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60 ボンジョール王国の憂い

デイジーの問いに答えにくそうにしている皇帝陛下たち、しばらくして第三王子が口を開く。


「第二王子であるレオン兄上は、少し問題がある。帝国と通じているという噂もあるし・・・」


ボンジョール王国には三人の王子が居る。王太子で長男のガブリエル、第二王子で二男のレオン、第三王子で三男のルイスだ。王太子のガブリエルは武勇に優れ、統率力があるし、第三王子のルイスは外交力とバランス感覚が優れている。

しかし第二王子は、芸術関係には優れているものの、政務には興味を示さず、そこを帝国に付け込まれ、バリス爆弾テロ未遂事件では、自分の派閥から多くの逮捕者を出した。


「悪気はないとは思う。そもそも全く興味がないのだ。上がって来た書類を碌に見ることもせず、サインをする。当然、危ない案件をレオン兄上のところに持っていく馬鹿も多い。今日の勇者パーティー歓迎セレモニーも『創作意欲が湧いたから、これで帰る。後はよろしく』と言って勇者パーティーが到着する前に返ってしまったのだ・・・」


王太子が話に続く。


「レオンの馬鹿は、王族が何たるかを理解しておらん。責任を取らせて、辺境にでも蟄居させることも考えないとな・・・」


優秀な兄と弟に挟まれた二男が、帝国に利用されて・・・・どっかで聞いた話だけど。


「国王陛下、失礼ながら意見をさせていただきます。このような状態では国が滅びます。それを経験した我が言うのです。どうか話だけでも聞いていただきたいのです・・・」


デイジーはドルドナ王国滅亡の話を始めた。今回とほぼ同じ感じの話だ。ドルドナ王国の場合は長男が外交官タイプ、三男が武人タイプだったけど。


「父が申しておりました。もっと兄弟で話し合えばよかったと。ドルドナ王国の第二王子は決して無能ではなかったそうです。卓越したバランス感覚を持った王太子と国一番の槍使いの父と比べれば見劣りするものの、政務をそつなくこなすことができる第二王子を国王とし、王太子と父で支える案も実際にはあったそうです。帝国はそのようなコンプレックスを抱えた者たちに工作してくるのです。ですから、我々の国のような悲劇を起こさないためにも、どうか、話し合いだけでも持つことを進言いたします」


ドルドナ王国のような小国とボンジョール王国のような大国では事情は違うだろうが、帝国が狙ってくることは確かだ。実際に自分の派閥に親帝国派の貴族を多く抱えているしな。


国王陛下が従者に指示を出す。


「レオンを連れて参れ!!

デイジー殿、進言を聞き入れよう。他国の心配をして、自国が内戦にでもなれば笑われるどころではない。我もレオンをどうしていいか分からなかったのだ。この際だ、腹を割って話をしよう。結果がどうあれ、悔いは残さんようにしよう」


しばらくして、従者が帰って来た。


「申し上げます。レオン第二王子殿下は、勇者様とパーティー会場を抜け出されたとのことです」


アトラ・・・何でお前はそんな奴ばかりと関わるんだ!!



★★★


パーティー会場に戻るとなぜか閑散としていた。

セガスに話を聞く。


「アトラ様とレオン殿下はクリスタリブレ号に向かわれました。アトラ様とレオン殿下はなぜか意気投合されました。どういう訳か分かりませんが、『だったら僕の船に来ればいい』と言い出されまして、そのまま・・・」


セガスによると、アトラと第二王子が会場を去った後、マリー王女もアトラについていくことになった。マリア第三王子妃もマリーに付き添い、ニコラスとマルカもアトラに着いて行ってしまった。主役が居なくなってしまったので、パーティーはなし崩し的に終了し、多くの貴族たちがアトラについて行ったそうだ。


「あの馬鹿は自分が主役だって理解しているのか?まあいい、とりあえず船に戻ろう」



国王、王太子、第三王子とともに船着場に向かうと人だかりができていた。剣を抜き、ポーズを決めるアトラとそれを熱心にスケッチする青年、その後ろではザドラがデイドラに乗って、海面を泳いでいた。それにポチまで出て来て、ニコラスとじゃれ合った後、アトラを跨がらせた。


