8 勇者の能力
今回は、少しグロいです。
「止めるッス!!止めるッス!!この美しい船体にそんな禍々しい船首像を付けるなんて許さないッス!!」
大声で叫んでいるのはドワーフの船大工ベイラだ。その気持ちは十分に分かるぞ。
取り付ける船首像がヤバい。どんなセンスの奴が作ったんだ?
女神像で女神様は美しく作られているが、腹を槍で貫かれ、両手を蛇、両足はワニ、首筋は虎に噛みつかれているのだ。本当に誰のデザインなんだ?
帝国から来た技師が説明する。
「これは女神スケープ様です。我が帝国では大変人気のある女神様でして、自分の身を犠牲にして民を救ったという伝承がありまして・・・・」
偶々、以前取り付けていた女神像が壊れたから渡りに船だと思ったのに・・・・しかし、契約では必ず取り付けることになっているしな。
「ベイラ・・・悪いが我慢してくれ。みんな同じ気持ちだから・・・」
「仕方ないッス。けど、この活動が終わったらすぐに海の底に沈めてやるッス」
ベイラも怒っているが、俺が一番辛かったのは、クリスタ連邦国の国旗とドレイク領旗が下ろされ、代わりに帝国旗と聖神教会の旗が掲げられたのを見たときだ。怒りが収まらなかった。
覚悟はしていたことだが、本当にショックだ。水夫達の中にはすすり泣いている者もいるし、男勝りのザドラでさえ、目に涙を浮かべていた。リュドミラなんて無表情だけど魔力が漏れ出ていたしな。
「心中は察するが、堪えてくれると有難い。我も同じ思いをしたことがある。祖国が無くなった訳ではないだろ?まあ、帝国の犬になり下がった我を笑わば笑え」
そう言うのは、勇者パーティーの女戦士デイジーだった。実はデイジーは帝国に攻め滅ぼされたドルドナ王国の王女で、人質として帝都に送られたそうだ。そこで武勇を見込まれて勇者パーティーに選ばれたらしい。一応ドルドナ自治領として高額の税金と引き換えに体裁だけは保っているようだが。
「そうだな・・・俺達がちょっと我慢すればいいだけだからな」
勇者以外の3人とセガスは、乗員との顔合わせや調整のため、勇者と挨拶を交わした次の日から、クリスタリブレ号に乗船している。3人は乗員達と馴染んでいるようで船長としては嬉しい。まずデイジーだが、ザドラに腕相撲で負けたことがきっかけで、ザドラに懐いている。
「ザドラ姉上、スクワット100回、腕立て100回、終了です」
「そうか、腹筋でもやっときな」
「はい、姉上!!」
神官のニコラスはというとコボルト達にまとわりついていた。こうして見ると無邪気な少年に見える。普段はあんなに怯え切っているのにな。
「モフモフだ!!すりすりしようぜ」
「止めろよ。あっち行けよ」
コボルトの水夫がまとわりつく子犬を追い払うようなことをしている。この場合、子犬がニコラスだが。
魔道士のマルカは飛行魔法に興味津々のようでハープにあれこれ質問していた。
「この魔法陣と詠唱とを組み合わせたら同じような現象が発生するのでしょうか?見解をお聞かせください」
「難しいことは分からないよ~インプ達にでも聞いて~」
結局マルカはインプ隊長のブーイに弟子入りしていた。
大したもので、次の日にはマルカは僅か20センチだが、浮遊は成功していた。
「ブーイ師匠!!成功しました」
「まあ、人間にしちゃ上出来だな。だが、インプだったら赤ん坊でもできらあ。俺の教えは厳しいぞ」
「はい!!頑張ります」
そんな感じで、勇者がやって来る日を迎えた。
幸いこの日の勇者は機嫌が良かった。勇者の後ろには憔悴しきったポコ総督が見える。出発前に近寄ってきて小声で俺に言ってきた。
「ご機嫌取りに徹しました。3日くらいは持つかもしれません。私がやれることといったらこれくらいですからね。ご武運をお祈りしております」
俺は黙ってポコ総督に一礼する。
ところで、なんでこんなクズが勇者なんだ?
