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55 勇者とドラゴン 4

勇者パーティ―が死に戻りをしている間に指導員から勇者パーティーというか、アトラの蛮行についての説明があった。


「国王陛下より、少し話をさせていただいたかもしれませんが、酷いものです。こちらの指導は全く聞かずにあのような有様です。3日目までは何とかドラゴンの背に乗せてもらえたのですが、それ以後は近付くだけで、殺そうとしてきます。勇者様以外のメンバーであれば、撫でるくらいはさせてもらえるのですが・・・」


それってすべてアトラの所為じゃないのか?


「それにドラゴンのほうにも少し問題がありまして・・・」


これをカーミラ王女が遮る。


「それは我が話そう。あのドラゴンは風竜と水竜のハーフでな。普通は風竜は風竜、水竜は水竜で番うのだが、あのドラゴンの親は異種で番ったのだ。人間であればロマンティックな話だが、ドラゴンは少し話が違っていた。親同士はいいが子は苦労をする。風竜にも水竜にも馴染めなかった。風竜にしては飛ぶのが遅く、水竜にしては泳ぎも上手くない。ドラゴンは生後1年で一人立ちするのだが、どちらの群れにも入れてもらえなかった。我が幼き頃、そんな奴を見かねて野生から保護し、父上に無理を言って育てることにした。しかし、竜騎士の竜としては気性が荒く、乗りこなせる竜騎士はいなかった。もちろん我もだが・・・」


カーミラ王女は少し涙を浮かべている。


「竜は賢い、人間の言葉もある程度は分かる。特に馬鹿にするような態度を取られるとすぐに感付く。気性の荒い奴を乗りこなせなかった竜騎士たちが悔し紛れに馬鹿にしているのを聞いたのだろう。だから人も竜も信用できない」


アトラと相性が最悪だ。


「今のところ、空を飛ぶ飛竜としての運用は無理だ。かといって水竜としての運用も難しい。我が国に水竜を操れる竜騎士はいないのが現状だ。騎士が一緒になって水の中に潜れないからな。200年前に水竜を操る伝説的な竜騎士が居たそうだが、真偽のほどは定かではない。その竜騎士が元で「クリスタの水竜」という二つ名ができたのだ」


まあ、そんな伝説があれば、クリスタリブレ号に「クリスタの水竜」とかいう二つ名を付けられるのも、納得がいく。


「我としては、すがる思いで勇者殿に賭けたのだ。情報によると勇者殿はコボルトやインプの才能を見出し、一流の麻薬捜査官して運用したとな。だったら奴も生かしてくれるのではないかと。

このままでは奴は竜にも人にも馬鹿にされて、一生を終えるだろう。もしこの状態で野生に返せば、人を恨み、人里に被害を与えるかもしれない。竜の寿命は長い。延々と長い苦しみを与えるならば一思いにと・・・・これは無責任だな。

だから、今回のドラゴンの貸与の話が出たとき、我らは飛び付いた。特に要求もしなかった。ただ、奴の幸せを願ってな。それがあんな馬鹿のクズ女を寄越して来るなんて・・・ウッウッウウー」


とうとうカーミラ王女が泣き崩れた。そうだよな。それは辛いよな。子供のころとはいえ、何とか助けたいと思って、保護したのに何もできないなんてな・・・


ここでリザラがとんでもないことを言う。


「水中で乗るだけなら、アタイはできるよ。ただ、空を飛ぶのはごめんだ。飛んでここまで来たけど、まだ震えが収まらないからね。後はあんなに気性が荒いなら、落ち着かせてくれる奴がいればいいんだが・・・」


そんなとき、ポチがそのドラゴンの前に歩み出た。


「ポチ!!危ない、下がれ!!」


しかし、ポチは平然としている。そして、今まで聞いたことのない咆哮を上げる。


「ワオーン!!」


すると急にそのドラゴンは大人しくなった。


ポチって、凄い奴なのか?

