53 勇者とドラゴン 2
とうとうハンマーホエールと出くわした。かなり巨大だ。資料のとおり30メートルくらいはある。偵察のハープが言う。
「デッカイねえ~当たったら終わりだよ~」
「それは分かっている。でも当たることはない」
当たったら終わりだが、操船スキルとスクリューをフル稼働させれば問題はない。問題と言えば火力だ。認めたくはないが、勇者砲があれば苦労せずに討伐できるんだがな。
「ザドラ、水中で銛を撃ちまくってくれ!!」
「了解!!」
「小型の魔道砲で牽制しつつ、ゴブリン隊とインプ隊で銛も撃ち込め、コボルト隊はサポートしろ」
「「「了解」」」
「ある程度銛が刺さったら、ロープで船に固定して、俺が引っ張り回す。認めたくはないが、火力が足りない。持久戦となるが耐えるぞ!!」
「「「オー!!」」」
操船スキルで近付き、銛や魔道砲でダメージを与えていく。水中感知のスキルで確認すると、ザドラも頑張っているようで、ロープ付きの銛を突き刺している。
それとハンマーホエールの動きは速くない。攻撃は絶対喰らわない。
「よし!!これから引っ張り回してやる。もう水中には潜らせないからな!!」
高速で船を移動させる。ロープ付きの銛が突き刺さり、そのロープを船体に固定しているので、勢いで海面に巨体が浮き上がってくる。そこを魔道砲と銛で攻撃する。ただ、決定打は与えられない。
「リュドミラ、主砲で撃ってやれ!!」
「了解!!」
リュドミラが主砲で攻撃した。それなりにダメージを受けているようだが、動きは止まらない。もう2発撃つが決定打にはならなかった。
「アトラがいれば・・・・」
「船長、何か言ったッスか?」
「いや何も。それより集中しろ!!」
リュドミラが言う。
「どうしますか?討伐できるまで撃ちまくりましょうか?多分20発以上撃てば、討伐できると思いますが、大赤字ですね」
「駄目ニャ!!赤字は駄目ニャ!!」
「後2発で討伐できる方法を考える。このまま維持だ!!」
「船長!!意地を張らないでください。後10分だけ待ちます、それまでに御決断を!!」
「普通に考えて撤退だよな・・・そもそもここのギルドは討伐依頼の報酬が安すぎるんだ。そりゃあ、竜騎士が片手間に倒すからそうなるのも分かるが、そんなんじゃ、討伐依頼をこなす船乗りが育たないぞ!!」
リュドミラが呆れて言う。
「今それを言っても仕方ないと思いますけど。帰ってアトラさんに土下座でもしたらどうですか?」
「それは・・・冒険者ギルドに交渉して、討伐報酬をアップさせて・・・」
そんな非建設的な会話をしているところで、3騎の竜騎士が上空から滑空して、ハンマーホエールに槍を突き刺した。かなりの破壊力だ。それを何度も繰り返している。次第にハンマーホエールが弱り、遂に動かなくなって仰向けになって浮いていた。
「どこの誰かは知らないが、助かったな。これでアトラに土下座しないですむ」
「船長はアトラ、アトラってばっかり言っているッス」
しばらくして、ハンマーホエールにとどめを刺した3騎の竜騎士が甲板に降り立った。その竜騎士の隊長格と思われる女性、緑の髪にエメラルドグリーンの瞳をした美人さんがヘルメットを取り、挨拶をしてくる。
「我は竜王国第一王女にして、第一飛竜騎士隊隊長のカーミラ・ウインドミッドである。貴殿らの獲物を横取りしたようで、謝罪する」
えっと・・・王女様で竜騎士?
