が国が、幽霊船ごとき対処できないことが問題なのです。本音を言うとそんなことは、どうでもいいので、早く対処してほしいと思います。しかし、一介の文官である私の意見など、通るはずありません。そんなことをしているから、多くの優秀な若者がこの国を離れて行っているのです・・・」


 そこからしばらくレイチェルの愚痴を聞くことになった。すべてが教会の言いなりで、効率的なことや自分たちが正しいと思うことができないそうだ。あまりに教会の方針に反対をすると異端審査に掛けられて、重罰を喰らうそうだ。

 帝国とは違ったヤバさがこの国にはある。


 そんな話をしているうちに冒険者ギルドに着いた。

 すぐに応接室に案内されて、ギルマスが応対してくれた。挨拶もそこそこにギルマスが依頼内容を話始める。


「依頼というのは、知っているとは思うが幽霊船の討伐だ。資料にも書いてあるが、この国の御用商人や教会御用達の商会の船ばかり狙われるんだ。漁船や細々とやっている商会なんかは襲われない。ここからは・・・レイチェルさん、話してもいいのかい?」


「構いません」


「じゃあ、続けるよ。これは推測だが、他国の船が幽霊船に偽装して何かやってるんじゃないかと睨んでいるんだ。そう考えると辻褄が合う。特定の商会の船ばかり狙うなんておかし過ぎる」


 ここで俺は疑問をぶつける。


「少し質問があるんだが、海軍が護衛に就くとか、方法があるだろ?それにその商会が、相手が欲しそうな積荷を積んでいるとか、そっち方面からの捜査はしているのか?」


「そう思うのも無理はない。まず護衛に就いた船は、恥ずかしいことにすべて撃沈されている。主力艦は軒並みドッグ入りだ。これは戦略的に拙かったんだが、当初は新手の海賊だろうということで、1隻や2隻で護衛していたんだが、それがいけなかった。戦力の逐次投入は何とやらってやつだ。今思えば大艦隊で討伐に向かっても、いいような性能らしい。これ以上の損害は出せないから、海軍は手を引いたのさ。詳しくは後で資料を見ながら説明するよ。

 それともう一つの質問だが、商人たちは全く協力しやがらねえ。何の積荷で、どこに持っていくのかもな・・・」


 ギルマスはレイチェルに目配せをして合図を送る。


「私も調べたのですが、帳簿を見ても分かりません。担当者に聞いても『儀式に使う神具ということしか聞いていない。詳しくは上層部しか知らないみたいだ』と言っています」


 ますます怪しい。

 多分、人に言えない何かなんだろう。


「麻薬でも運んでいるのか?」


 レイチェルが言う。


「それはあり得ません。麻薬はこの国ではかなり厳しく取り締まっています。専用の魔道具があるので、積み込みの段階で発覚します」


「原料の段階ならチェックは緩いんだろ?」


「そ、それはそうですが・・・流石に国ぐるみでそんなことは・・・そこまで腐りきっているとは信じたくありません」


 まあ、そうだろう。

 大体読めて来た。幽霊船に乗っている奴等はどんな奴かは分からないが、そっち方面で儲けようとしていることだけは確かだ。

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