67 神獣
餓狼族の里に着き、女王と族長の会談が持たれるが、お互い「神獣様を出せ!!」、「麻薬を売るな!!」の主張ばかりで、平行線を辿る。双方とも相手の主張には身に覚えがないようだった。
アトラはというと里の子供たちと一緒にじゃれ合っていた。「七色の勇者砲」で虹を出したり、温水を出したりして、子供には人気のようだった。マリー王女とマリー王女に手懐けられたタイガ王子の協力で、餓狼族の族長の息子であるガル君も遊びの輪に入ることになった。そして、ポチやデイドラも出て来て、子供たちを遊んでやっている。
人の気も知らないで、呑気なもんだと思ってしまう。
肝心の議論はというと、平行線のままだ。仕方ないので、一旦休憩をすることを提案した。散歩がてら、屋敷の外に出る。そのうち雑談が始まる。虎王国の女王が話始める。
「しかし、其方の御子息は大変つらい目に遭ったと聞く。我が息子も酷いと思ったがな」
「貴殿の御子息もあの馬鹿の被害に遭ったのか・・・いきなりモフられるなど・・・どちらも耐えきれんな」
「うむ、これがあの馬鹿ではなく、普通の常識的な使者であれば、このような事態にはならなかった。流石にここまでの馬鹿とは、我も思わなんだ。名誉挽回の機会を与えたつもりであったが・・・そのことについては詫びよう。すまなかった」
「そのことはもういい。今後二度とあの馬鹿とは会わん。それで終わりだ」
何かアトラのことで少し仲良くなっている。共通の敵がいると親密度が増すというのを海軍の昇格者研修で習ったことがあったが、そんな感じなのだろうか?
そんな話をしていたところにポチよりも一回り大きい犬?狼?が姿を現した。それも2匹、どうやら番のようだが・・・
すると餓狼族の族長は慌てた様子で平伏する。
「これは神獣様!!どうしてこちらに?申し訳ありませんが、まだ見付かっておりません。こちらの虎王国の者が隠しておるのは分かっているのですが」
「なあに、ここへ来たのはかなり騒がしく、光が漏れ出ていたからな。何かあったのかもしれんと思ってな。それにそちらの者からは懐かしい匂いがする」
神獣様が俺に言う。多分アトラが光砲を撃ちまくったのが原因だろうけど、匂いってなんだ?
「族長様、神獣様とはどういった方なのでしょうか?」
「神獣様とは伝説のフェンリル様のことだ。実は神獣様の御息女が行方不明になっているのだ。何者かに攫われたことは間違いないが、そのとき、虎獣人が関与しいるとの目撃情報もあるのだ」
「そうなんですね。その神獣様とよく似た犬はウチの船にいるんですけどね。もしかしたら・・・・」
そう言いかけたところで、ポチが猛スピードで駆け寄って来て、神獣様とその奥様に鼻を擦りつけている。
族長が言う。
「この方は、行方不明となっていた神獣様の御息女であらせられる。こんなところで・・・これは一体どういうことだ?」
俺はポチを育てている経緯を説明した。マリー王女がポチを保護したのも、この里から下流に下った森の中だったそうだ。そして、マリー王女からポチを譲り受けたことも付け加えて話す。
「となれば、そちらのマリア殿とマリー殿は神獣様の御息女の恩人ということになる。となれば、我らの勘違いだったということか・・・・虎王族の女王よ。我の非礼を詫びよう」
「誤解が解けたようで何よりだが、麻薬の密売についてはどうだ?」
「それこそ、覚えがないのだ。変な物が里に持ち込まれたら、我らの鼻で気付くからな」
ここで俺が推測を口にする。推測だが、かなり確度は高い。
「これはあくまで推測ですが、これは帝国又は聖神教会の意図が感じられます。理由を言うと・・・」
セガスに確認を取り、アトラの過去を話してもいいか聞いたところ、今回に限り許可すると言われたので、それを踏まえて、話していく。
虎王国の女王が言う。
「つまり、あの勇者は他国に戦争の火種を起こすために作られた存在ということか・・・ならば、餓狼族と仲違いさせれば、虎王国の国力は落ちる。そこを付け込むということか」
餓狼族の族長も続く。
「我らを騙し、神獣様を攫うなど絶対に許せん!!根絶やしにしてくれる」
一応、これで誤解は解けたみたいだけど、問題はポチのことだ。伝説の神獣フェンリルというのは、全くの予想外だった。でもよく考えてみると、ニコラスを通じてだが、意思疎通ができ、ドラゴンを従えるなんて普通はできないからな。
するとニコラスも事情を察したようで、寂しそうにポチに語り掛ける。
「ポチ、よかったね。お父さんとお母さんに会えて・・・もうお別れだね。寂しいけど、ポチは家族と暮らしたほうがいいよ」
これに神獣様が反応する。
「少年よ。それは心配せずともよい。娘は立派な成獣だ。だから我らと暮らす必要はない。何年かに一度、元気な姿を見せてくれたらそれで良い。それにお主は、御使いと呼ばれる能力があるのだろう。若い神獣は人間の言葉が話せんから、そういった存在が必要なのだ。500年以上生きた我ぐらいになれば必要はないがな」
ニコラスも笑顔を浮かべた。
「御使いというのはよく分かりませんが、ポチとこれからも一緒にいる許可をくれて、ありがとうございました。大切に育てますからね」
「お互いが愛情を注ぎ合って、成長していけばそれでいい。また成長した姿を見せてくれ」
虎王国と餓狼族は和解し、ポチも親子の再会を果たした。周囲は温かい空気に包まれている。そして、ここに恐ろしい人物が現れた。
「この奇跡はすべて僕のお陰さ。ワザと女王や族長を怒らせて、この場を作ったのはこの時の為だったんだ!!」
そんな訳ないだろ?と思うが、マリー王女は信じているようだった。
「流石です。勇者様!!少し疑った私をお許しください」
よく分からないタイガ王子とガル君も続く。
「勇者様って実は凄かったのか・・・あれも演技だったのか」
「俺に水を掛けたのも、意図があったんだな。ブチキレて浅はかだった・・・」
君たちは騙されているよ。とは言えない状況で、女王も族長も微妙な雰囲気を醸し出している。アトラの言葉を完全に否定できないからだ。
仕方なく俺は話題を変えることにする。
「これで、神獣様の誘拐事件は一応解決ですが、後は麻薬の密売の関係が残っているようなので、それを話し合いませんか?」
すると意外なことに神獣様が発言をする。
「それに直接関係があるかどうか分からんが、狐獣人の里から異臭がするのだ。それに外部から多く人を入れているようだし。それも聞こうと思ってここに来たのだ」
それって、明らかに麻薬工場じゃないか!!
これで、事態は動き出すことになる。
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