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57 勇者の外遊

帝都ベルダンで報告を済ませると、帝国はもとより、各国からドラゴンを見せて欲しいという要望が多数あった。これを帝国は受けることになる。


ゴースト(ヤマット大将)の手紙によれば、帝国はカーミラ王女の見立てのとおり、ドラゴンを従え、竜騎士を育成しようとしていたらしい。帝国の予想としては、何か特別な魔道具で強制的にドラゴンを従えているのだと考えていたようで、その魔道具さえ手に入れれば、竜を従え、竜王国を攻め滅ぼし、更に多くの竜騎士を育成するという恐ろしい計画まであったそうだ。まあ、デイドラの場合、ポチという規格外のお犬様が強制的に従えているのだが。

しかし、皇帝との謁見でアトラが、ドラゴンを従えるのは「信頼」であると証言したので、竜騎士育成計画は終了してしまった。


「皇帝陛下、信頼ですよ。僕のまっすぐな気持ちがドラゴンに通じたんだよ。今はデイジーと絆を深めているからね。僕がデイジーと仲良くするように言ったから頑張ってくれてるんだよ。辛いけどデイジーの為に僕はあえてドラゴンに厳しく接しているんだ。ということです」


ツッコミどころは満載だが、これで納得したらしい。

ここで日和見派、実際は穏健派のコム―ル大臣が進言する。


「各国から勇者殿のドラゴンが見たいという要請が、かなりありました。主要国だけでも回らせてはどうでしょうか?せっかくドラゴンを手に入れたのですから、これを機に帝国の威信を示せばよろしいのではないでしょうか?」


これはコム―ル大臣が主戦派に恩を売った形になる。大見得を切って進言した主戦派だったが、何の成果も得られないのでは、立場がない。だが、これを責め立てても、主戦派の息の根を止めることができないと考えたコム―ル大臣が主戦派に恩を売り、バランスを取ったのだ。これでコム―ル大臣は主戦派にも影響力を与えることになるだろうし、主戦派も好意的になるだろう。そうすれば情報も引き出せるしな。


ところで、我がクリスタリブレ号の処遇だが、契約が延長されることになった。


「僕が船をいらないと言ったのは、船長たちに頑張ってもらうためだったんだ。最近は僕に頼りっきりだったからね。でも可哀そうになってね。船長が土下座して『勇者様の船でいさせてください』って言ってきたから、僕に甘えないことを条件に許してあげたのさ。という話でした」


腹立たしいが契約なので、仕方がない。


そうして俺たちは帝国の主要な港町を巡り、デイジーの故郷であるドルドナ自治領の領都ドンバスまでやって来た。じゃあ、やるか。


「ドルドナ王国旗を掲げろ!!デイジー!!ちょっと待て!!これを持っていけ!!」


「気遣い感謝する。では行こう!!デイドラ!!」


「キュー!!」


デイジーはデイドラに乗って飛び立った。ハープに先触れを頼んでいたので、今回も住民総出のお出迎えだ。港に近付くと大歓声が上がる。


「勇者様の船だ!!それにドルドナ王国旗が掲げられている!!」

「おい!!空を見ろ、ドラゴンだ!!」

「本当だ。乗っておられるのは王女様だ!!それに雄々しくドルドナ王国旗がはためいている」

「万歳!!ドルドナ王国万歳!!」


俺がデイジーに持たせたのは、銛にドルドナ王国旗を括りつけた物だ。デイジーは凛としていて、誇らしげに国旗を振る姿は様になっている。

デイドラも自信満々に見える。飛ぶのが上手くないと言われているが、それは一流の竜騎士のドラゴンと比べてだ。普段ドラゴンを見ない者からしたら違いは分からない。行く先々でデイドラは称賛の声をこれでもかというくらい浴びて、自信を取り戻したようだった。それだけでも、この外遊は意味があるように思えた。


