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今回の作戦の肝は住民を一度に大量に運ぶことだ。そのために強力な助っ人を用意した。


「久しぶりだね、船長。少しは恩返しできてよかったよ。椅子に座って仕事をするよりも、アタイはこっちのほうが性に合っているからね」


「これはこれは、女王様自らお越しになられるとは、恐れ多い」


「からかうんじゃないよ。それに彼らも借りて来たからね」


俺が助っ人に頼んだのは、マメラだった。表向きは協力してもらった各国への挨拶回りということで、すでにクリスタ連邦国、帝国皇帝への挨拶は終わっている。デイジーとは一緒に旅をした仲だから、独立のお祝いに駆けつけても不思議ではないしな。


俺はマメラに今回の作戦を説明する。


「相変わらず、凄いことを考えるね。こっちはこの前海賊を辞めたばっかりなのに、また、海賊をやれって、無茶苦茶だねえ。まあ、やるけど。

レオ、ローズ、しっかり演技しなよ。船や艦隊の指示はアタイがやってやるからさ」


「はい、でも楽しみです。憧れの大海賊になれるなんて・・・」

「大丈夫です。兄が調子に乗り出したら、抑えるようにしますから」


そう言ったのは、黒髭と聖女だった少年とその妹だ。当然、マメラが公然と海賊なんてできないから、それよりも目立つ、この二人に頼んだ。因みに今回少年が演じるのは「青髭」らしい。海賊名は「青髭海賊団」というそうだ。


役者は揃った。後はやるだけだ。



★★★


海洋国アルジェット籍の船舶が大量にドルドナ自治領のドンバスに集結している。これが三々五々活動を開始するのだ。港から離れるとすぐに海洋国アルジェットの旗を降ろし、この日の為に用意してきた「青髭海賊団」の旗を掲げる。俺たちも、その船団の一つに同行する。

しばらくして、住民が圧政で苦しんでいる地域にやって来た。船を横付けした後に、少年が拡声の魔道具を使って大声で叫ぶ。


「俺は伝説の海賊「赤髭」の生まれ変わり、「青髭」だ!!大人しく、俺の言うことを聞け!!そうしなければ、命はないぞ!!」


更に空砲で脅しを掛ける。既にここの住民とは話ができているので、それを合図に住民たちが一斉に船に乗り込む。更に予め仕込んでいた住民役の協力者が騒ぎ出す。


「私たちはお金など、持っておりません。すべて代官屋敷にあります。どうかお助けを!!」

「代官屋敷には多くの財産があります。私たちは見逃してください」


これに焦ったのは代官たちだ。普段、住民から搾れるだけ搾り取っているので、住民が守ってくれるわけはない。それに青髭海賊団は精鋭部隊だ。虎王国や餓狼族の里からも手練れを派遣してもらっているから、そこら辺の領兵が太刀打ちできるわけがない。代官屋敷から略奪した後、代官屋敷に火を放つ。

しばらくして、その村は住民がすべていなくなり、打ちのめされた代官と領兵が転がっているだけだった。


こういった襲撃事件が、各地で行われた。

場所も選定しているので、大きなトラブルも起きない。というのもドルドナ自治領周辺の領主は馬鹿の集まりだが、中にはまともな領主もいる。その領主の領地では、住民を避難させることはしなかった。住民の代表と話しても、「今の生活のままでいい」との意見が大半だったらしい。領主のドーガンも、それならば、この地域の返還は要求しないということにしたそうだ。

更に独立後も協力関係を維持し、交易も以前と同じように行うという密約も交わしているのだ。


ここまで上手くいったのも住民を上手く説得し、導いた人物がいるからだ。俺たちはその人物を新たな任務地に送り届けている。


「姉上、心配しないでください。この槍とドート鳥たちがいれば大丈夫ですよ。ドルドナ王国の騎鳥隊は、今も健在ですよ」


「だが、ルーチェ。今度の任務は戦闘が予想される。お前を失うことになれば、跡取りが・・・」


「大丈夫ですよ。仮にそんなことになれば、姉上が後を継いで、船長殿を婿に取ればいいんですからね」


「馬鹿!!もういい、早く行ってこい!!帰りは自力で何とかしろ!!」


「姉上は相変わらず、冗談が通じないんだから」


そして、その少年は颯爽とドート鳥に跨って、部下10名を引き連れて去って行った。

この少年こそがデイジーの実弟のルーチェだ。ここまで、旧ドルドナ王国の住民をまとめ上げたのは彼の手腕だ。


「立派な弟さんじゃないか。少しからかわれただけだよ。それに山や沼に逃げ込めば、捕捉することはできないからな」


「分かっている」


ドルドナ王国が他国の侵略を許さなかったのは、騎鳥隊の存在が大きかった。馬ではなく、ロバくらいの大きさのドート鳥に槍の名手たちが跨って戦うのだ。平地でのスピードは馬に負けるものの、山地や沼地ではこのドート鳥が圧勝する。なのでゲリラ戦向きの部隊なのだ。帝国に滅ぼされたときは、この虎の子の部隊を魔物討伐に遠征させていたことが大きな要因だ。


それを密かに復活させ、圧政が敷かれている各村を回って有力者と調整して、この作戦を成功させた彼こそが、ドーガンの後継者に相応しいだろう。今回は陽動作戦で、圧政を敷いていた領主の別荘を襲撃するので、少しデイジーも心配しているのだ。


「デイジー、心配かもしれんが、ドンバスに戻ろう。俺たちはやることがあるからな」


「ああ、ここからが正念場だな」



★★★


住民たちの避難もほぼ終わり、マメラたちも次の予定先であるバリスに旅立って行った。まさか、外遊中の女王が海賊だったなんて誰も思わないだろうけどな。


それと黒土地帯の開発だが、順調なようだ。一時避難させた住民の手伝いもあり、来年には多くの小麦が収穫できるそうだ。避難した住民の何割かは、このままこの地に住みたいと言っているそうだが、これは領主のドーガンも予想していた。無理にこちらに戻って来なくてもいいと言っている。


「どこに行こうと民が幸せならそれでいい」



後は独立を待つばかりという状況だったが、そうもいかない。馬鹿領主たちを代表するバカール伯爵が配下を連れて、ドンバスにやって来た。目的は大体分かるけど・・・


「お前たちが、青髭海賊団とつながっていることは分かっているんだ。町や村に襲撃して、非道のかぎりを尽くしおって!!どう釈明をする気だ?」


領主のドーガンも負けていない。


「証拠はあるのか?海賊団が捕まって自供したとか?」


「そんなものは・・・ここに来ていた海洋国アルジェットの女王だ。あいつが海賊を連れて来たに違いない!!」


「だったら、バリスまで追いかけて行けばいいんじゃないのか?ただ、バリスまで行って、そんなことをしたら国際問題だろうがな」



怒り狂った。バカール伯爵は捨て台詞を吐いて去って行った。


「覚えていろよ。このままでは済まさんぞ」


まあ、このままでは多分すまないだろう。

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