72 黒髭討伐 2
いよいよ決戦が始まる。
海洋国アルジェットもクリスタ連邦国と同じような島国だ。国土は、大きめの本島とその周辺に無数に点在する島から構成されている。黒髭が居るのは、本島の首都アルジの王城だ。アルジの小高い丘の上に王城はあるのだが、そこまで行くのに上陸しなければならない。アルジには大きな港が二つあり、北港と南港と呼ばれている。北港のほうが王城に近いので、敵はここの守備を固めて来るだろうというのが大方の予想だった。実際そうなっている。
最初に北港にボンジョール王国海軍が砲撃を開始する。当然、北港に上陸してくることを予想している敵も激しく応戦している。この攻防が始まってしばらくして、今度は南港に北港よりも多い戦力を差し向ける。当然レオニール将軍が率いる帝国軍もこちらにいる。
多少、軍略を勉強していれば、北港は囮で、こちらが本命だと気付くだろう。当然、予想できる範囲のことなので、敵も対応は早かった。
このまま、二つの港を断続的に攻め続ければ、いつかは陥落するだろう。しかし敵、味方共に多くの犠牲が出ることは間違いない。
そこで俺が考えた作戦なのだが・・・・
「よし!!僕の出番だね。勇者砲でめちゃめちゃにしてやるよ!!」
「馬鹿!!マメラが女王になっても国が更地になったら意味がないだろうが!!だから思いもよらない作戦を取るんだ。作戦というのは・・・・」
「なんで、僕に秘密にしてたんだ!!死んでほしいのか?」
「いや、その・・・・あれだ・・・サプライズだよ」
苦し紛れの言い訳だが、アトラは納得した。
「お姉さんの結婚式でやったやつだね?そうか・・・ネルソンが僕のことを大切に思っていることは知っていたけど、そこまでとは思わなかったよ。でも、気持ちには答えられないけどね」
アトラはまだ、サプライズの意味を勘違いしていたようだ。大切な人を驚かせる行為だと本気で思っている。まあ、これで納得してくれたらそれでいいんだけどな。
合図を出すと、カーミラ王女以下10騎の竜騎士がクリスタリブレ号の甲板に降り立った。
「どの艦も準備万端だ。早速参ろう」
★★★
俺が考えた作戦は、囮の囮作戦だ。敵の司令官からすれば、相手の作戦を完璧に防いだと思っている。ここで、予想もしない竜騎士の強襲があれば対応できないだろう。なので、カーミラ王女たち竜騎士に一気に敵の王城まで一緒に行ってもらい、強襲することになったのだ。
デイジーが言う。
「船長殿、少し言いにくいのだが、デイドラがアトラを乗せたくないそうだ・・・説得しているが・・」
まあ、それはそうだろう。あれだけ酷いことをしたんだしな。それに未だに名前で呼ばずにドラゴン呼ばわりだから、俺でも乗せたくないと思ってしまう。
そんなとき、カーミラ王女が助け船を出してくれた。
「船長殿と勇者殿は我のサギュラに乗るといい。スピードも安定感も竜王国一だからな」
「ありがとうございます。それでは遠慮なく。ところで、少しサギュラさんを撫でていいですか?」
「構わんが、どうしたのだ?」
「それがですね。デイドラが言うには、『サギュラさんの鱗は素晴らしい、あんな美しい鱗を持つドラゴンはそうそういない』っていつも言っていますからね。だから少し撫でたくなったんですよ。それに飛行中の姿も凄く綺麗だって言ってましたよ」
サギュラは恥ずかしそうにカーミラ王女に顔を擦りつけていた。
「流石のサギュラも恥ずかしそうだな。船長殿、その辺にしてやってくれ」
「すいません」
このとき、アトラの瞳が怪しく輝く。
「おい、そこのドラゴン!!サギュラさんのことが好きらしいな。僕への態度を改めないと、どうなるか分かるよね?サギュラさんにお前の悪行を言い聞かせるとどうなるかな?楽しみだなあ」
「キュ、キュ・・・」
デイドラは、不満の声を上げながらも、服従のポーズを取ろうとする。しかし、そんなアトラに天罰が下る。
「分ればいいんだよ。グハッ!!」
勇者はサギュラに殴られていた。ドラゴンの恋路を邪魔したのだから当然の報いだろう。
「おい!!ふざけるのは作戦が終わってからだ。集中しろ!!カーミラ王女、出発してください」
