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66 餓狼族

「絶対に今度はトラブルを起こすなよ!!それにモフモフは絶対に禁止だからな」


「いつ僕がトラブルを起こしたんだ?」


もう駄目だ。

仮にも公爵令嬢なのに・・・・


餓狼族の族長との面談を前に、アトラに釘を刺したが全く効果がない。俺の代わりにミケがレクチャーしてくれたが、一応は理解はしたそうだ。そしていよいよ、餓狼族の族長との面談を迎えるのだが・・・


餓狼族は虎王国の支配を受けていない。特に問題も起こさず、領土的野心もないので、住み分けができているそうだ。虎王国周辺には、そういった部族ごとの集落が多くある。

餓狼族の里までは、クリスタリブレ号でルート川を上流に遡ってやって来た。虎王国の王都からこの里まではルート川を使うか、強力な魔物が生息する森を抜けるしかなく、街道も整備されていない。

虎王国の女王の話では、餓狼族は独立心が強い。間違っても虎王国の属国扱いした日には生きて帰れないだろうと話していた。


「最後に言うが、絶対に失礼なことはするなよ!!」


「何を言っているんだ。僕は歴とした公爵令嬢だぞ」


本当に頼むぞ、アトラ・・・・



★★★


面談の場は族長の館だった。それなりに立派な作りだったが、特に凝った装飾品などはなかった。こちらも物欲はあまりないのだろう。特に酒や料理も用意されておらず、あまり歓迎されていないことが分かる。

しばらくして族長が出て来た。族長は狼獣人の女性だった。


「里の者を帰してくれたことは礼を言う。礼の品として魔石を大樽5つ程持って帰ってくれ。これでもここは良質の魔石が採れるからな。話は以上だ。なるべく早く立ち去ってくれることを願う」


これにマリア様が待ったを掛ける。


「族長殿、少し話を聞いてください。このままでは虎王国も餓狼族の里も、被害が増えるばかりです。それに我が姉は餓狼族が麻薬を売り捌いていると疑っているのです。このままでは・・・」


「それを言うなら、我らが神獣様をどこにやったのだ?目撃証言から虎獣人が絡んでいるということは掴んでいるのだ。我らに濡れ衣を着せ、神獣様の件を有耶無耶にしようとしているのだろうが、そうはいかんぞ。他国へ嫁いだお前に言っても仕方がないがな」


よく分からないが、虎王国と餓狼族を誰かが戦わせようとしているのではないかと推測される。このやり方は帝国方式とでもいうのだろうか?対立構造を作り、弱体化させる。虎王国も狙われているということだろうか?


そんなことを思っていると、急に外から騒がしい声が聞こえてきた。今回の族長の面談では、安全策を取って、アトラを外で待機させることにしていた。渋るアトラだったが、マリー王女が付き添うということで納得していたのだ。まさか、アトラがまた何かやったのか?


「貴様!!何たる屈辱!!この人生で最大の屈辱だ!!」


慌てて外に出ると、そこには、「七色の勇者砲」を構えたアトラとずぶ濡れの餓狼族の少年が口論をしていた。


「マリーに意地悪をする奴は、僕が許さない!!反省が足りないようだから、もう一発くらえ!!爆ぜよ水砲」


アトラは躊躇することなく水砲を餓狼族の少年に打ち込んだ。水圧で少年は転がり、泥だらけになっていた。ミケが怯えて、震えながら言う。


「も、もう終わりニャ!!人前で水をぶっ掛けられることは獣人にとって最大の屈辱ニャ。刑罰としているところもあるくらいニャ」


「なんで、お前はそれをアトラに教えなかったんだ」


「まさか、そんなことをするなんて思うわけないニャ!!」


ここで族長が今までにない怒号を響かせる。


「貴様等!!我が息子に何をする!!説明をしろ。返答によっては、いくら恩があるとはいえ、処刑してやるぞ」


現場を見ていたマリー王女が説明をするには、この餓狼族の少年は族長の息子で、マリー王女とも以前からの知り合いだったそうだ。久しぶりの再会だったので、少年が少し悪戯で、マリー王女の気を引こうとして、プレゼントの箱に虫を仕込んでいたそうだ。それで、驚いたマリー王女が尻もちをつき、勘違いした勇者が水砲で少年を撃つという暴挙に出たそうだ。


「ガルは、いつも悪戯ばかりしてくるから、怒るというよりも、またやられた悔しいって感じです。だから今度は、やり返そうって思うくらいで、そこまでされるのは可哀そうです。いくら勇者様でも、今回は常軌を逸しています」


マリー王女、今回ではなく、常軌を逸しているのはいつもですよ!!


「我が息子が年甲斐もなく、悪戯をしたことは詫びよう。しかし、マリー王女が言ったとおり、ここまでされる謂れはない。このままでは我らも収まりがつかん。それで、今回お前たちは里の者を帰しに来た恩人であると同時に虎王国の使者という側面もある。よって虎王国の女王にもその責任があると考える。1ヶ月以内に謝罪に来いと伝えろ!!そうしなければ、たとえ、刺し違えても虎王国を滅ぼしてやる」


平和の使者どころか、戦争を誘発させるテロリストだ。まあ、帝国がアトラを作った目的はそうなんだろうが・・・


今回は、流石のアトラも凹んでいた・・・わけではなかった。


「なんだよ。マリーに意地悪をした子供にお仕置きしただけだろ。この国に来てから碌なことがない。もう帰ろう。元奴隷たちを送り届けるという任務は完璧にやり遂げたんだ。これ以上感じの悪い国にいるのは、もう耐えられない。ネルソン、もうこのまま帰ろうと思うんだけど、どうかな?」


「いや、普通に考えても駄目だろ。とりあえず、虎王国の女王陛下にはキチンと説明して、謝罪しないとな」


「また、怒りんぼのおばさんの所に行くのか・・・もう死にたいよ」



★★★


アトラは文句を言ったが、全速力で王都ラオフに戻り、女王に事の顛末を伝える。


「もう開いた口が塞がらんわ。いきなり交渉相手の息子に水をぶっ掛けるとは。しかし、我に責任がないとは言い切れん。其方の船は高速で移動できると聞く。ならば、我らを餓狼族の里に運んでほしい。和解するにせよ、戦うにせよ、遅かれ早かれ一度話はせんといかんと思っておったのだ。いい機会だ」


結局次の日には餓狼族の里に戻ることになってしまった。

まあ、アトラと俺でスクリューを回せば、1日で着くからいいんだけど。


船内では、少しでも女王一家のご機嫌を取ろうとマリー王女を中心に奮闘していた。タイガ王子の接待をしていたのだ。ニコラスに頼んでポチに乗せてもらったり、デイドラにも乗せてもらえるようにしていた。


「デイドラは、「あの馬鹿の所為なのに、なんでこっちがフォローしなくちゃいけないんだ!!」ってかなりキレてましたよ。そこはポチが押さえつけましたけど・・・」


俺にできることは、とにかく早く餓狼族の里に着かせることだ。

しかし、着いたところで、よい未来は想像できないんだけどな。

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