とりあえず、挨拶はしておかないとな。
「私はクリスタ連邦国海軍特任大佐のネルソン・ドレイクです。こちらが困っていたところを助けていただきまして、心よりお礼申し上げます。丁度撤退を視野に入れていたところだったんで、有難かったです」
「そう言ってもらえるとこちらも助かる。実は貴殿らの活躍を聞いてどのような戦い方をしているか、興味があって、上空で様子を見ていたのだ。見事な戦いぶりであった。水中に潜られては、流石に我らでも手が出せんからな。奴にはかなり船を沈められたていたのだ。王族を代表して礼を言う」
「いえいえ、キチンと報酬はもらっていますので」
「さっき報酬が安いとか言っていなかったッスか?」
おい!!余計なことを言うな。
アトラと違って、礼儀正しいが、ドラゴンに乗って槍を振り回す危険人物だろうが!!怒らすとヤバいぞ。
「報酬が安いとはどういうことだろうか?」
「それはですね・・・」
俺はリュドミラと話した内容をかなり神経を使いながら、丁寧に丁寧に言葉を選びながら説明した。
「つまりですね。竜騎士に頼りきっている状態ですので、ある程度報酬を上げても、討伐依頼をこなしてくれる船乗りを育てるべきかなって、思ったり・・・思わなかったり・・・」
「なるほど、よく考えてみればそうだな。貴殿の言うことは一理ある。早速、陛下に進言しよう。頼られるのは嬉しいが、そういった弊害があることも理解した」
何とか分かってくれた。
「それで搬送はどうする?何なら訓練の一環で竜騎士を集め、こちらで搬送してもいいが」
「お願いしてもいいですか?竜騎士がいっぱい見られて嬉しいですから是非。水夫たちも喜びます」
だって、コボルトやゴブリンたちが興味津々でドラゴンを見ているからな。俺も触らせてもらいたいしな。
「では、そうしよう。それでは、しばし待たれ・・・」
言いかけたところで、船首の女神像が怪しく輝き始める。そして空間が歪む。例のごとく、眩い光に包まれた。
そして、気付いたときにはドラゴニアの船着場に転送されていた。
「これは死んだな」
「死んだッスね」
「死んでますね」
「死んじゃったねえ~」
呆気に取られたカーミラ王女は言う。
「これは一体!!船長殿、説明をしてもらえるか?」
★★★
俺はカーミラ王女に俺が勇者パーティーの船長ということや帝国とクリスタ連邦国との因縁、これまでの活動や解雇されそうになっていること、そしてアトラの生い立ちや勇者の能力についても話した。セガスに他言無用って言われてたっけ?
もう他人になるし、関係ない。
「なんと!!あの馬鹿女にそんな能力が?」
「そうなんですよ。ネックレスを港に忘れただけで、パーティーメンバーを惨殺したり、二言目には死ぬぞって脅してくるんですよ」
「そうか、生い立ちを考えると同情する面もあるが、あの態度はいただけん。それにもまして帝国はなんというか、付き合いを考えんといかんな。人としての道を踏み外している」
それから散々、カーミラ王女の愚痴を聞かされた。アトラは向こうでもトラブルを起こしているようだった。もう知らんけど・・・
「ところで、この船が世にも名高い「クリスタの水竜」か・・・是非、陛下にもご覧いただきたいが、いいだろうか?」
「クリスタの水竜?」
「ああ、我が国ではそう呼ばれている。神出鬼没、帝国海軍を恐怖に陥れたのは、伝説級の竜使いに違いないというのが、我が国の軍部の見解だった。高性能の特別な軍艦とかいう意見もあったが、まさか、普通の中型軍艦だとは思わなかったな」
この船はどんだけ二つ名があるんだ!!
「クリスタの自由」「クリスタの亡霊」ときて、今度は「クリスタの水竜」だってさ。そう思えば「アトラの奇跡」ってのはどうも納得がいかん。この船はアイツにはもったいなさすぎる。
「実は船長殿、貴殿を見込んで頼みたいことがあるのだ。勇者殿のことで少し・・・」
別れてもアトラに迷惑を掛けられるのか・・・
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