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78 不当な要求

バカール伯爵は度々ドンバスにやって来た。様々な難癖を付けにだ。


「補償金を請求する。そちらに組み入れらることになったカースラ地域とロンダス地域だが、こちらはかなりの設備投資をしたのだ。それが海賊に住民は攫われ、施設を壊された。せめて、投資した額に利子を付けて払うのが筋だろう?」


この馬鹿は投資をしていたどころか、住民に重税を課していた。表向きは海賊に攫われたことになっているが、住民が合意の上で移住しているからな。何度か視察に行ったが、元気でやっているようだったし。


領主のドーガンも負けていない。


「払う必要はない。それにもう住民が居ないのであれば、その二つの地域の返還は求めない。帝国内政部にもその旨を通達している。これからもそちらの領地のままだから、しっかり投資をして、回収できるようにすればいいではないか?」


帝国からの補償金に上乗せする形で、ドルドナ自治領から補償金をせしめようとしたのに、帝国からもらえるはずだった補償金も貰えなくなるなんてな。


ゴーストからの手紙で知ったが、この案はすぐに採用されたそうだ。帝国としても補償金の額が減るから、断る理由もない。


「先祖代々受け継いできた土地をいらぬというのか!!」


「先祖が守ってきたのは土地ではない。国民だ。国民を守るために土地を守ってきた。国民が居なければ土地なんていくらあっても意味はない。そういうことだ。用件がそれだけなら、お引き取り願おうか」


今回もバカール伯爵を追い返した。


「今回も見事に追い返しましたね」


「ネルソン殿・・・ただ、もう向こうも限界のようだし、武力衝突は避けられんだろう」


「大丈夫ですよ。その対策もしてますからね。そろそろアイツを連れてきますから」



★★★


俺はクリスタリブレ号に乗り、黒土地帯を目指した。ドンバスから通常航行で2日の距離にある開拓村は活気に溢れていた。


「みんな頑張れ!!しっかりと僕の町を作るんだぞ!!みんなの頑張りがアトラタウンを作るんだ!!」


アトラが作業している農民や工夫たちを激励している。

これも第三王子の策略で、黒土地帯の開拓村は「アトラタウン」と命名され、アトラが名誉領主となり、収益の一部を譲渡するということになっていた。

そしてもう一つ、アトラは新たな才能を開花していた。


「発進!!アトラクター!!」


アトラクターは、ポーラが開発した農機具で、アトラの魔力を使って畑を耕す。スクリューの技術を応用したもので、乗って移動するだけで、畑が耕されるという優れものだ。一緒にベイラが乗ってアトラを指導している。


「アトラ!!もっとスピードを落とすッス!!試作品を壊してはいけないッス」


開発者のポーラが言う。


「魔道砲なんかよりも、こっちのほうが遥かに国民の為になるんですけどね。後はやはり魔力伝導率ですね。ゆくゆくは魔石で動かしたいんですけどね」


「それは俺も思う。せっかくの最先端技術なんだから、戦争にばっかり力を使うなよと言いたい」


そんな話をしていたら、コム―ル大臣が話し掛けてきた。


「それは私やノーギー大将、ヤマット大将も思うところだ。今ある領土をしっかりと開発すればそれでいいのだがな」


コム―ル大臣がここにいるのも思惑がある。この肥沃な黒土地帯で取れた小麦を利用するのだ。その話を聞いたとき、この大臣も侮れないと思ったけどな。


「こちらも計画は順調だ。この小麦があれば、主戦派の奴等の武器を一つ潰せるからな」


というのも、主戦派の大貴族が帝国の穀倉地帯を押さえており、小麦を脅しに使って、意見を通そうとしてくるようだ。戦争になれば小麦は高値で売れるからな。本当に強欲だ。

しかし、ここの小麦を優先的に手に入れれば、その大貴族が小麦を売り渋っても、何とかなるし、逆に打撃を与えることができる。

ボンジョール王国としても、大手の売り先が確保できたことは大きいし、帝国がこの地域の小麦を当てにし始めれば、迂闊に攻めてこない。この小麦を盾に「攻めて来るなら、焼き払ってやる」とでも言えばいいからな。

それに、ここの開発には帝国の資金も入っている。だから、ここを攻め落としてしまうとその資金が回収できないから、帝国の商人たちも戦争には反対するだろう。


「勇者様!!種まきが終わりました。水撒きをお願いします」


「任せなさい。デイドラ、デイジー!!僕を乗せてくれ」


アトラはデイドラに乗り、上空から水砲で畑に水撒きをしている。

俺は近くにいたニコラスに尋ねた。


「アトラって、デイドラに乗れるようになったのか?」


「そうですよ。なんか、サギュラさんの鱗を渡して、『僕の言うことがキチンと聞けたら、今度はサギュラさんの牙をあげよう』って言ったら、デイドラもその気になっちゃって・・・」


やっぱり思考回路がクズだ。好きな相手の鱗や牙で釣るなんて・・・


水撒きを終えたアトラが俺の前に降り立った。


「ネルソンじゃないか、久しぶりだね。僕が恋しくなったのかな?」


「そろそろ仕事だ。ドンバスに向かうぞ」


「そうなのか・・・でも、もう一日待ってくれ。明日には畑仕事も一段落するから」


「いいぜ。それと差し入れを持って来たぜ。バリスの高級ワインと燻製肉だ。みんなで食べてくれ」


アトラは嬉しそうに言う。


「みんな!!キリのいいところで作業終了だ!!これから宴会だぞ!!準備しろ!!」


「「「オー!!」」」


よく分からないが、アトラは領主として信頼されているようだった。


明後日、俺たちはアトラたちを連れてドンバスに戻った。



★★★


領主のドーガンが言う。


「今度ばかりは、全面衝突は避けられんな。先日、不正を行ったバカール領の商人を10人程拘束したのだが、不当逮捕だと言ってきたのだ。証拠もバッチリあるのだがな」


「ワザと捕まるようなことをさせたんでしょうね。火種を作るために」


「そうに違いない。それにこれから、最後通告に来るらしい。もう我も我慢の限界だ」


「もう大丈夫です。上手く収める算段もつきましたから」


まあ、これにはアトラの成長が大きく影響するんだがな。それに事前に大まかな作戦は領主のドーガンに伝えている。


「まあ、駄目でしょうけど。最初は一騎討を要望してください。多分というか、絶対断って来るでしょうから、場所の指定だけは呑ませてください。一見して相手が有利な戦場なので、乗って来るとは思います。理由は「民に被害を与えたくない」ということにでもしてください」


「戦闘の場所は、まず間違いなく呑むだろう。ところで本当に大丈夫なのか?」


領主のドーガンが心配するのも分かるが、こっちには秘密兵器がいるからな。



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