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59 勇者の外遊 3

「死ぬぞ!!死ぬぞ!!死ぬぞ!!死んでやるぞ!!・・・ちっ!!撤退!!」


我らが偉大なる勇者様は、新たな能力を身に付けた。それはヒットアンドアウェイ方式の「死ぬぞ!!」攻撃である。というのも、最近では俺はアトラの「死ぬぞ!!」攻撃を防ぎ切っていた。ドラゴンのデイドラの近くにいるとデイドラが尻尾攻撃で追い払ってくれるので、アトラは手も足も出なかった。それで考えついたのが、この作戦だ。デイドラが飛行訓練や水中訓練でいないときを見計らって、俺に急接近して、攻撃してくるようになった。

正直うざいが、短時間なので何とか耐えられる。


そんなアトラだが、最近は乗員たちと馴染み始めた。


「アトラ、温水を出してくれ。汗を流したい」


「唸れ!!水砲、燃やせ!!火砲。どうだい?僕の「七色の勇者砲」の威力は?」


水砲と火砲を組み合わあせて、温水を出している。もちろん威力なんてない。

マルカが言う。


「これって地味に凄いんですよ。超一流の魔導士でも相反する魔法を同時に撃てませんからね。何かお姉さんからアドバイスをもらったみたいで、組み合わせて使うことにしたみたいです」


「やっぱり、姉貴は偉大だな・・・」


姉貴の教えは、駄目だとレッテルを張られた者を見捨てないというものだ。そうした者を活躍させるためには、コボルトのように特技の鼻を生かすというのが一つだが、特技を組み合わせるというのもある。実際、コボルト、インプ、ゴブリンと三種族揃うことで、大きな成果を生み出したり、その教えをもとに空中と水中、どちらでも活動できるデイドラを生み出した。

「七色の勇者砲」もそうやって活用しろってことなんだな。


「シスコン船長!!もうすぐ着くッスよ!!また、領主様のこと考えてたんスか?」


「うるさい!!誰がシスコンだ。総員準備、ボンジョール王国旗を掲げろ!!デイジー!!」


「承知した」


デイジーはデイドラに乗り、銛にボンジョール王国旗を括りつけた物を持って上空に飛び上がった。これは、評判がいいので、多くの場所でパフォーマンスとしてやっている。


「アトラも準備はいいか?」


「もちろんさ。「七色の勇者砲」の威力を見せつけてあげるよ!!」


俺たちが寄港するボンジョール王国の王都バリスは芸術の都でもある。ハープが言うには、大勢の市民が船着場に詰めかけているらしい。それならば、目の肥えた市民たちを楽しませてやろうと、ちょっとしたパフォーマンスを企画したのだ。


アトラが虹を何本も作り出し、そこをデイドラに乗ったデイジーが飛んで、アクロバット飛行をする。

市民たちは大盛り上がりだ。


寄港して船を降りると国王陛下と王太子、第三王子を中心に王族が勢揃いして出迎えてくれた。

国王陛下が言う。


「普段演劇やパフォーマンスを見慣れている我らが見ても、驚くほど素晴らしいパフォーマンスだった。国民を代表して礼を言う。滞在期間中は国賓として、最大限のもてなしをすることをここに誓おう」


「凄かったですか?まあ、すべて僕が考えたことだから、凄いのは当然だけどね。それに凄いのはこれだけじゃないんだ。晩餐会で見せようと思ったけど、ここでも見せてあげよう。と思います」


いつも通り、アトラは最初の言葉と最後の言葉だけ敬語にすればすべてOK、という謎の言語を操り、国王陛下と挨拶を交わす。

その後アトラは、ニコラスにドレイク領の名産リザードフルーツを20個程持ってこさせた。リザードフルーツは、鱗のような固い皮に覆われていて、一見して食べようと思わないが、皮を剥がして食べてみるとこれが旨い。さっぱりとした甘みとほのかな酸味、ドレイク領では大変人気のある果物だが、他領では、見た目が悪く、敬遠されがちなので、あまり売れていないのが現状だ。


市民たちもざわつく。


「なんだあれは?」

「岩か?」

「岩というか、何かの魔物の卵とか?」


まあ、そう見える。特に見た目を気にするバリス市民にはウケが悪いだろう。皮を剥がして食べたら美味しいんだけどな。ドレイク領の格言に「皮を剥がして食べるまでは、味は分からない」というのがある。人は見かけによらない、見た目だけで判断するなという意味で、それを地で行く果物がリザードフルーツなのだ。


