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73 戦後処理

黒髭は少年が演じていただけで、黒幕はどこかに雲隠れか・・・

少年の話によれば、教会の関係者以外にも指示役がいたそうだ。

一体どうすればいいんだろうか?


そんなときマメラがテキパキと指示を出す。


「とりあえず、黒髭は討ち取ったということにしよう。証拠はこの三角帽子だ。まずはこの無意味な戦いを止めさせよう!!それから、無駄かもしれないが、逃げた黒幕たちの捜索を竜騎士隊でやってもらえるか?」


「10騎で対応しよう」


「ありがとう、じゃあそれで動いてくれ!!」


この状況では最善の手だと思う。もともと艦隊を仕切っていただけあって、マメラは女王になっても十分にやれるだろう。


すぐに竜騎士隊や鳥人族が中心となり、黒髭を討ち取った旨を周知させていく、今後の治安維持については、レオニール将軍にお願いすることになった。


問題はこの少年たちだけど・・・


この少年と少女は演技力が抜群だった。それで長期間バレなかったのだ。それに少年は別の才能もあった。色々な伝説や船乗りの自慢話をさも自分がやったことのようにアレンジする能力だ。これで信憑性が増し、多くの者が「赤髭」の生まれ変わりと信じたという。因みにクラーケンも自分が倒したと吹聴していたそうだ。まあ、アトラの上位互換みたいなもんだ。


「君!!騙されたとはいえ、人の手柄を横取りして、大袈裟に喋るのは良くないなあ。反省しなさい」


アトラが偉そうに説教していた。というか、それは普段お前がやっていることだろうが!!


「まあ、演技力だけはあるようだから、僕の劇団で面倒を見てあげよう」


「本当ですか?勇者様!!ありがとうございます」


これがきっかけとなり、少年たちは劇団に入ることになった。因みに黒髭の討伐については、アトラが「七色の勇者砲」で焼き尽くし、灰にした、ということにした。トレードマークの三角帽は有名だったから、それで多くの国民が納得したんだけどな。

アトラはというと、自分が大活躍の結末になり、大喜びだったけど。



★★★


あれから1ヶ月、政情も落ち着いた。もともとこの国の王自体が、普通の国の王というより、海洋ギルドのギルマスに近い存在だったそうだ。仕事を割り振り、斡旋し、収益の中からインフラを整備したりしていたそうだ。

そういった伝統もあり、船乗りとしての技能が求められるようだった。まあ、マメラはもともと有名な船乗りだったし、黒髭の艦隊を伝説の海賊「赤髭」と同じ衝角ラムを船首に取り付けて潰した話は有名だから、反対する者はいなかった。


マメラが女王になって行った施策を紹介する。まずは「海賊行為の禁止」だ。

元々、海賊で生計を立てている者はほぼおらず。特に影響はないように思われたが、逆に他国との仕事が増えた。国によっては「海賊に仕事を頼むなんて」と敬遠していた国からも仕事がもらえるようになったのだ。


そして次は、首都アルジの「リトルバリス」化計画だ。

ボンジョール王国の王都バリスから劇団や有名レストランの支店を招致して出店させた。元々海産物が豊富に取れるのだが、調理法はシンプルに煮るだけ、焼くだけだった。これにバリスから来た料理人たちは燃えたという、本場のバリスの味を味合わせてやると。

また演劇も本場バリスの演劇が見られるとあって、演劇ホールもレストランも連日、大盛況のようだ。国外からも多くの貴族や商人たちがやって来ている。


これには、第三王子を中心としたボンジョール王国の支援も大きかった。これはボンジョール王国の思惑が大きく影響する。ボンジョール王国から虎王国がある東大陸に行くには、今までは帝国、竜王国を通るルートしかなかった。海賊を自称する国とは、交渉しないというのが理由で海洋国アルジェットとは国交を結んでいなかった。しかし、マメラが女王になり、海賊行為の禁止を宣言したことで、ボンジョール王国⇒クリスタ連邦国⇒海洋国アルジェット⇒虎王国のルートが確立されることになり、ビッグビジネスのチャンスと見たのだろう。


しかし、俺はこれだけが理由じゃないことを知っている。

第三王子がマリア様とマリー王女に「これで、安全に里帰りができるな」と言っているのを聞いたからだ。こっちが本当の理由だと思うが、立場的にそうは言えないのだろう。


最後はマメラの個人的なつながりによる仕事が増えた。

虎王国や餓狼族の里への搬送業務や竜王国での魔物討伐任務も受注するようになった。これには、国民も大喜びで、マメラの支持も高まった。同じ作戦を経験して、マメラの人柄は十分理解してくれているから、信用に値すると思ったのだろう。



★★★


「出発は明後日だったかい?」


「そうだ。盛大に見送ってくれよ」


俺はマメラと食事に来ている。新規にオープンしたバリスのレストランの支店だ。この店は力を入れていて、サファイアシェフも連れてきているそうだ。味も抜群だ。


「そうだね。だけど、自分が出て来る演劇を見るのは変な気分だね。何かむず痒いというかさ。それに脚色しまくって、おかしなことになっているし・・・」


マメラが言っているのは、さっきまで二人で見ていた演劇「勇者アトラと女海賊」だ。アトラとマメラがダブル主演のような形の演劇だったが、8割方嘘だった。アトラが「これは聖なる衝角ラムだ。これで黒髭を打ち倒そう!!」という意味不明なシーンまであるのだ。


「そんなもんだ。「勇者アトラとクラーケン」なんてもっと酷いぞ」


「そうだね。あの劇の船長は酷いね。かなりコミカルで面白いんだけどさ」


「女王権限で、上演禁止にしてくれたら有難い」


「無理だね。そうしたら多分、女王はクビだね」


他愛の無い会話が続く。

因みにあの少年と少女も「勇者アトラと女海賊」に出演していた。少年は黒髭役、少女はなんとアトラ役だ。本物の黒髭が黒髭を演じ、黒幕の聖女が勇者を演じているという事実は、ごく限られた一部の者しか知らないけどな。


レストランを出たところで、俺はマメラに尋ねた。


「ところで今日はどうしたんだ?」


「船長には世話になったから、お礼をしようと思ってね」


「そうか、でもありがとう。演劇も面白かったし、料理も酒も旨かったよ」


「そう言ってもらえると嬉しいよ。それでなんだが・・・・よかったらここに残らないかい?もちろん、報酬は今の倍は払うし、3年後には王様にしてやってもいい。あの馬鹿勇者と一緒にいるより、いい条件だと思うんだけどね」


魅力的な話だが、断ることにした。


「そんなことをしてみろ。俺もマメラもアトラに殺されるぞ。それどころか、国も亡びる。俺はマメラを海洋国アルジェットの最後の女王にはしたくないからな」


「そうかい。また近くに来たら寄ってくれよ。船長も気を付けてな」


マメラとはそこで別れた。帰り際にマメラが何かつぶやいていたが、よく聞こえなかった。





「予想していたけど、フラれちゃったね・・・・」

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