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82 ドルドナ公国

建国式が始まった。

来賓はボンジョール王国から第三王子夫妻、クリスタ連邦国から外務大臣、海洋国アルジェットからは女王のマメラ、帝国からはコム―ル大臣だ。


そして驚きのゲストは空にいる。

誇らしげにドルドナ公国の国旗を振り、デイドラに跨り空を駆けるデイジー、その後ろに10騎の竜騎士が続く。カーミラ王女以下の精鋭部隊がお祝いに駆けつけてくれているのだ。今も観客を楽しませるようにアクロバット飛行をしている。流石は精鋭だけはある。

竜王国の基本政策「中立、不干渉」に引っ掛からないかと心配になるが、それは大丈夫のようだ。あくまでも指導した竜騎士、そして友人としてのお祝いというのが建前らしい。


これは戦略的に大きなことだ。

もしドルドナ公国に侵攻すれば、竜王国が参戦するかもしれないと思わせられる。本当にそのような事態になったら、竜王国は来るかもしれないが、来ないかもしれない。だが、それは関係ない。参戦する可能性があるというだけで、ドルドナ公国を侵攻しようとする国は躊躇するのだ。国防の基本は攻められないことだからな。


竜騎士たちのパフォーマンスが終わり、ドルドナ公国の大公となったドーガンのスピーチが始まる。

そんなとき、コム―ル大臣が声を掛けて来た。


「君には感謝しているよ。馬鹿どもを一掃できたからな」


コム―ル大臣の話では、バカール伯爵とその取り巻きは数々の不正で貴族位を剥奪、更に領地も没収して、帝国の直轄地にしたようだ。


「これで、多少は主戦派の戦力を削れたよ。彼らには困っていたからな。占領した土地を食い潰し、更に新たな土地を求める。もうそんな時代ではないのに・・・これで止まればいいのだが・・・」


「そうですね。何が帝国をそうさせたのですか?帝国が攻め込まなければ、帝国に喧嘩を吹っかけるような国はいないと思うのですがね」


「それはな。潜在的な不安感と領土が広がれば広がるほど、疑心暗鬼になるからだ」


コム―ル大臣が言うには、グレイティムール大帝国は、大昔はグレイ王国とティムール王国の軍事同盟からスタートしたそうだ。2国を合わせても当時は帝都ベルダン周辺しか国土は無かった。それでも、陸戦に優れたグレイ王国と海戦が得意なティムール王国が同盟を結んだことで、他国から攻められることは減ったらしい。


「文献を見ると戦上手だったそうだ。陸軍と海軍それぞれに英雄的な存在がいて、連戦連勝だったそうだ。いつしか「やられたらやりかえす」が「やられる前にやる」に変わり、今では「やられなくてもやる」に変わっていったのだ。最初は、国土を防衛するため、それが利益を得るために変わり、もしかしたら攻めて来るのではという被害妄想的な思想になっていったのかもしれん。それに負けることはなかったというのも大きいな。

こんな帝国でも変わるチャンスはあった。竜王国やクリスタ連邦国に大敗したときだ。ヤマット大将やノーギー大将が国土の防衛に重きを置く施策を取っているが、1000年近くやってきた伝統は、未だ変えられずにいる。我々は勇者殿や船長殿に期待しているんだ。こんな帝国を変えてくれるかもってな。

一国の大臣が無責任なことを言ってしまったな。これは忘れてくれ」


コム―ル大臣は去って行った。

ただの船長に頼むにしては事が大き過ぎるぞ!!


ドーガン大公のスピーチは終盤を迎えていた。


「ここにドルドナ公国を建国できたことは、非常に嬉しく思う。最後まで誇りを失わなかった我々の勝利だ。それに多くの人々にも支えられた。特に勇者殿、そしてその仲間たちだ。改めて礼を言う。そして、我はここに宣言する。世界平和の為に尽力する彼らを最大限支えると・・・」


アトラはドヤ顔しているが、本当にこの馬鹿は事の重大性が分かっているのだろうか?


魔王の復活、帝国の思惑、世界情勢・・・難しい舵取りが求められる。船長なだけに・・・なんてな。




★★★


~勇者アトラ研究者の論文より抜粋~


今回は、勇者アトラにまつわる異名や二つ名を注目しよう。「至高の勇者」や「天才勇者」などの多くの者が語る二つ名は本稿では取り扱わない。少し珍しいものを紹介する。


まずは「土の勇者」だ。

勇者アトラは農業生産にも力を入れていた。新たに土地を開墾し、多くの民を救った。西大陸最大の小麦の生産地と米の生産地は、勇者アトラが開墾したのだ。なぜそのような知識があり、彼女がどんな魔法を使ったのかは未だに謎が多い。文献によると、天才研究者のポーラ女史の助力もその一つだとされている。ポーラ女史が研究成果を広めるために勇者アトラを利用したのか、それとも本当に勇者アトラの成果なのかは、未だ疑問が残るところではあるが、勇者アトラが食料難に苦しむ地域を救ったことは、まぎれもない事実である。


また珍しい二つ名に「海の勇者」というのがある。

勇者アトラは世界各地を巡るのに船を利用したと言われている。前述した各地域への食料支援も彼女の船で行ったとされている。

文献によると勇者アトラの活動に感銘を受けた、時のクリスタ連邦国の女王が、軍艦1隻と乗員を丸ごと貸与したとある。そして、彼女の船にも多くの二つ名があるのだ。

正式には、ミラクルオブアトラ号(※アトラの奇跡の意味)だが、「クリスタの自由」、「クリスタの亡霊」、「クリスタの水竜」、「クリスタの海蛇」などの二つ名が付けられているのだ。

真偽のほどは定かではないが、用途において船を乗り換えていたのではないかという説もあるくらいだ。


勇者アトラには、なぜこのように様々な二つ名があるのか?

本稿なりの推論を述べる。それは、勇者アトラの功績は数々あるということであろう。

勇者アトラは幽霊船を討伐したという伝説やドラゴンを従えていたという伝説がある。そこから派生して二つ名が作られたのだと推測する。

真偽のほどは定かではないが、それでも多くの者に勇者アトラが愛されていたことは間違いない。



気が向きましたら、ブックマークと高評価をお願い致します!!


次回から新章「勇者と幽霊船」になります。

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