58 勇者の外遊 2
多数の爆弾乗員を乗せた我がクリスタリブレ号は、クリスタ連邦国王都エジンバラに寄港した。普段は王城にいる女王陛下が既に港に待機していた。慌てて船を降り、挨拶に向かう。
「ただいま、戻りました、女王陛下・・・」
言いかけたところで遮られた。
「挨拶はいい、早くドラゴンを見せるのじゃ!!海を泳ぐドラゴンじゃろ?マーマンもリザードマンも、皆楽しみにしておる。早く支度せい!!妾も一緒に泳ぐのじゃ」
「はい!!ザドラ!!」
「準備できてるよ。デイドラも泳ぎを褒めてほしかったもんな。びっくりさせてやろうぜ!!」
「キュー!!」
デイドラは他の港では、デイジーが騎乗して飛び回っていた。しかし、泳ぎは普通の者は潜れないので、凄いことをやっているのだろうが、よく分からなかった。せっかく訓練した泳ぎを披露する場がなかったので、ザドラもデイドラも燃えていたのだ。
多くのマーマンやリザードマンが海に入ってデイドラを見守る。水中のことは分からないが、マーマンやリザードマンたちが興奮しているのが分かる。偶に水面に急浮上し、高くジャンプして陸地で見物している多くの市民を興奮させていた。
「偶には水から出ないと、陸地の奴が盛り上がらないだろ?アタイも少しは、デイドラのジャンプに慣れたからね」
そんなとき、女王陛下が声を掛ける。
「デイドラと言ったな。一つ妾と勝負じゃ。どっちが速いか競争しようぞ!!」
ということで、急遽、女王陛下とデイドラの水泳対決が始まってしまった。距離は約500メートル、直線で、目印まで先に到達したほうが勝ちという、凄くシンプルなものだ。
「じゃあ行きます。用意、スタート!!」
双方とも高速で泳いでいる。かなり速い。しかもいい勝負だ。デッドヒートを繰り広げていたが、デイドラが残り100メートルを切ったところで、女王陛下を体一つリードした。
しかし、ゴール目前で突然、水柱が立ち、デイドラは吹っ飛ばされた。その後、悠々とゴールした女王陛下が言う。
「油断大敵じゃ!!それに妾に勝とうなどと、100年早いのじゃ!!妨害禁止とは言ってないしな」
あまりにも無茶苦茶な女王陛下に観客はドン引きしている。そんな女王陛下に天罰が下る。怒ったデイドラが水流ブレスを吐いて、女王陛下を吹っ飛ばした。
おい!!デイドラは水流ブレスも吐けるのか・・・
すぐに体勢を整えた女王陛下が、水柱を起こしながら言う。
「ほう、だったら今度はこっちで、遊んでやろうかのう?」
「キュキュキュキュキュー!!」
そこからは水流ブレスと水柱の応酬で壮絶な戦いが始まった。隻眼のリザードマン、海軍総司令官ザーフトラが叫ぶ。
「女王陛下をお止めしろ!!我も行く!!」
そして海に飛び込んだ。
「ポチ!!デイドラを止めろ!!」
結局、女王陛下はザーフトラとザドラの兄リザドが率いるリザードマン部隊が取り押さえ、ザドラとポチがデイドラを取り押さえた。なんとか大惨事は免れた。
「お主、なかなかやるのう。勇者の横暴に耐えかねたら、いつでも妾の所に来い。妾はここに宣言する。偉大なるドラゴンであるデイドラをクリスタ連邦国名誉ドラゴンに任命する」
「キュー!!」
言葉はあまり理解していないだろうが、褒められていることは分かったようで、しばらくすると、デイドラは女王陛下を認め、背中に乗せてあげていた。これで仲直りしたということだろう。その後は自分も背中に乗せて欲しいというマーマンたちが続出し、ザドラとデイドラは少し疲れていた。
★★★
エジンバラでのお披露目会を終えた俺たちは、ドレイク領の領都スパイシアに向かう。出発する前に女王陛下から、大量の酒を渡された。
「妾の秘蔵の酒じゃ。存分に飲むがいい。まあ、祝いの品と思ってくれ」
祝い?よく分からないが、酒がもらえたことは有難い。
スパイシアに着くといつもどおり、領民総出で出迎えてくれる。姉貴と宣教師のパウロも揃って出迎えてくれた。
「お帰りなさい。こちらがデイドラね。立派なドラゴンね。初めて見るけど、カッコいいわね」
「キュー!!」
「デイドラは賢い。でも少し可哀そうな生い立ちでな・・・」
俺はデイドラが風竜と水竜のハーフで、不遇な目に遭ってきたことを説明した。
「でも姉貴の・・・ドレイク領の教えどおり、見捨てなかった。それで、押しも押されもしない立派な竜騎士のドラゴンになったんだぜ」
「よかったわ。これからも世界中の人を救ってあげてね。アトラちゃんと」
「何を言っているんだ!!アイツは本当に酷かったんだから、デイドラのことを・・・」
言いかけたところで、パウロが言う。
「スターシア、宴の準備ができた。ネルソン君、ちょっとスターシアを借りるよ」
「ああ、はい」
あれ?パウロってあんな感じだったっけ?
