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64 海賊の事情

捕らえた女海賊はマーマンで、名前はマメラという。海洋国アルジェットの船乗りだった。

海洋国アルジェットは伝説的な海賊「赤髭」が建国した国で、今でも海賊行為を合法とされている国だ。帝国が私掠船を使役していたようにコソコソとしたものではなく、大っぴらに海賊行為を認めているのだ。

しかし実際は、海賊行為をすることは稀で、「海賊をしてやる」という脅しを背景に護衛料や魔物退治で稼いでいるのが現状のようだ。


「海賊で生計を立ててたのは、何代も前の話さ。今は隠れてコソコソやっている奴はいるが、ごく少数だ。

アタイらも護衛料や魔物討伐で生計を立ててたんだが、王が代替わりしてからおかしくなったんだ。教会と手を組みだして、アタイらのような亜人や獣人を排斥し始めた。護衛や魔物討伐の仕事から締め出された。代わりに東大陸の村々から獣人奴隷を集め、麻薬工場に運ぶ仕事が斡旋され始めた。確かに報酬はいい。だが、人の道を踏み外した行為だ。

これなら海賊に戻った方がいいと思って今に至るわけさ。ウチの国では合法だからね」


俺はカーミラ王女に提案する。


「麻薬関係の情報の対価、今後二度と海賊行為はしないという条件で、減刑を求めます。資料によっても大分良心的な海賊のようでしたから。それになかなかの操船技術を持っていますから、殺すのは惜しいと思います」


「貴殿がそう言うのなら、検討しよう。しかし、これは我だけで判断できん案件だな。至急陛下に伺いを立てよう」


ここでマリア様が意見を言う。


「勇者殿、それに船長殿、この女海賊の話が本当であれば、すぐにでも虎王国に向かいたいのです。今も攫われている住民たちがいるかもしれません。女王である姉に言って、対策を取らなければ・・・」


カーミラ王女が答える。


「マリア殿、とりあえず、この者の供述をまとめたものを我が書面としよう。それを元に虎王国の女王陛下に進言するといい。それにしばらくは我らもここに滞在しよう。ネルソン殿なら、虎王国からでも3日とかからず到着できるだろうから」



★★★


すぐに無人島を出発する。マメラだけは、クリスタリブレ号に乗船させた。虎王国周辺海域や麻薬関係の情報をもっと聞き出したかったことと、信頼されているお頭が別の場所で拘束されているとなると島に残されている子分たちも下手なことはしないというのが理由だ。


「事情は分かったけど、アタイを拘束しないってどういうことだ?捕まっている身のアタイが言うことじゃないかもしれないが、油断し過ぎだろ?」


「そうでもないと思うぞ。だったら海に飛び込んで逃げてみろよ」


「馬鹿にするな!!だったらそうしてやるよ」


マメラは海に飛び込む。しばらくして、ザドラとデイドラが海に飛び込む。するとすぐにデイドラがマメラを咥えて船に戻って来た。


「ドラゴンがあんなに速く泳ぐなんて信じられん。海に飛び込んでも無駄ってわけだね」


「そういうことだ。それとこの船にはボンジョール王国第三王子妃殿下のマリア様と御息女のマリー王女殿下が乗っていらっしゃる。くれぐれも人質に取って、脅すようなことはするなよ」


「なんだい、やれって言っているように聞こえるけどね・・・まあ、やってやるよ。ちょっとその短剣を借りるよ」


すると、マメラはマリア様とマリー王女を人質に取る。


「コイツらがどうなってもいいのか?大人しくアタイの言うことを・・・」


全部言うまでもなく、マリア様にマメラは投げ飛ばされた。


「マリア様、お怪我はありませんか?」


「大丈夫です、私が頼んだことですので。それにこういった輩は力を見せ付けてこそ服従をするものです。水中でならまだしも、地上で私に勝てるとは到底思えませんしね」


マリア様は虎獣人でかなりの実力者だ。第三王子の親衛隊をしただけはある。因みに虎王国では、王は武力で決めるらしい。彼女の姉が国王であると考えると、マリア様が強いというのも納得がいく。


「痛ててて・・・アンタらに敵わないってのは分かった。それで、アタイに何をしてほしいんだい?それなりの仕事をさせようって思ってんだろ?」


「そのとおりだ。お前の操船技術と統率力を見込んでな」



★★★


状況が状況だけにとにかく急いで虎王国に着きたい。そこで、俺とアトラがスクリューを回して輸送船を引っ張ることを考えたのだが、引っ張られる2隻の輸送艦もそれなりの技術がいる。第三王子やマリア様には悪いが船長も水夫も力不足だ。並み以上の能力はあるが、それでも足りない。そこで、マメラにインプたちを統率してもらおうと思った。

実際やらせてみると上手くいった。


ハープに抱き抱えてもらって、輸送船に降り立つ。輸送船同士もロープで連結されていて、2隻の輸送船の中央でマメラは声を張り上げていた。


「もっと息を合わせろ!!そこの虎獣人、しっかりと力を入れろ。もうお前たちは奴隷じゃないんだぞ。いつまでも奴隷根性でいるな!!」


なるほど、元奴隷達も使って、人海戦術で帆を動かしたりしているんだな。考えたものだ。マメラに輸送船を指揮させてよかったと思う。


「マメラ、上手くいっているようだな?元奴隷たちを使うとは考えたものだな」


「まあ、足りない技術を人海戦術で補っただけだよ。それよりも、何だよこのスピードは?やっぱり船底にデッカイ海蛇でも飼ってんじゃないのかい?」


それもどこかで言われた記憶がある。多分、海蛇ではなく、ドラゴンだったと思うけどな。


マメラの活躍もあり、予定よりもかなり行程を短縮して、虎王国の王都ラオフに到着した。

港で手続きをしたら、情報は伝わっているようで、すぐに王城に招かれることになった。その王城と言っても、デカい屋敷くらいだった。マリア様が言うには、豪華な装飾品や調度品に金を掛けることに虎獣人は興味がないらしい。それなら、酒や料理に金を使おうということになるようだ。そして、謁見も堅苦しいことはしないそうで、宴会をしながらざっくばらんにという形だそうだ。


「奴隷となっていた同胞を救ってもらったのだから、余程のことがない限りは友好的に話が進むでしょう。そして、新たな麻薬工場がこの近辺で動き出したことを伝え、同胞たちが更なる被害に遭うおそれがあると訴えれば、必ず協力してくれます。姉はまっすぐな人ですから、受けた恩は返してくれます。それに同胞愛が強いので」


まあ、この謁見で余程のヘマをしない限りは大丈夫ということだ。


しかし、そんなことをやっていのける人物がいることを俺たちは忘れていた。

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