70 ルート川の決戦
報告によると敵艦隊は10隻、大型艦が3隻、中型艦が4隻、小型艦が3隻の構成になっている。どの艦もそれなりの魔道砲で武装している。艦の性能も帝国海軍の標準艦以上の性能はある。このクラスの艦隊であれば、小国の海軍では太刀打ちできないだろう。
しかし、それだけだ。恐れることはない。帝国程の物量はないし、クリスタ連邦国程の操船技術もない。魔道砲もいいとこ中の上といったところだろう。
それに俺たちは地の利がある。マメラの艦隊と獣人連合軍がこの決戦場所付近で、合同訓練を繰り返しているし、敵から鹵獲した艦船や竜王国に鹵獲されていたマメラの艦船も返還されたので、こちらの戦力は、艦の性能を考えなければ、20隻以上もあるのだ。
決戦を控え、戦士たちを鼓舞するため、最後の演説をマメラたちが行っている。
「みんな聞いてくれ!!アタイらはあの馬鹿どもを許さない!!アタイらは元を辿れば海賊の末裔だ。ただ、海賊だってやっていいことと悪いことがある。海洋国アルジェットを建国した伝説の海賊「赤髭」は悪徳商人や腐敗した軍の奴等は襲ったが、決して真っ当な商いをしている奴等は襲わなかったそうだ。人の道を踏み外し、「赤髭」の生まれ変わりだと眠たいことをほざいている馬鹿は絶対に許さねえ!!
最後に、巻き込んですまないが、獣人のみんなの協力には感謝するよ。この作戦の肝はアンタらだからな!!」
これに獣人たちが答える。
「水臭いこと言うな。もう仲間だろ」
「狐獣人の里に酷いことをした報いを十分に受けさせたとは思っていない」
「これも訓練みたいなもんだ。若い者には経験を積ませたいからな」
そんな中、最後に美味しいところを持っていく奴が現れた。
「みんな期待しているよ!!勇者の僕がいるから大丈夫だ。つまり、これは聖戦だ。悪を打ち倒す聖戦!!そう、君達も勇者だ!!悪を打ち倒すぞ!!」
「「「オー!!」」」
歓声が上がる。ここまで何もせず、美味しいところだけ持っていくことに腹立たしさを覚えるが、末端の戦士たちは、勇者のヤバさは知らない。なので、自分たちも伝説の存在である勇者と認められたことに興奮している。まあ、士気が上がったのでよしとしておこう。
★★★
ついに決戦が始まる。
デイドラに乗せてもらい、最後の確認に向かう。敵艦隊を見ると、のんびりあくびをしている水夫や居眠りをしている水夫までいる。これから、奇襲されることも知らないで呑気なもんだと思ってしまう。コイツらは碌に情報を集めずに来たのだろう。このぐらいの規模の艦隊なら何が来ても大丈夫だという驕った心が透けて見える。
決戦を予定していた場所に10隻の艦隊、俺に言わせればカモが到着した。ここには簡易の砦を設置していて、射程に入る前から魔道砲を撃ちまくらせた。これだけで相手は混乱している。更に移動式の魔道砲を岸から小型のすばしっこい獣人達に運ばせて砲撃を繰り返す。すると、艦隊はそれぞれの艦が独自の判断で、目の前の目標に砲撃を始めた。
統率された軍事行動は取れないようだな。これなら、マメラたちのほうが1000倍マシだ。連携もクソもあったもんじゃない。
「まあ、このタイミングだよな。マメラなら分かっていると思うけど」
「そうッスよ!!ここでやらなくて、いつやるんスか?」
ベイラが俺の独り言に相槌を打つ。
それと同じくして、マメラの潜ませていた艦船が姿を現し、10隻の艦隊を包囲し始めた。ただ、これは陽動だ。本命は別にある。相手の主力は3隻の大型艦だ。魔道砲も多く積載しているし、水夫の数も多い。この3隻さえ潰せば、この戦いは終わりだ。
その3隻に向かって、マメラの艦隊から3隻の軍艦が猛スピードに向かって行く。そして、それぞれに体当たりを食らわせた。
体当たりされた大型艦は船体に大きな穴が開いている。マメラの突撃艦には衝角が取り付けられているのだ。
「急遽作った衝角ッスけどいい感じッス。何なら、この船にも付けましょうか?」
「止めておくよ。今回のような奇襲だから成功したんだ。それにこの船は白兵戦向きじゃないだろ?」
「それもそうッスね。浪漫はあるんッスけどね」
この作戦は、雑談から生まれたものだった。何の気なしにマメラに「赤髭」ってどんな海賊だったかを聞いたことがきっかけだ。
「それは勇猛だったらしいよ。どんなに劣勢でも、敵旗艦に突っ込んで行って、衝角で船体にズドンさ。まあ、白兵戦が異常に強かったらしいし、当時は魔道砲も発達してなかったみたいだからね」
これに食い付いたのはドワーフの船大工ベイラだった。
「衝角って作ったことがないんで作ってみたいッス。船長、衝角を使った作戦を考えて欲しいッス」
「そりゃあいいね。アルジェットの船乗りで憧れないわけはないからね。まあ、できればでいいよ」
最初はただの雑談だと馬鹿にしていたが、よく考えてみたら、意外にいい作戦かもしれないと思った。獣人連合軍は、白兵戦は異常に強いし、訓練で船の上での戦闘も慣れてきて、多分海賊崩れの水夫では歯が立ないだろう。ということは・・・・
結局、この作戦は決行されることになった。突撃する推進力は、鳥人族たちの風魔法だ。結果は目の前の光景が示す通り、船に乗り込んで来た獣人たちに蹂躙されている。それはそうだろう、相手からしたら、今の時代に船首に衝角を取り付けて、突撃して来るなんて、夢に思わなかっただろうしな。
戦況を確認するとマメラの突撃艦から次々に相手艦船に獣人達が乗り移って、蹂躙している。勝負がつくのも時間の問題だ。
「僕も活躍しないとなあ・・・勇者だからなあ・・・活躍できなかったら、死ぬかもしれないなあ」
またコイツか・・・・
戦況を見ていると運よく、相手にしてみれば運悪く、1隻の中型艦が反転し、仲間を見捨てて逃げようとしていた。
「アトラ、あの中型艦が逃げ出して、射程に入ったら撃ってもいいぞ。但し、3発までだ」
「3発か・・・まあ、少ないようだけど、撃たないよりはいいか」
しばらくして、射程に入った中型艦は3発の勇者砲を受け、もう原型をとどめない姿になっていた。
これが意外な効果を生み出す。次々と相手艦隊が投降を始めた。それはそうだろう。誰だって木っ端微塵にはなりたくはないしな。
これにて、語り継がれることになる「ルート川の戦い」は幕を閉じることになり、世界中にこの報は駆け巡ることになる。マメラは「人の道を踏み外した黒髭を許さない。黒髭を討伐する」と声明を出した。新聞の一面には「赤髭の再来!!」「衝角で黒髭の主力艦隊を粉砕!!」「正義の女海賊誕生!!」などの見出しが躍り、マメラを持ち上げる記事ばかりだった。
しばらくすると、マメラを支持するアルジェットの船乗りたちが続々と臨時の拠点である、虎王国の王都ラオフに集結するようになった。それに各国ともにマメラを支持する声明も発表された。
どうも、早すぎる。これは第三王子辺りに利用されているな・・・
そうは思うものの、どうすることもできず、このまま黒髭討伐が決行されることも自然な流れだろう。後は、この討伐劇をどう締めくくるかと、これを利用して利益を掠め取ろうする奴等とどう折り合いをつけるかだろうな。
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