74 幕間 女子会etc
これは、勇者アトラ一行が海洋国アルジェットを離れて、半年後に開かれた女子会の様子である。
出席者は、ボンジョール王国第三王子妃マリア、竜王国第一王女カーミラ、虎王国の女王、餓狼族の族長、熊獣人の族長だ。
ホストである海洋国アルジェットの新女王マメラが出迎える。
「よく来てくれたねえ。立場なんて考えずに飲んで騒いで楽しんでおくれよ。こっちは慣れないデスクワークでストレスが溜まってたんだ。みんなに会えて嬉しいよ」
因みに料理はボンジョール王国王都バリスの名店「アトランジェ」のアルジ支店から取り寄せたものだ。
マリアが言う。
「料理人はバリスの料理人ですが、これはもうバリス料理とは違う料理ですね。わざわざバリスから食べに来る貴族も多いと聞きます。本当に美味しいですね」
「そう言ってもらえて嬉しいよ。ボンジョール王国、竜王国、虎王国には儲けさせてもらっているからね。これからは餓狼族の里の魔石や熊獣人の里の果物なんかで儲けさせてもらうからね」
どうやら、目的には商談も含まれているようだ。
熊獣人の族長が言う。
「そう思って、秘蔵のはちみつ酒を持ってきたぞ。あまり造れないから高値を付けてくれると有難い」
「どれどれ・・・本当に美味しいね。ここでもそうだけど、バリスでもいい値が付くんじゃないのか?」
「そうですね。ただ、クリスタ連邦国の女王に買い占められるかもしれませんよ。お酒好きですから」
「だったら、今度から声を掛けようかね?そうなると今の倍は酒を用意しなくちゃならないけど」
そんな話が続き、酔いも回って来たところで、勇者アトラの話になる。この会では定番の話題だ。
「しかし、またあの馬鹿勇者はやらかしたようだよ。本当に自重ってことを知らないのかね?」
「知っていたらあんな無礼なことを我らにしなかっただろうしな」
「だが、あれがきっかけで、虎王国と餓狼族の誤解が解けたことは間違いない」
「それは違うぞ、女王よ。やっぱりあの船長が居たからだ」
「うむ、我も船長は評価しておる」
これもお決まりだが、散々勇者の悪口を言った後、船長の話になるのだ。
そして酒が進んだせいで、マメラは饒舌になる。言わないほうがいいことまで言ってしまう。
「いい男だよ、アイツは・・・馬鹿勇者にはもったいない。フラれちゃったけどね・・・」
一瞬静まり返った後、大騒ぎになる。
「おい!!詳しく!!」
「そうですよ。どんな感じで?」
「どこまでいったんだ?」
彼女らも国や部族を背負っているとはいえ、乙女の心は失っていなかった。
自分の失言に気付いたマメラだったが、時すでに遅く、すべてを自供する羽目になった。
「・・・そういうことだ。王の座を提示したんだがね・・・」
カーミラ王女が言う。
「まだ、キチンとマメラ殿の気持ちは伝えていないではないか?もっと具体的に言わんと分からんぞ。アイツは鈍感だからな。我もそれとなくは・・・」
ここにマリアが入って来る。
「でも、ライバルは多そうですよ。私の見立てでは、あの女戦士のデイジーもぞっこんですね。何でも、彼女のためだけに船に元ドルドナ王国の国旗を掲げたそうですから」
「ああ、それは惚れるな・・・」
「そうだ。船長も罪な奴だ」
「罪な奴だから、勇者の刑が妥当かもしれん」
そして、彼女たちは遠くで活躍?しているであろう勇者と船長に想いを馳せるのであった。
この女子会は定期的に開催されることになり、後に、これがきっかけで、女子だけでお酒や食事を楽しむ文化が生まれたそうだ。
★★★
~勇者アトラ研究者の論文より抜粋~
勇者アトラが生きた時代、それは多くの偉人や天才たちが活躍した時代でもあった。
神の教えを実生活の中に落とし込み、民の立場に立って教えを広めた聖人パウロ、魔石からの魔力抽出効率を飛躍的に高めた天才研究者のポーラ女史、海洋国アルジェットの中興の祖として有名な女王マメラ、天才芸術家ダービットなどなど、数え上げればきりがない。彼らには勇者アトラと同じように、彼らを専門に研究する研究者も多く存在する。
通説では、先程挙げた彼らは勇者アトラと親交があったとされているが、一部の研究者の間では、「実際は面識はなかった。あったとしても、挨拶を交わす程度であった」という意見もある。
このような意見が出るのも訳がある。勇者アトラは伝説の神獣フェンリルと水中も空中も高速で移動できる神竜を従えていたという伝説があるからだ。流石にこれは、創作の類だという説が有力だ。
つまり何が言いたいかというと、勇者アトラに関することは伝説と真実が入り混じっているのだ。どこまでが本当で、どこからが嘘なのか?どこまでが真実で、どこからが創作なのか?それは解き明かされていない。実際に彼らが勇者アトラと親交があったかどうかは、よく分からない。
このような状態で結論付けることは難しいが、あえて結論付けるとするなら、彼らは勇者アトラに多大な影響を受けたことは間違いない、ということだ。彼らの手記や公式記録にも勇者アトラに関する記述が多く存在している。これらのことを考慮するとそのような結論に達する。
一例として挙げるならば、ボンジョール王国の王都バリスの大聖堂の壁画を見ることを強くお勧めする。そこには勇者アトラがフェンリルやドラゴンに雄々しく跨る様が、天才ダービットによって描かれているのだ。この壁画を見て、ダービットが勇者アトラに何の影響も受けなかったとは言えないだろう。
おわりに、英雄とは、伝説と真実が入り混じる存在なのは仕方がないことである。それを解き明かすのは我々研究者の使命なのだ。
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次回から新展開になります。




