84 デイドラとサギュラ
式典関係も終わり、今日はデイドラの能力を測定してもらう。
指導員がデイジーとデイドラに指示をして、様々な飛行をさせた。急加速からの急旋回、急降下からの急上昇、敵を想定したグライディングアタックなどを見て、しきりにメモを取っている。
一通り訓練が終わったところで、指導員が講評を行う。
「精鋭部隊の第一飛竜騎士隊の中でも、デイドラに勝てるドラゴンは数える程です。後は実戦の中で能力を向上させていけばいいかと思います。それと水中活動の関係ですが、私が指導できなくて心苦しいのですが、段取りが付きましたので・・・・」
ザドラが言う。
「まあ、見せてもらえればいいさ。できるできないは別にしてね。アタイとしてはいい線いっていると思ってんだがね。アンタたちも苦労したんだろうし、デイドラの為にここまでしてもらって有難いよ」
「ありがとうございます。それでは、その結果をまた、報告書にして提出してください」
実は、デイドラが水竜に泳ぎを習えるようにしてもらったのだ。サギュラが中心となり、野生の風竜と接触し、その風竜の伝手で水竜と話がついたようだった。
カーミラ王女が言う。
「多分、大丈夫だと思う。確認でポチ殿がサギュラから話を聞いてもらえたら助かるのだが・・・」
するとポチから話を聞いたニコラスが話始める。
「サギュラさんが言うには、「泳ぎを見せるのはいいけど、教えるかどうかは実際に見てから決める」って言われたそうです。水竜の群れが居る場所には、サギュラさんが案内してくれるようです」
何はともあれ、間近で水竜の泳ぎを見られるのは大きな経験になるだろう。
「それではこれから参ろうか?1時間も飛べば着くと思う。我とサギュラはデイドラを送ったら戻ってくるから、船長殿も準備を頼む」
デイドラに同行するのは、デイジー、ザドラ、ニコラス、ポチだ。泊まり込みになるので、それようの準備もさせているし、水竜が好きな魚や干し肉もお土産として準備している。
「お土産で心を掴むニャ。人間もドラゴンもお土産を貰えば喜ぶのは同じニャ」
そして、彼らは旅立った。
★★★
残された俺たちはというと、竜王国の海軍の指導だった。
デイドラの指導を頼んだ見返りとして、頼まれたのだ。海軍といってもクリスタ連邦国でいう遊撃艦隊で、それもほとんどが海洋国アルジェットからの出向組だ。彼らだけでは強力な魔物を狩ることはできない。ではどうするかというと、俺たちが最初にハンマーホエールを討伐したときのように、海軍戦力と竜騎士の合同でやればいいのではないかという案が軍の上層部で出たらしい。
言うのは簡単だが、実際にやってもあまり上手くいかず、俺たちに指導を頼むことになったようだ。
「とりあえず、実際にやっているのを見てもらいます。海軍の船長クラスと航海士はクリスタリブレ号に乗船してください。竜騎士の方は空から見学をお願いします。攻撃する竜騎士は・・・」
カーミラ王女が言う。
「それは我らが担おう」
とりあえず、任務が始まる。
今回は竜王国の海軍のために指導なので、スクリューもなし、もちろん勇者砲もなしだ。アトラは少し不機嫌だ。
「僕がスクリューを回して、勇者砲を撃ち込めば一発なのに!!」
「それをやったら訓練にならないだろうが!!」
最初はホーンシャークの群れの討伐をした。群れは20匹ほどで、大型種もいない。ハープが地面すれすれを飛び、ホーンシャークをジャンプさせる。そこをリュドミラが弓で射貫く。
「ハープ殿の真似は我々ならできるかもしれんが、リュドミラ殿クラスの弓の腕を持つ者はおらん・・・すまないが別の方法をお願いしたい」
勇者砲やスクリューの陰に隠れてはいるが、ハープもリュドミラも規格外ということを忘れていた。
結局、人海戦術を採用することになる。
竜騎士隊が発射式の銛や低空飛行で挑発し、群れを一箇所に釘付けにして一気に飛び立つ。そこをタイミングを見計らって、3隻の軍艦が魔道砲や発射式の銛でジャンプしているホーンシャークを撃ちまくる。細かく狙う必要はない。2~3匹残ったとしても、中型の商船クラスであれば、特に影響は出ないからだ。これが30匹を超えるとかなりの被害が出るからな。
「銛や魔道砲の経費、人件費などを考慮すると赤字にはなるとは思いますが、安全には討伐できますね」
「礼を言う。討伐自体は赤字になるかもしれんが、商船や輸送船が被害を受けることを考えると十分収支はプラスだ。それに慣れてくれば、人数も消耗品の数も少なくなるだろうからな」
続いて、同じ要領でシーサーペントの討伐を行った。
こちらは大型の海蛇だが、軍艦から発射式の銛が大量に降り注ぐ。銛にはロープが括り付けられているので、刺さった銛を人海戦術で引っ張り、海面までシーサーペントを引き上げた。そうなればもう、終了だ。竜騎士隊が強力な滑空攻撃を繰り返す。
「やはりメインは竜騎士が担い、軍艦は補助的に運用する方がいいでしょうね」
「うむ、これなら我々の訓練にもなるしな。大掛かりな体制になるのがネックだが・・・・」
「1隻で討伐できる船乗りは、クリスタ連邦国でもそうはいませんよ。正規軍でも10隻もないんじゃないんでしょうか」
「そうだな。こちらは海軍に多くの投資をしていないからな。竜騎士が主体となるのは必然だ。我々にあった戦術を指導してくれて、船長殿には本当に感謝している。勇者パーティーの任務が無事に終了したのなら、竜王国に来ないか?海軍大将の席と何なら我の・・・・」
カーミラ王女が言いかけてたところで、慌てた様子で1騎の竜騎士が甲板に降り立った。
「隊長!!大変です。ハンマーホエールが港に向かって来てます。すぐに戻ってください。現在は国王陛下が精鋭部隊を率いて対応していますが、苦戦しております」
俺たちはすぐにハンマーホエールの居る沖合に船を進めた。
★★★
他の軍艦はその場に残して、アトラの勇者ブーストを使ってスクリューを回して、沖合までやって来た。
国王陛下とも合流し、事情を聴くと、どうやら俺たちが以前に討伐したハンマーホエールの番のようだった。怒り狂っていて、手が付けられないそうだ。
リュドミラが言う。
「前回は不意打ちに近い形だったのですが、今回は明確な敵意が感じられますね。討伐するには水中からの攻撃は必須ですから、ザドラやデイドラがいないと厳しいかもしれません」
「そうだな。とりあえず港に近付けないようにしよう。それで、デイドラたちが戻ってから討伐作戦を行おう。
カーミラ王女、それでよろしいでしょうか?」
「そうしてくれ。我はこれからデイドラを呼びに行って来る」
そこからはアトラが散発的に勇者砲を放ち、これ以上港に近付けさせないようにしている。また、国王陛下が率いる竜騎士隊も挑発を繰り返して、現在の位置から少し、沖へ引き離した。
しばらくして、カーミラ王女が帰って来た。血塗れのデイドラを連れて。
「ど、どうしたんだ?水竜たちにいじめられたのか?」
ザドラが言う。
「ちょっと違うんだ・・・・訓練自体は上手くいったんだけどね・・・・」
歯切れが悪い。
とりあえず、詳しく事情を聞くことにした。
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