そんな思いを抱えながら、俺たちはグレイティムール大帝国の帝都へ向けて、出発した。
★★★
出発して3日目、ポコ総督の予想通り、勇者の機嫌が崩れた。朝から怒鳴り散らしている。
これは嵐だ。台風だ。地震だ。自然の猛威だと思い込み何とかやり過ごそうとする。
しかし、勇者は暴れ回る。最初のターゲットは勇者パーティーだった。
「なんでお前ら獣人や魔族と仲良くしてんだよ!!それでも勇者パーティーか?ニコラス、どうなんだ?」
「そんな・・・アトラも、コボルトの毛並みを・・・」
バコーン!!という音がする。有無を言わさずに殴られた。あまりにも酷い。
「船長として言うが、その辺にしておいてくれ。海の上では皆、一蓮托生だ。仲間と思えとは言わないが、迷惑は掛けるな」
「偉そうに!!勇者の僕に指図するな!!」
そう言って、部屋に引きこもってしまった。これも我儘で客人用の個室を一つ宛がっているが、逆に良かったかもしれない。隔離できるしな。他の3人とセガスとアデーレはそれぞれ男性用と女性用の大部屋で寝泊まりしている。大部屋でこれをやられたら地獄だ。
1日経って落ち着いたと思ったのだが、淡い期待だった。朝から意味不明なことを言う。
「船長!!ロゴスに戻ってくれ。ネックレスを忘れてきたんだ」
「もう無理だ。それじゃあ、期日までに間に合わない。どうせ大した物じゃないんだろ?」
「あれはお母様の形見のネックレスなんだ!!勇者命令だ。今すぐ戻れ!!」
「無理だ。どうしても戻りたきゃ、一人で泳いで帰りな!!」
海に飛び込む勇気もない癖に!!
それに本当に飛び込んで、溺れ死んでくれたら万々歳だ。自殺を止められなかったからって理由で、帝国が攻めて来るわけないだろうしな。
すると勇者は言った。
「つまり、僕に死ねってことだね。分かったよ。そうするよ。死ねばいいんだよね?」
なんだコイツは頭がおかしいのか?
すると勇者はコボルト達と戯れていたニコラスを呼び出す。
「ニコラス、こっちに来い」
「なんだよ。せっかくいいところだったのに・・・」
そして勇者はあろうことか、近付いてきたニコラスの胸を剣で刺した。
あまりの衝撃的な出来事に歴戦の俺を含めた航海士たちも呆然としている。
「マルカ、次はお前だ」
「分かったけどちょっと待ってね。ええと、日時を記録して・・・ニコラスは刺殺と・・・ところでこの地点は・・・・」
「時間切れだ」
そう言うと今度はマルカの腹を刺した。血を吐きながらも、何かメモしている。
「私も刺殺と・・・アデーレ・・・ここに地点を記録して・・・」
マルカも事切れた。
「デイジー!!」
「お前の世話にはならん」
そう言うと、デイジーは剣を抜いて、自分で自らの首を斬り落とした。
「ハハハハ、またやっちゃったよ。セガス、いつも通りやってよ」
セガスは無言で勇者の背後に回り、良く見えなかったが、鋭利な何かで、勇者の脳天を突き刺した。勇者も死んだようだ。
ドン引きしているベイラが言う。
「何をしてんスか?狂ってるッス」
本当だ。コイツら狂ってやがる。
しばらくすると死んだ勇者達の死体が輝き出して、消滅した。時を同じくして、船首像も輝き出した。すると空間が歪みだした。今まで経験したことのない感覚だ。
「落ち着け!!非常態勢を取れ!!よく分からんが緊急事態だ」
そして船は眩い光に包まれた。目を開けていられない。
光が収まり目を開けると、そこは4日前に出航したロゴスの船着場だった。
セガスが言う。
「少し説明させていただきます。但し、他言無用で・・・・」
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