「うむ。全騎浮上!!これより強襲する」
緊張感のないやり取りの後、あっという間に王城に着いた。襲撃に参加した竜騎士は30騎、そこに獣人連合軍の精鋭50人も乗せてやってきたのだから、瞬く間に制圧していく。彼らが強力なこともあるが、主戦力を二つの港に割いていたことも大きな要因と言える。
王城の奥の玉座の間には、黒髭と思われる、物語の海賊がよく被っている三角帽子、無駄にキラキラした装飾品を付けた男が玉座に座っていた。その横には修道服の女性もいる。マメラが声を掛ける。
「海賊を名乗るんなら、こんなとこに引き籠ってないで、海の上で決着をつければよかったのに。丘海賊じゃあるまいし!!」
男が反論する。
「俺は伝説の海賊「赤髭」の生まれ変わり、黒髭だ!!こちらの聖女様もそう言っている。俺が海に出ないのはお告げがあったからだ」
聖女と言われた女性も続く。
「そのとおりです。こちらの方は、この国の王となるに相応しいお方、伝説の海賊「赤髭」の生まれ変わりに他なりません。逆らうということは、神に楯突くに等しい行為です。その覚悟はありますか?」
この二人が嘘を言っているのは、間違いない。しかし、完全に嘘と断じることもできない。最終的には力ずくで認めさせてもいいんだが・・・・
そんなことを考えていると、その二人がいきなり火だるまになった。
「熱い、熱い!!死ぬ!!」
「イヤー!!やめて!!」
アトラが火砲を撃ち込んだのだ。一緒に居たニコラスが言うには、戦闘不能になっている者に攻撃を加えたり、壁や床に無意味に通常砲を撃ったりして酷かったらしい。余計なことをしていたので到着が遅れたようだ。それで、これまでの流れが理解できていなかったので、こんな暴挙に出たようだった。
「この二人が悪い奴なんだね。僕がやっつけてやる」
やっつけてやるも何も、いきなり火だるまにしやがって!!
物語でも演劇でも、悪役の話を聞いてからだろうが!!
「アトラ、とりあえず水砲を掛けろ!!コイツらから話を聞かないと!!」
「もう!!いいところだったのに・・・」
アトラは渋々水砲を放って、二人の火を消した。するとそこには少年と言っていい位の男と聖女とは言えないようなあか抜けない少女が現れた。
どうやら、少年が黒髭のようで、アトラの攻撃を受けてもがいたことで、付け髭が取れてしまったようだ。少女についても修道服を脱ぎ捨てている。
「あれ?お前は確か、「白髭酒場」のボーイじゃないか?よく見てみれば、そっちはウエイトレスの娘だね?どういうことか説明してもらおうか?」
「マ、マメラさん・・・お久しぶりです・・・・それがその・・・」
少年が語ったのはこうだった。
白髭酒場は多くの船乗りが集まる店で、評判のいい店だそうだ。そこでボーイとして働いていた少年は、仕事の合間に船乗りたちに色々な物語を聞かせて、小遣い稼ぎをしていたそうだ。あるとき、見慣れない男たちの目に留まり、スカウトされ、「赤髭」の生まれ変わりの「黒髭」として活動することになったそうだ。少年は当初、自分が物語を語って聞かせる吟遊詩人か、舞台俳優みたいな仕事をさせられると思っていたのだが、実際は王位の簒奪に加担させられたそうだ。
「僕は船乗りに成りたかったんです。ただ、体力がなくて、船酔いも酷くて諦めたんですが、この話をされたとき、伝説の海賊の生まれ変わりとして活動することは魅力的に思いました。でも、前の王様が殺され、妹も聖女役にさせられてしまって、逃げることもできず。男たちの言いなりになっていたら、こんなことに。
それに男たちもいつの間にかいなくなってしまったので、どうしていいか途方にくれていたんです」
「おかしいと思ったよ。海賊王が船に乗らないんだからさ。船に乗らないんじゃなくて、乗れなかったんだね。乗ったら、実力の無さがバレるからね」
「そのとおりです。男たちが言うには、最後まで演じきれば、頃合いを見て助けてくれると言っていたんですが、それも嘘だったようです」
同情の余地はある。この少年と少女も騙されたのだろう。
気が向きましたら、ブックマークと高評価をお願い致します!!