そんな中、アトラはリザードフルーツに氷砲を放った。しばらくすると、原形が分からなくなる程、表面が氷で覆われた。


「さあ、食べてみるといい!!」


アトラがそう言うが、王族たちは困惑している。そんなとき、一人の獣人の少女がアトラに抱き着いた。


「勇者様!!お久しぶりです。是非私にください」


「マリー、マリーじゃないか!!しばらく見ない間に大きくなって!!よし、君にこの国で一番最初に食べてもらおう」


そうするとニコラスに言って、凍らせたリザードフルーツ切り分けさせた。マリー王女はリザードフルーツを口に入れた。


「甘くて、少し酸っぱいけどそれがまた良くて・・・本当に美味しいです」


「気に入ってくれてよかったよ!!」


マリー王女に習い、他の王族たちもリザードフルーツを口にすると、次々に称賛の言葉を口にする。見ている市民たちは羨ましそうにしている。そんなところにミケとゴブリンの水夫たちが現れて屋台を設置する。


「こっちにリザードフルーツがあるニャ!!一口食べて美味しかったら買って欲しいニャ!!凍らさなくても美味しいニャ」


市民たちはこぞってこの屋台に群がる。王族が絶賛しているのだから、食べたくなるのも当然だ。それにしても、ミケは商売上手だ。

そんなとき、マルカが近付いて来て言う。


「ミケさんもお姉さんに相談してたんですよ。何か新商品はないかって。それでああなったんでしょうけど」


見た目は悪いが、リザードフルーツの味はいい。一度口にすれば、虜になること間違いなしなのだが、問題はどうやって口に入れてくれるかだった。それをアトラのパフォーマンスで覆い隠したか・・・


姉貴は凄い。やっぱり、パウロにはもったいないかもと思ってしまう。



王族や市民たちと交流が続いているところ、第三王子が声を掛けて来た。


「いつも君たちには、驚かせられる。それで早速だが、話がしたい。晩餐会の途中、抜け出して欲しい。もちろん勇者殿抜きでな。手配はこちらでしておくから、君はそれに従ってくれればいい。晩餐会では勇者殿が主役だから、勇者殿を抜けさせるわけにはいかんだろ?」


「また厄介ごとですか?聞くだけは聞きますけど」



★★★


晩餐会中の秘密の会合に呼ばれたのは、俺とデイジーだけだった。

しかし、向こうさんは違った。国王陛下、王太子、第三王子が揃っていた。


もうこの段階で、かなり大きな話なんだろう。憂鬱になる。


「ネルソン殿、頼みがあるのだ。詳しい説明はルイスにさせる。ルイス、説明してやれ」


「分かりました。今日、来てもらったのは他でもない。そちらのデイジー殿にも関係することになるのだが、我々は勇者管理機構を設立に動いているのだ・・・・・」


第三王子が言うには、俺たち勇者パーティーの活動は、帝国の悪巧みに利用されているから、勇者パーティ―の活動を帝国だけでなく、各国が意見を出し合って決める形にする。その為の勇者管理機構を設立を目指しているようだ。


「現在、我が国の他に勇者管理機構の設立に賛成してくれているのは、クリスタ連邦国だ。帝国は度重なる失態で譲歩するしかなく、渋々勇者管理機構の設立を認めている状態だ。それと不本意だが加盟させないといけない国がある。ゾロタス聖神国だ。勇者を認定した聖神教会の総本山がある国だから、声を掛けないわけにはいかない。

今のところ、話し合いで決着がつかなかった場合は多数決を考えている。例えばだが、我が国とクリスタ連邦国が賛成しても帝国とゾロタス聖神国が反対すれば、活動案は廃案になる。帝国とゾロタス聖神国

は裏でつながっているようだから、話が前に進まないことも十分考えられる。そこで加盟する国を増やそうと考えているのだ。もちろん候補となる国は、こちらで選定させてもらっているが・・」


「つまり、こちら側陣営に入ってくれる国を増やせと言うことですか?」


「まあ、そう考えてもらってもいい。だが、あくまでもその国の自由な意思を尊重するということが建前ではある」


多分、どっかの国に行って、「勇者管理機構の設立にご協力を!!」とか言うんだろう。だが、アトラがそんなことができるわけがないし・・・・となると俺か。


そんなことを考えていると、デイジーが口を開いた。


「ところで、第二王子殿下はどちらに?国王陛下、王太子殿下、第三王子殿下がおられるのに第二王子殿下がおられないのは、どうも不自然でなりません」


この発言で国王陛下たちの表情が暗く沈む。


ああ、これも地雷だな・・・・

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