54 勇者とドラゴン 3
とりあえず、冒険者ギルドで所要の手続きをする。運よくハンマーホエールはクリスタリブレ号の積載物と認識されたようで、一緒に船着場まで転送されていた。受付に行くとギルマス直々に感謝の言葉をいただいた。
「本当にありがとう。それにカーミラ王女から直々に海洋部門に対して補助金を出すことを約束してくれた。これで、船の被害も減らせると思う。感謝しても感謝しきれない。何か要望があれば、できる範囲で聞くが・・・」
「それだったら、ハンマーホエールの肉を乗員たちで食べたいんで、切り分けてもらえますか?それと竜王国の地酒があればそれも」
「そんなことでいいのなら、すぐに手配しよう」
しかし、今回は宴会が大好きの乗員たちも少し困惑気味だ。なぜなら、アトラたちが死んだからだ。
「みんな、明るくしようぜ。もう会うことはないと思っていたが、流石に今回は落ち込んでいるだろうから、元気づけてやろうと思ってな。何なら、死んだことを知らないフリをしてもいいし・・・」
「船長もアトラが恋しいんッスね。よし、飲むぞ!!」
ザドラも続く。
「そうだ、デイジーも落ち込んでいると思うから、元気づけてやろうぜ。コボルトたちも、今日ぐらいはニコラスにモフモフさせてやれよ!!」
「クゥーン!!」
「ポチも会いたいよね~」
すぐに宴会の準備に入る。
ここで待っていれば、セガスがそのうちやって来るだろう。
しばらくして、セガスが現れた。
「別に寂しいとかじゃないけど、死んで落ち込んでると思うから、宴会をしようと思うんだ。ニコラスもポチに会いたいだろうし・・・」
「大変言いにくいのですが、アトラ様は会いたくないそうです。宴会の準備をされているのは、把握していたので、それを伝えたのですが、強情でして・・・」
ザドラが言う。
「船長も船長だが、アトラもアトラだねえ。本当に意地っ張りなんだから。まあ仕方ない。ハンマーホエールの肉と地酒を包んでもらうから、持って帰ってくれ。無理やり誘っても、意地を張ってこないだろうしな」
「お気遣い感謝します」
一応宴会は盛り上がったが、いつもよりはみんな元気がなかった。意地っ張りの馬鹿勇者!!少しはみんなの気持ちも考えろ!!
★★★
それから5日、アトラ達は死に続けた。こうなったら心配を通り越して、腹立たしくなる。一番キレているのがミケだ。
「これじゃあ、まともに依頼が受けられないし、商売もできないニャ!!早く解雇するかどうか決めて欲しいニャ。もし商売で損害がでたら、賠償金を請求するニャ!!」
死ぬのはいい。いや、良くないけど。
問題は活動中に転送されることだ。これじゃあ、まともに依頼なんて受けられない。活動資金は別で出るからすぐに金銭的な問題は起きないが、いつ転送されるか分からない状態では、ストレスも溜まる。それに今日なんて、3回も死にやがったしな。
「ちょっと対策を考えないとな。セガスにいくら言っても会ってくれないし、もうカーミラ王女にでも頼もうか?」
リュドミラが言う。
「そういえば、今日が竜王国の国王陛下との謁見の日ではなかったのですか?」
「そうなんだけど、冒険者ギルドに行っても話は聞いてないって言うし、いきなり王城に行くわけにも行かないしな。何か俺たちが知らない仕来たりでもあるのかな?」
そんなことを話していたら、約20騎の竜騎士が空から現れた。そして、5騎の竜騎士が甲板に降り立った。そのうちの一人がカーミラ王女だが、まさか・・・・
「これが「クリスタの水竜」か・・・普通の軍艦だな。もしかしたら船の底に竜でも飼っているんじゃないのか?」
「陛下!!ネルソン殿が困惑しています。それに水夫たちも」
「おおすまん。我が竜王国国王ゲクラン・ウインドミッドである。カーミラから話は聞いている。早速相談をしたいのだが・・・」
俺は慌てて挨拶をして、第三王子からもらった紹介状をお付きの竜騎士に手渡す。第三王子は顔が広いようで、竜王国にも伝手があったみたいだ。お付きの竜騎士から紹介状を受け取り、確認すると大笑いした。
