75 独立?
ここはロゴスの総督府。なぜか、会議に参加させられている。それも普通ではあり得ないメンバーで。
会議の出席者はというと、ボンジョール王国の第三王子、グレイティムール大帝国のコム―ル大臣、ポコ総督に俺とデイジーだ。
どうして、このメンバーなのか、理解に苦しむ。
第三王子が言う。
「なぜこのメンバーなのか?また何かの悪巧みに加担させられるんじゃないかって顔だな?」
「そうですね。できれば勇者様を・・・」
「相変わらず君は・・・もうそのくだりはいいんじゃないか?一番の疑問は帝国のコム―ル大臣がいることだろ?」
それが一番の疑問だ。いくら穏健派だからといっても、この場所に来ること自体が不自然だ。
「王子殿下、私が説明してもよろしいでしょうか?」
「構わん。してやってくれ」
「分かりました。
まず結論から言うと利害が一致したからだ。それはそちらのデイジー殿にも関係することだがな・・・」
コム―ル大臣が最初に話したのは、勇者管理機構のことだ。現在の参加国は帝国、ゾロタス聖神国、ボンジョール王国、クリスタ連邦国、虎王国だ。情勢が落ち着いたら、海洋国アルジェットも加入すると表明している。
帝国にしてみれば、今の段階でも2対3の状態だ。無理な要求はできないし、逆に不利な活動を議決される恐れもある。そこで、帝国は苦肉の策として、デイジーの故郷であるドルドナ自治領を独立させて、勇者管理機構に加入さようと画策しているようだった。
「かなりの力技ですね。独立を望んでいるドルドナ自治領としては、喜ぶべきことでしょうけど。でもいいんですか?他の植民地が独立することも考えられるのでは?」
「それほど、帝国は勇者の活動に力を入れているということだ。それに、私個人・・・いや、多くの良識ある官僚や軍人は思っている。帝国は広くなり過ぎたし、強くなり過ぎたのだと・・・」
前にヤマット大将やノーギー大将が言っていたことだな。
「殿下が居られる前で言うのはどうかと思うが、戦争に勝つだけならボンジョール王国にも勝てる。しかし、統治するとなるとそれは無理だ。それが分かっておらん者が多すぎる。勝てる戦ならすればいいという馬鹿も大勢いるのだ。頭が痛いことだがな」
これに第三王子が反応する。
「じゃあ、やってみるかい?ただで負けるつもりはないけどね」
「お戯れを・・・当然、楽になど勝てるわけはない。人道的な理由を除いても、ボンジョール王国と戦はしない方が得なのだ。ではどうすればいいか分かるか?船長殿」
俺は試されてるのか?そんなの船長にする質問じゃないぞ。
でも、ここにデイジーを呼んで、ドルドナ自治領の独立話をしたことと関係があるのだろうが・・・・
「緩衝地帯を作るということでしょうか?」
「流石だ。ネルソン殿の言うとおり、緩衝地帯があれば、戦争が起こる可能性は下がる。これは帝国もボンジョール王国も意見が一致するところだ。もちろん独立するドルドナ自治領もだが・・・」
ここで、少しコム―ル大臣の表情が暗くなる。これだけの話なら、わざわざ、俺とデイジーを呼んでする話ではない。勝手にやってくれればいい話だ。
「みんなが得をする。それでいいと思うのですが、何か厄介ごとがあるんですね?」
「そのとおりだ。実は周辺の馬鹿領主どもが・・・」
コム―ル大臣が言うには、帝国西部、ドルドナ自治領がある付近の領主は馬鹿揃いらしい。今回の独立話が降って湧いたときから、ドルドナ自治領にちょっかいを掛けているそうだ。ドルドナ自治領の独立に合わせて、旧ドルドナ王国の領土も返還することになっており、自分の領地が減ってしまう。帝国としても補償はすると言っているが納得しないようだ。
「多少ゴネて、補償金を吊り上げようとするのは理解できる。だが、あの馬鹿どもは、独立前に切り取れるだけドルドナ自治領から切り取れば、多くの補償金がもらえると思って、今もドルドナ自治領に難癖を付けて、領地を切り取ろうとしているのだ」
本当に俺が思う、典型的な帝国貴族だな。
「貴族間の領地問題は基本的には当事者による解決が基本だ。あまりにも酷い場合は帝国軍が調停に出るがな。それでだ。あの馬鹿どもは、周辺の領主同士結託して、ドルドナ自治領に攻め入ろうとしている。槍の名手のドーガン殿を筆頭に精強なドルドナ自治領の部隊がいるから、攻め落とせはせんだろう。そこで考えるのは、帝国軍に泣きつくことだ。多くの領民が殺されたと訴え出る。
いくら実力差があっても、敵を殺さずに撃退することはできない。貴族間の領土問題では、なるべく死傷者を出さないように指導しているのだが、度が過ぎると帝国軍が介入することになる。そうなれば、ドルドナ自治領側は分が悪い。元々が他国だし、強欲領主たちが結託して証言すれば、帝国軍もそちらに味方をせざるを得んだろう」
つまり、攻め入って領土を切り取ったら儲けもの、返り討ちにあっても帝国軍に泣きつけば、解決する。
酷い話だ。
「そんな無茶苦茶な話があるんですね?」
「ああ、恥ずかしながらな。だが、それだけではないのだ。下手なことをすると独立話自体が立ち消えになる。帝国も一枚岩ではなく、何があっても領土が減ることは許さんという派閥もいるのだ。そうなってみろ、ドルドナ自治領は馬鹿領主共に吸収され消滅する。そうなれば、その馬鹿どもがボンジョール王国と接してしまう。この危険性が分かるだろ?」
「ボンジョール王国と戦争になるということですか?」
「すぐにはならんだろうが・・・これは帝国の黒歴史でもあるのだが・・・」
コム―ル大臣が言うには、この馬鹿領主たちは先祖代々、馬鹿らしい。
帝国陸軍は世界最強だ。これは認めなくてはならない。なので、周辺の国とワザともめごとを起こす。そして、困ったら帝国軍に泣きつく。そして、相手国を蹂躙してもらうという。それで領地を広げてきたようだ。
「なんか勇者誕生の思想に近いですね」
「そのとおりだ。もめごとを起こせば、帝国軍が助けてくれて領地が増えると勘違いしてしまった節があるのだろう。本来なら、ドルドナ自治領もこの馬鹿領主たちに併合されるところだったが、ボンジョール王国ともめごとを起こしたくないと考えた当時の宰相の判断でドルドナ自治領が誕生したのだ。そもそも、ドルドナ王国を併合しようとも思わなかったみたいだが・・・」
話が見えて来た。
つまり、この紛争を何とかしろってことだな。
第三王子が言う。
「もう君なら話が分かったと思う。我が国としては、できればドルドナ自治領に独立をしてもらいたいが、積極的には関わりたくない。だが、デイジー殿と約束してしまっているからな。できる範囲で協力はする」
多分、サウザン海賊団を壊滅させた褒美のことだろう。デイジーだけは受け取っていなかったのを思い出した。
「殿下、感謝いたします」
デイジーが頭を下げる。
デイジーのこともあるし、受けるしかないだろうな・・・
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