デイドラはクリスタリブレ号の真横を飛び、俺たちが寄港すると同時に港に降り立った。デイジーがデイドラから降り、領主のドーガンに挨拶をする。


「父上、只今戻りました」


「噂には聞いていたが、竜騎士となったのだな。我は誇りに思う」


簡単な挨拶の後、俺達は領主館に招かれた。歓迎会の後、俺とデイジーだけが領主のドーガンに呼び出された。


「実はドルドナ自治領周辺の情勢を知ってもらいたくてな・・・・」


「ちょっと待ってください。俺に言う前に勇者様に・・・」


「言って何になる?まあ、聞いてくれ」


領主のドーガンによると、やはり独立の機運は高まっているそうだ。これにも訳があるらしい。


「ドルドナ自治領はまだいい。高額な税金といっても、ドンバスは交易で栄えておるし、小麦もそれなりに取れる。それに帝国の目的は我らに強い軍隊を維持さないためのものだ、決して我らを飢えさせて殺そうとは思っておらん。領軍も魔物退治ができるくらいには、持つことが許されているからな。

しかしだ、他の領に併合された旧ドルドナ王国の領地は違う。領主が勝手な判断で、個人的に重税を課しているところが多い。そうなると生活もできん者が増える。奴らにしてみれば、元々領民でもないし、どうなろうと知ったことでは無い、搾り取れるだけ搾り取れと思っているのだろう」


まあ、そうなれば反発して、独立しようと思うよな。馬鹿な領主はどこにでもいるものだ。


「それで、その者たちが我に独立の旗頭となってほしいと言うのだ。しかし、戦争となれば多くの領民が死ぬ。決して周辺の領軍に後れを取ることはないが、陸軍の正規軍が多数派兵され、ノーギー大将の直轄部隊でも来たら、流石に太刀打ちできんだろう。武人としては、戦場でノーギー大将と相まみえるのも悪くはないと思うが、多くの者を死地に追いやることはできん。

そこで、ネルソン殿に頼む。筋違いだとは思うが、なるべく血が流れない方法で、この状況を改善してほしい」


それって、まさに勇者の仕事じゃないか!!俺はただの船長だぞ!!


「船長殿、我からも頼む。すぐには解決できんと思うが、何とか考えてほしい。ここまで、難局を次々と切り抜けて来た船長殿の力を借りたいのだ。何なら我の体を・・・」


「ちょっとデイジー!!それはいいから。これがアトラにバレたら殺される。何とかやってみるから落ち着け!!」


その後は詳しい状況が記載された資料を見たり、対策を考えたりした。すぐに思い付いたら苦労はしないんだけどな。また、厄介ごとに巻き込まれた。



部屋を出て、寝室に着くとなんとそこにはセガスとアデーレが潜んでいた。


殺される!!


臨戦態勢を取ろうとしたが、もう諦めた。手練れ二人に不意打ちを喰らった時点で負けだ。しかし、攻撃は飛んで来なかった。


「少しお話がありましてね。お時間よろしいでしょうか?」


なんだよ!!今の殺気は何だったんだ!!それに「忙しいので無理です」と言っても駄目だろうし。


「よろしいようなので、話を進めます。まずはご忠告です。ネルソン様は自分の立場をよく分かっていらっしゃらない。もうただの船長ではないのです。世界が貴方を中心に回っていると言っても過言ではない。このような暗殺の類にも十分お気を付けください。それに最後まで諦めてはいけませんよ」


「わ、分ったよ。とりあえず、その漏れ出た殺気を押さえてくれ!!」


「十分理解されたと解し、話を続けます。ネルソン様は、私が「他言無用」と言った話を漏らされましたね。今後は十分お気を付けください。これが王族であれば、約束を違えることは戦争に発展し、多くの命が失われることにもなります。暗殺されても文句を言えません。ですから、今一度ご自分の言動には注意されることを助言致します。

最後にいつ何時でも、私もアデーレもサポートしていますから、ご安心を。お時間を取らせました。それでは良い夢を」


セガスとアデーレは去って行った。


なんだったんだ。暗に下手なことをしたら殺すと言っているようなものじゃないか!!

それにサポートって、監視の間違いじゃないのか?


まあいい、よく分からないがアイツらがヤバい奴だってことは、身に染みて分かった。


というか、死にたがり爆弾勇者と竜騎士、犬と話せる変な少年にマッドサイエンティスト、元からいる航海士も危険だが、それに加えて、ドラゴンとドラゴンを従えるお犬様までいる。これに暗殺者2名を加えると・・・


もう嫌だ!!なんでこの船はこんなヤバい奴らが集まっているんだ!!


不安で、朝まで眠れなかったことは言うまでもない。

気が向きましたら、ブックマークと高評価をお願い致します!!

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