多分、というか絶対犬じゃない。犬型の魔物の上位種かもしれん。ポチも危険な奴だった。


そして、ドラゴンはひれ伏して、鼻先をポチに擦り付けた。

ゲクラン王が叫ぶ。


「信じられん!!あれは服従のポーズだ。それも絶対服従の・・・あの犬はなんなのだ?」


ポチです。犬ではなくポチです。そういうことにしよう。


更にポチはそのドラゴンの頭や首筋を舐めている。多分、ポチも気に入っているのだろう。

竜騎士や指導員たちからもどよめきが起こる。


「ポチ!!ザドラを乗せるように言ってもらえるか?水に潜れる竜騎士として紹介してやってくれ」


ポチはドラゴンに向かって何かを言っている。


「クゥーン、クゥーン!!」


ドラゴンも答える。


「キュー、キュ―」


ザドラが言う。


「ポチ!!絶対飛ぶなとも言っておくれよ」


しばらくして、ポチの助けもあり、ザドラはそのドラゴンの背に乗ることができた。

ザドラが言う。


「なかなかいい子じゃないか。ちょっとそこの湖に潜ってみるかい?ポチ頼む!!」


するとポチがまたドラゴンに語り掛けると、ドラゴンはザドラを背に乗せたまま湖に潜り、そのまま潜水を始めた。しばらくして、急激に上昇して来たドラゴンが水面からジャンプして出て来た。これくらのジャンプなら、ザドラも余裕そうだった。


「下手だって聞いてたけど、上手いじゃないか!!多分、教えてくれる先輩がいなかったんだね。だったらアタイが教えてやるからさ。だけど飛ぶのは誰かに教えてもらいな」


「だったら教えてあげるよ~乗せる人は別に探してね~」


ハープが言う。ポチも「クゥーン!!」と語りかけている。

続いて、ハープと追いかけっこをするように飛び出した。空中でじゃれ合っているように見える。


「速いねえ~上手いねえ~でもねえ~もっと風を感じたほうがいいよ~」


「キュー、キュ」


多分、分かったと言っているのだろう。


カーミラ王女はというと、泣いてはいるが、今度は泣き笑いだ。


「よかった・・・よかったね・・・」


その光景を見ながら、ゲクラン王が声を掛けて来た。


「本当に礼を言う。ネルソン殿のお陰だ。何でも欲しいものを言え。用意してやる」


「そんな、俺は何もしてませんから、ご褒美ならアイツらにやって下さい。酒と肴があればそれでいいと思いますよ。それとポチにも」


「欲がない奴だな。まあいい、今日は飲むぞ!!ハンマーホエールの肉はまだまだあるんだろう?酒は最高級のやつを用意してやる。おい!!カーミラ、涙を拭け。宴会の準備だ!!」


「はい!!」


凄く心が温まる。誰も見捨てないドレイク領の領民だからこそ、こんな奇跡も起きたんじゃないのかと思った。姉貴の教えでドラゴンも救ったよ。


そんな温かい空気を一瞬で凍り付かせる事件が起きた。

イカれた大馬鹿勇者が現れた。


「ネルソン、久しぶりだね。僕が恋しくなったのかな?それはそうと僕の勇者としてのオーラがドラゴンに通じたみたいだね。まあ、僕にかかればこんなものだ。それから、君の船というか、あれは僕の船だけど、これからも乗ってあげるよ。あのドラゴンは思ったよりも使えない馬鹿だったからさ。ネルソンも僕が乗ってくれて嬉しいだろう?」


いつもは死ぬなと言っているが、このときばかりは思った。死んでくれと・・・


この後、アトラに天罰が下る。ドラゴンの尻尾攻撃を受け、吹っ飛んだ。幸い湖に転落したので、命に別状はなかったが、ブチギレていた。


「なんだ!!これはネルソンの指示か?死んでやるからな!!」


俺たちは、竜に乗りそのまま、町へ戻った、勇者パーティーを置き去りにして。


三人には悪いが連帯責任だ。

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