68 獣人連合軍
そこから動きは速かった。虎王国の女王はすぐに使者を出して、精鋭部隊をこの里に集めるという。
「虎殺隊も招集しろ。この時の為にあるような部隊だからな」
餓狼族の族長は、周辺の獣人の集落に声を掛け、義勇兵を募るようだった。しかも、近くにはハープと同じ鳥人族の集落もあるそうで、そこに言えば、情報を伝達してくれるらしい。もちろんハープがその使者として出向くことになっていた。
「いっぱい居たよ~ついて来たいっていうんで、連れて来たよ~」
ハーブに連れられて、3人の鳥人族がやって来た。この3人は協力的で、虎王国の王城にも伝達に行ってくれるそうだ。これで、情報伝達の速度が格段にアップした。
★★★
3日後、戦力が揃う。虎王国の精鋭部隊、虎殺隊300名、餓狼族を含む獣人部隊が500名が揃っていた。
相手方の戦力も判明した。これはハープたち鳥人族の活躍も大きい。
まず、場所だが餓狼族の里よりも更に川を遡ったところにあり、狐獣人の里があった場所だと言う。狐獣人の里の元の人口は約200人位、そこに外部から連れて来た奴隷が100人程、それを監視する常駐の部隊が300人程いるようだった。こちらは単純計算しても800名の戦力がある。余程のことがない限り負けないだろう。
ただ、問題はその後だ。海洋国アルジェット、そしてその国の王と結託する聖神教会、これらの活動を潰さなければ、また同じことが起こるだろう。そのためには・・・・
色々と考えていたところに虎王国の女王と餓狼族の族長に声を掛けられた。
「実は頼みたいことがある」
「俺にできる事であれば受けますけど・・・」
「実はな・・・連合軍の総司令官をやってもらいたい。もちろん勇者殿にな」
「はい?」
あまりにも無茶苦茶な頼みで、一瞬言っている意味が分からなくなった。落ち着いて聞いてみると納得はできた。
「つまり、虎王国の女王が総司令官になっても、他の族長たちが総司令官になっても角が立つということですね?」
「そのとおりだ。今回は協力していても、過去にいざこざがあった部族もおるし、虎王国に反発している部族もある。これは餓狼族についても同じだ」
「勇者様には話を通しておきます。多分、何も考えずに受けると思いますけど」
「だからだ。船長に期待しているのだ。勇者を影で操ってくれるとな」
これを受けなければ、連合軍自体が動き出さない。仕方なく受けることにした。アトラに伝えると大喜びだった。
「いいよ。それが勇者の務めだからね。まあ、あのおばさんたちも反省してくれたようで、よかったよ。細かいことはネルソンに任せるよ。僕も忙しいからね。これからポチのご両親とモフモフする約束をしているからね」
反省はお前もしろ!!それにモフモフって、それは趣味じゃないか!!
アトラが総司令官となることを了承したと伝えると、本格的に軍議が始まる。
「総司令官代理として言わせてもらいますが、狐獣人たちの保護を第一優先にし、こちらの味方にも被害が出ないようにと考えています」
ここで、熊獣人の代表が口を挟む。
「馬鹿勇者の代理だから、我ら獣人を使い潰すと思っていたのだが、どうやら違うようだな。ところで勇者殿はどこだ?」
コイツは分かっていて、言っているよな?
「呼んで欲しいのなら呼びますが、軍議と呼べるものではなくなりますけど」
「冗談だ。餓狼族の族長や虎王国の女王から聞いている。いきなり水をぶっ掛けられたくはないからな」
軍議は続く。どの部族も戦闘民族なだけあって、話は早かった。狐獣人の里の奪還はすぐにできるだろう。問題はその後だ。
「里の奪還作戦は先程話した通りです。現在、船着き場に居る艦船を我々がすべて撃沈したら、後は好きにやってください。願わくば、生け捕りにしてもらえると助かります。人道的な立場というよりは、情報を引き出したいからですがね」
「なるべくそうしよう」
軍議が終わり、準備が出来次第出発することになった。
★★★
クリスタリブレ号に乗り、狐獣人の里を目指す。途中、ハープから既に地上の突入部隊の配置は完了したとの連絡を受けた。
「じゃあ、そろそろ行くか!!戦闘開始だ!!」
里の船着場には大型艦1隻、中型艦が2隻の計3隻だった。これなら大したことはない。
「ベイラ!!魔道砲で砲撃だ。壊しきるなよ」
「了解ッス!!ゴブリン隊、砲撃開始ッス!!なるべく船の航行に支障がない場所を狙うッス!!」
これにはいくつか理由がある。一つは突入部隊の負担を減らすためだ。ワザと船の損傷を最低限にして、船に乗って追いかけて来させ、地上戦闘を行う人員を減らす。もう一つは、情報を引き出す目的で捕虜にするためだ。一応、虎王国の女王たちに頼んではみたが、多分あまり期待できないだろう。虎殺隊と餓狼族の精鋭部隊との模擬戦を見たが、手加減ができない性格のようだった。なので、こちらで最低限の捕虜を確保したいからな。特に海洋国アルジェットの情報がほしいので、船乗りだと最適だ。
作戦は上手く行き、水夫たちが乗り込み、3隻の艦船はこちらに向かってきていた。砲撃はしてくるが、当たらない。頃合いを見て、アトラに指示を出す。最後の理由は勇者様対策だ。活躍の機会を与えなければ、キレて死んでしまうからな。
「アトラ、そろそろ頼む」
「やっとだね。マリー!!僕の勇者砲の威力をよく見ておくように。こんな間近で勇者砲が見られて幸せだと思うよ」
「はい、勇者様」
因みにマリー王女とタイガ王子、ガル君もクリスタリブレ号に乗っている。タイガ王子とガル君は地上部隊での参加を表明したが却下されたので、こちらに乗船することになったのだ。
「勇者砲発射!!」
3発ですべてが終わった。3隻とも土手っ腹に命中し、今にも沈みかけている。水夫たちは次々に川に飛び込んでいる。拡声の魔道具で勧告する。
「ボートを出してやる!!大人しく武装解除するなら、捕虜としての身分は保証しよう!!」
捕虜となったのは30人程だった。まあ、全員助けることはできないからな。
しばらくすると陸上部隊からも狼煙が上がる。ハープに確認を頼んだところ、制圧が終了したらしい。
★★★
捕虜を回収した後、クリスタリブレ号も狐獣人の里に上陸した。見るに堪えない惨状だった。奴隷たちはやつれていて、その付近には多くの奴隷達を監視していた者たちの死体が転がっている。
虎王国の女王に聞く。
「そちらの被害は?」
「ない」
「確認で聞きますが、捕虜は?」
「いない。見てのとおりだ」
「分かりました。ご子息にはこの惨状を見せられませんので、船から降ろさないように・・・」
言いかけたところで、遮られた。
「降ろしてくれ。この惨状を目に焼き付けさせたい。将来、人の上に立つ者として必要なことだ」
タイガ王子だけでなく、マリー王女とガル君も降ろされた。三人ともあまりの惨状に言葉を無くしていた。
戦後処理は進む。その中で、奴隷の中のマーマンの男性にマメラが声を掛けていた。
「おや?マドルかい?しばらく見ないうちに大分やつれたようだけど・・・」
「マメラ姐さんですか?お久しぶりです。どうしてここに?」
とりあえず、このマドルという男から話を聞くことにした。
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