二言目には「神が・・・」と言っていたのにな。それに姉貴に対して凄く馴れ馴れしい。どうしたんだろうか?
「それでは宴の準備が整いました。今回は祝うよりも祝われる立場になるなんて、びっくりです。じゃあ、パウロ、後はお願い。あんまり長く喋ったら駄目よ」
「分かっているよ。私はスターシアを世界の誰よりも愛している。このスパイシアで、スターシアに出会うまでの私は、神の教えを押し付けるだけの大馬鹿野郎だった。それに気付かせてくれたのはスターシアだ。神とは身近にあるものだ。私にとってスターシアは女神において他ならない。スターシア、これからもよろしく。君と結婚できたことを本当に嬉しく思う」
「よかったわよ。これからもよろしくね。さあ!!しっかり飲みましょう!!乾杯!!」
「「「乾杯!!」」」
俺を含めたクリスタリブレ号の乗員は呆気に取られていた。
★★★
少し酒が入ったところで、俺は姉貴を問い詰める。
「一体どういうことだよ、姉貴。いきなりパウロと結婚するだなんて、俺に一言くらい相談してくれてもよかったんじゃないのか?」
「上手くいったみたいね。これってサプライズというのよ。帝国で最近流行っているらしいから、私達もやってみたのよ」
姉貴は盛大に勘違いしていたらしい。
パウロとの結婚を決めたとき、結婚式をどうするかという話になった。帝国ではサプライズでプロポーズするのが流行っているが、そういうのに疎いパウロ、よく分からない姉貴と領民たちが話し合った結果、サプライズとは大切な人をびっくりさせることだと思ったらしい。
そこで、世界平和のために活動しているクリスタリブレ号の乗員をサプライズしようとして、この結婚式を企画したようだ。
「姉貴・・・それってパウロが姉貴にプロポーズするときにするやつだ。俺たちにじゃない」
「そうなの?でも驚いてくれてよかったわ。次から気を付けるからね」
「もう次はないだろ!!まあ、おめでとうと言っておくよ・・・」
少し寂しい気はする。ずっと俺だけの姉貴だったのに・・・
そんな会話をしていたら、女性陣に姉貴を奪われた。
「プロポーズはどんな感じだったんスか?」
「僕のお姉さんがパウロに取られた!!死んでやる」
「あのパウロがねえ・・・変われば変わるもんだ」
姉貴から離れた俺は一人、寂しく酒をあおる。そこにパウロが現れた。
「ネルソン君、これまでの非礼、君に黙っていたことを謝罪する。すまなかった」
「気にしないでください。それよりも、姉貴のことを頼みますよ」
「ああ、もし神とスターシアをどちらか選べと言われたら、間違いなくスターシアを選ぶよ」
そこからはパウロと語り合った。パウロも苦労したようで、それが経験となり、今のパウロがあるのだという。姉貴はまだ女性陣に開放されないし、朝までパウロと飲み明かした。
翌々日、俺たちは次の目的地であるボンジョール王国に出発する。見送りに来た姉貴とパウロに言う。
「そっちも元気でな、姉貴・・・パウロ義兄さん!!」
そして、船に乗り込むと航海士たちにからかわれた。
「船長もこれでシスコン卒業ッスね」
「お姉さん~取られたね~」
「船長、心中お察しします」
「うるさい!!早く配置に着け!!出発だ!!」
クリスタリブレ号は出発した。多くの国旗を掲げて・・・
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