「ワハハハ、あの馬鹿女がここまでのことができるとは思わなかったからな。これで納得がいったわ」
よく分からないが、良い印象を持ってもらえたようだ。
「それで早速だが、勇者は騎乗訓練をしているのだが、思わしくない。指導員の話を全く聞かないし、横暴だ。『僕に指図するな!!』と言った側から『何で早く言わないんだ!!』とキレたり・・・・」
ああ、ありありとその光景が目に浮かぶ。
ゲクラン王が言うには、最初に死んだのは指導員が「竜の信頼を得てからじゃないと飛べません。危険です」と注意したのに例のごとく「僕が乗ると言ったら乗るんだ!!」と言って、嫌がるパーティーメンバーを乗せて飛んだらしい。
そして、見事に落下したそうだ。即死だったらしい。
「あのときは本当に肝が冷えた。また戦争かとな。まあ負ける気はせんが、それでも少なからず被害は出るからな。貴殿の話を娘のカーミラから聞いたときは、胸をなでおろしたものだ」
「まあ元々は帝国が、他国に喧嘩を売るために開発した勇者と言う名の人間兵器ですからね。流石に竜王国と戦争することは考えてはないと思いますが、何かしら要求をしようと考えていたんじゃないでしょうか」
「クズだ!!まさに鬼畜の所業だな」
「そうですね。それで相談というのは?」
「そうだった。とりあえず、訓練所に来てくれんか?竜騎士たちに運ばせる。訓練風景を見ながら説明したほうが分かりやすいからな」
「えっと・・・ドラゴンに乗って飛んで行けと?」
「その通りだが」
一同驚愕したが、しばらくして、みんな乗りたいと言って収集がつかなくなった。結局、俺たちが訓練所に行っている間に竜騎士が5騎残ってくれて、訓練所に行かない水夫たちを交代で乗せて、その辺を飛んでくれることになった。
「わがまま言ってすいません」
「いや、ハンマーホエールを討伐してくれたのだから、それぐらいしても罰は当たらんよ」
そんなとき、ポチが俺に擦り寄って来た。
「ポチも訓練所に行きたいのか?そうだな、ニコラスに会いたいもんな」
「クゥーン!!」
俺はお付きの竜騎士に尋ねる。
「すいませんが、この犬も連れて行ってもいいでしょうか?」
「飛行中、大人しくさせてもらえれば大丈夫ですよ。でも怖がりませんかね?」
まあ、ポチは大丈夫だろう。本当に賢いしな。
それで訓練所に行くメンバーだが、俺とポチ、ザドラとベイラになった。因みにハープは勝手に飛んでついて来るそうだ。
ものの20分で訓練所に着いた。かなり速かった。流石のハープでも「速かったねえ~疲れたよ~」と言っていたからな。一緒に飛んで思ったが、竜騎士は命知らずだ思う。こんな奴がいっぱいいる竜王国と戦争をしようとした帝国は、ある意味凄いと感心する。
訓練所に着くと、アトラが竜と対峙していた。その竜は俺たちが乗って来た竜と比べて一回り小さく、他の竜が緑の鱗なのに対して、少し青みが掛かっていた。アトラが何とか竜に近付こうとするが竜は尻尾を振り回して近寄らせない。
そんなとき、俺達に気付いたニコラスが全速力で駆け寄って来た。ポチがいたからだ。
「ポチ!!」
「クゥーン!!」
感動の再会だった。
「元気だったか?」
「元気じゃないですよ!!毎日死んでるんですから!!」
「悪い、悪い、冗談だ」
「不謹慎ですよ」
そうは言いながらも、久しぶりのみんなとの再会にニコラスは嬉しそうだ。ザドラもデイジーとベイラもマルカとの再会を喜んでいる。そんなとき、悲劇が起こる。アトラのギヤー!!という悲鳴で振り返るとなんとアトラが頭を丸ごと齧られていた。即死だろう。
「船長殿、すまんがちょっと死んでくる」
「ポチ、すぐ死んで戻って来るから待っててね」
「アトラ、ドラゴンに齧られ即死、他三名は自殺・・・記録はOK」
どうやら3人も精神に異常をきたしているようだ。因みに最初の転落死亡事故以外、三人はすべて自殺らしい。
コイツら本当に狂ってやがる!!
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