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61 ボンジョール王国の憂い 2

「まあ、僕がそのダービットってことだよ」


そう言ったレオン王子だったが、俺にはよく分からない。ピスカの再来って言われてたけど、ピスカってミケが、ポコ総督に渡していた絵画の作者だよな。凄いことには違いないようだけど・・・


「もっと分かるように言え」


「3年いや、もっと前かな。制作活動に集中するあまり、アトリエに籠りっきりだったんだ。それなりに自分でも納得できる作品ができたと思って、ダービットとして作品を発表するようになったのさ。でも制作活動中は公務ができないから、すべて親切な貴族に任せていたんだけど、少し前に捕まっちゃってね。何かバリスを火の海にしようとしたとかしないとか。それで最近僕が公務をしなくちゃいけないようになってしまって、面倒だからもう王子を辞めようかなと思っていたんだ」


もう開いた口が塞がらない。帝国に利用される以前に政治に全く興味がない。更に聞くと書類へのサインも、その親切な貴族がしていたようだ。


国王が言う。


「この大馬鹿息子が!!今すぐにでも廃嫡してやりたいが、バリスでも有名な画家を廃嫡したとなったら、芸術の国と自負している我が国の体裁が保てん。何かいい方法が・・・」


第三王子が答える。


「私に考えがあります。これはレオン兄さんにとって罰にはならないでしょうが、国としてレオン兄さんを管理する方法は思い付きました」



★★★


次の日、俺たちがやって来たのは、バリスの中心にある大聖堂だった。第三王子の説明によると、スニア派が建設したもので、中を見るとやたらと金ピカの装飾が施されており、俺からしたら、趣味が悪いと言わざるを得ない。


「ここに壁画を描いて欲しいんだ、レオン兄さん。因みにレオン兄さんの処遇だけど、父上から正式に芸術文化大臣に任命される。以前までの総合的な仕事はしなくてよくなるけど、平日は10時から15時まではここで作業をしてもらうことになる。それ以外の時間は好きに別の作品を作ってもらってもいいけどね」


スニア派が失脚した後、この大聖堂をどうするかで、ボンジョール王国の首脳陣は頭を悩ませていたそうだ。管理を依頼したカルバン派が断ってきたからだ。カルバン派の代表者が言うには「清貧を謳っている我々が、こんな豪華絢爛の悪趣味な大聖堂を管理していたら、裏で悪いことをしていると言われかねない」と言っていたそうだ。

そこで、第三王子はレオン王子にここに壁画でも描かせて、新進気鋭の天才画家ダービットの作品がある観光スポットとして生まれ変わらせようと考えたらしい。


「そうだ!!ここは勇者さんの活躍を中心に壁画にしよう。何か、早速やりたくなったぞ、勇者さん、ちょっとポーズを取ってくれませんか?」


「もちろんだよ。しっかり描いてくれ」


俺たちは馬鹿二人を残して、大聖堂を後にした。


数日後、第三王子と大聖堂を訪れると、ポーズを決める勇者とポチ、それにマリー王女も居た。それ以外にも貴族らしき者もちらほら居る。


「レオン兄さんの派閥は解体したのだが、ほとんどがレオン兄さんを利用しようとしていた者だった。しかし、レオン兄さんの作品に惚れ込んでいる貴族たちも、それなりにいたようだ。制作活動を手伝ったり、管理なんかをしてもらったりしている。レオン兄さんも本当に芸術が好きな者たちに囲まれてうれしそうだ。

これもデイジー殿のお陰だ。あのとき進言してくれなければ、レオン兄さんにみんなが疑心暗鬼になっていただろうし、勝手にどこか遠くに行ってしまうことになっていたかもしれない」


「もったいないお言葉ありがとうございます。我はただ、国家が崩壊する様を見たくなかっただけですから」


そんな会話をしていたら、レオン王子が俺たちに気付いたようで、歩み寄って来た。


「ルイスじゃないか!!いい職場をありがとう。これはお礼と思って受け取って欲しい」


渡されたのはポチに跨るマリー王女の絵画だった。


「売ったらそこそこの値段になると思うよ。父上やガブリエル兄さんの分もあるからお前から渡しておいてくれ」


第三王子は涙を浮かべながら言う。


「誰が売るもんか・・・こんな愛情のこもった素晴らしい絵を」


「まあいいさ、喜んでくれて。こっちも嬉しいよ」


後年、大聖堂はバリスの有名な観光スポットとなった。こけら落としの式典に来賓として出席した俺たちが驚愕する事態になるのだが、それはまた別の話だ。



★★★


バリスを出発した俺たちであったが、早速新たな任務を与えられた。それは麻薬工場で働かされていた奴隷たちの一部を故郷に帰らせるというものだ。輸送船2隻に元奴隷たちを分乗させ、クリスタリブレ号が護衛する形だ。

そして、今回の任務に同行する者がいる。マリー王女と母親のマリア第三王子妃だ。というのもマリア様は、虎王国の元王女らしく、虎王国の現女王が彼女のマリア様の姉らしい。そんな縁もあり、この二人が同行することになった。


「妻と娘をよろしく頼む。帝国の所為で、こんな形になってしまい、申し訳なく思っている」


第三王子の説明によると、元奴隷たちを虎王国に帰すことに帝国は、当初難色を示したらしい。ボンジョール王国が虎王国で、大々的に帝国の悪評を喧伝すると思ったからだ。そこで、俺たちが勇者パーティーが代表して返せばいいという話になったのだ。

勇者は帝国の公爵令嬢なので、ここで第三王子が虎王国に同行すると、公爵令嬢と王子では格が違い、ボンジョール王国が中心となって奴隷を解放したと虎王国に思われてしまう。なので、帝国は猛反発し、第三王子が虎王国に行くことは叶わなくなった。

苦肉の策として、マリア様とマリー王女はあくまでも里帰りということにした。これで、帝国は渋々納得する。あまり反対しすぎると、虎王国に悪い印象を持たれるからだ。実際は勇者管理機構への参加をお願いに行くんだけど。


というわけで、元奴隷たちを帰しに行くついでに、マリア様とマリー王女が里帰りで同行するという話になったのだ。なのでマリア様もマリー王女も必要最低限の護衛と従者しか連れていない。


「妻はああ見えて、かなりの猛者だよ。私でも敵わない」


心配はないようだ。


しかし、こんな重要な役をよくアトラに頼むよな・・・


世界平和への使命と多くの爆弾乗員を抱えた我らがクリスタリブレ号は、東へ進路をとるのであった。

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