「勇者さん、こう今にも敵に突っ込むぞ!!って空気を出しながらポーズを決めてください。それでドラゴンさんは、海面すれすれを泳いでください。水中は絵にすることができないんで、それでお願いします」


ザドラが言う。


「海面すれすれを泳ぐことがどれだけ難しいか分かってんのかい?まあ、デイドラならできるけどな」


「キュー!!」


そんな光景を見て、王太子が怒鳴る。


「レオン!!これは一体どういうことだ?それにこんな騒ぎを起こして何とも思わんのか?」


「何って、スケッチだよ。見て分からない?それに騒ぎを起こしたのは僕じゃない。注意するなら騒いでいる奴らに言ってくれよ」


スケッチをしていた青年が件のレオン王子だった。この言葉を聞いただけで、アトラと気が合うことが分かる。つまり、普通じゃないってことだ。


「とりあえず、船で話をしませんか?ここではちょっと・・・・」



★★★


クリスタリブレ号において、皇帝と三人の王子との話し合いが始まった。

王太子が言う。


「一体何をしていたのだ?普通に考えて、勇者殿とドラゴンが居るだけで騒ぎになるとは思わなかったのか?」


「普通に考えられないからこうなるんですよ」とツッコミを入れようとしたが、止めておいた。


「最初から言うと、ドラゴンが美しく飛んでいる姿を見て、どうしても描きたいと思ってアトリエに引きこもっていたんだけど、細かい部分が見たいなって思ったのさ。それでパーティーはすっぽかすつもりだったんだけど、勇者さんに直接お願いしたんだ」


というか、コイツは公務を何だと思っているんだ!!


これをアトラが引き継ぐ。


「そこからは僕が話そう。彼は有名な画家らしくてね、どうしてもドラゴンを描きたいと言うんだ。詳しく説明してあげたんだけど、言葉では難しくてね。それでここに来ることになったのさ。そしたら、勇者の僕がドラゴンに乗っているところを描きたいって言うから、ポチに協力してもらったのさ。僕は勇者だから夜にドラゴンに乗らないことにしているからね」


勇者と夜は関係ないし、そもそもデイドラには乗せるどころか、触らせてもくれないんだからな。


多分、アトラはレオン王子に話を盛りに盛って話したんだな。それでクリスタリブレ号に連れて来たはいいが、ドラゴンに乗れないことをバレたくないので、ザドラに協力してもらったというわけだろう。そして跨っている雰囲気を出すためにポチで代用したんだ。


「まあ、国王陛下も王太子殿下も怒らないでください。芸術を極めるのには必要なことだからね。と思います」


普通じゃない二人の話について行けない国王たち、仕方ない、助けてやるか。単刀直入に聞いてやろう。身内じゃ聞きにくいからな。


「レオン王子殿下、失礼を承知でお聞きしますが、貴方は王子として、この国をどうされたいのですか?帝国に与することをお考えですか?」


少し、空気がピリつく。そんな中、のほほんとレオン王子が答える。


「王子として?僕はもう王子を引退して、芸術家一本でやって行こうかと思てっているんだ。というのも、最近絵や彫刻だけでも食べて行けるようになったからね。王子として税金で、生活の面倒を見てもらうのも、悪いしね」


王太子が怒り出す。


「そう言う問題ではない!!王子として相応しい行動をしろと言っているんだ。芸術家と簡単に言うが、そんなに甘いものじゃない。少し絵が売れたからって、それで調子に乗るな!!どうせ大したこともない絵だろうに」


「じゃあ、これを見てよ」


レオン王子は荷物の中から、小さな絵を取り出して王太子に見せた。


「こ、これはダービットの絵画・・・ピスカと並ぶ、新進気鋭の謎の画家の作ではないか。芸術に疎い我でも分かる。どういうことだ?」


「まあ、僕がそのダービットってことだよ」


自信満々に言うレオン王子、開いた口が塞がらない。

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