51 七色の勇者砲 4
ドワーフの里を出発し、俺たちは帰路に着く。目指すはドルドナ自治領の領都ドンバス、デイジーと合流するためだ。
俺はというと、ポーラにまとわり付かれていた。
「船長、もっとスクリューを回してください。伝導率を調べたいので。それに何かコツでもあるんですか?」
「正直スキルだから、よく分からない。船は操れるけど、馬車とかは無理だ。なんというか感覚だな。自然と調整している感じかな?」
「そこをもっと言語化して、詳しく」
ポーラとしては、アトラを研究するよりも俺を研究したほうが、今後の研究に役立つと思ったようで、ドワーフの里を出てからずっとこの調子だ。
ここに馬鹿もやって来る。
「飽きた、飽きた!!もう、死んでやる!!」
我らが偉大なる勇者様は、おもちゃに飽きてしまったのだ。
当初は「七色の勇者砲」とかいう恥ずかしい名前を付けて、ずっと俺や乗員たちに自慢してきたのだが、堪りかねたマルカが事実を突きつけてしまった。「七色の勇者砲」は欠陥品なだけにアトラの魔力をもってしてもそこまで威力はないのだ。通常砲は小型の魔道砲よりも威力は劣る。それに散弾砲も射程距離は短いし、威力は通常砲に劣る・・・一言で言うとそこまで使えないのだ。
それに火砲、電撃砲、水砲、氷砲、光砲は、マルカが魔法で出したほうが性能がいい。
この事実を知ったアトラは、急に「七色の勇者砲」に興味を失ってしまった。
「もう!!それならザドラが獲って来た魚でも凍らせておけ!!」
「そんなことの為にこの「七色の勇者砲」はあるんじゃない!!もっとカッコいい使い方を考えろ!!そうしないと死ぬぞ!!」
騒ぎを聞いてまた、水夫たちがやって来る。
「やっぱり三角関係だ」
「修羅場だ、修羅場」
「この船は修羅の船だ」
また、勘違いされている。
でも「七色の勇者砲」の使い方は考えないとな。せっかくもらったんだし。しかし、七色かあ・・・これはもしかしたらいけるかもな!!
「アトラ、ちょっといいか?デイジーを喜ばせる方法を考えたんだが」
「まあ、聞くだけ聞いてあげるよ」
★★★
俺たちは、ドンバスに入港している。ハープに先触れを頼んだので、多くの領民が出迎えてくれた。そして、俺達のクリスタリブレ号を見て、騒ぎ出す。
「旗を見ろ!!ドルドナ王国旗だ!!」
「ああ、それも一番高いところに!!」
「ドルドナ王国、万歳!!」
「誇りは失ってないぞ。勇者様の船に我が国の国旗が掲げられているんだからな」
落ち込んでいるデイジーを元気づけようと、航海士たちで話し合っていたのだ。旗を掲げたくらいで、帝国も目くじらは立てないだろうしな。デイジーと別れる前にデイジーに頼んでいたのは、国旗を用意してもらうことだったのだ。
「よし!!アトラ、今だ!!」
「唸れ!!勇者砲!!」
アトラは水砲を連続で発射し、それに続いて光砲で水の塊に光を照射していく。すると巨大な虹が出現した。
「虹よ!!すごく綺麗な虹よ!!」
「俺たちの希望の虹だな!!」
「この日を忘れないぞ!!」
反応は上々のようだ。
舩から降りると、慌ててデイジーが駆け寄って来る。
「これはどういうことだ!!ドルドナ王国の国旗を掲げてくれて嬉しいが、契約違反では・・・」
「契約では「航行する海域を管轄する国家の国旗を一番目立つように掲げる」となっている。でもここは海じゃない。川だろ?だったら、契約違反にはならない」
「屁理屈だな。だが感謝する」
ザドラも珍しく船から降りて来た。
そしてドワーフの里で購入した槍をデイジーに手渡す。
「なんだ、元気そうじゃないか。ドワーフの里で買ったお土産だ。気に入ってくれると嬉しいんだがね」
「ありがとうございます、ザドラ姉上!!しっかりと使わせていただきます」
デイジーは本当に嬉しそうだ。
このやり取りを見て、領主ドーガンが近付いて来る。
「貴殿には感服した。それに希望を示してくれたと思う。本当に感謝する。何ならデイジーを嫁にやってもいいがな」
「父上!!それもこんな場で!!」
水夫たちも騒ぐ。
「修羅場だ!!」
「新たなライバル出現!!」
「笑えない冗談ですよ。ただ、デイジーが大切な仲間であることは確かですが」
「まあいい、デイジーもしっかりやりなさい。武運長久を祈る」
そのまま、デイジーはクリスタリブレ号に乗り込み、俺たちはドンバスを離れた。
現金なもので、アトラは久しぶりに乗船したデイジーにおもちゃを見せびらかして、自慢していた。
「デイジー、これはね、「七色の勇者砲」といって、すごく色々なことができるんだ。虹を出したのもこれのお陰さ。じゃあ、氷砲で魚を凍らせてあげよう」
そんなことの為にこの「七色の勇者砲」はあるんじゃない!!ってキレてたよな?
まあ、機嫌が良くなるならそれでいいか。
★★★
ドンバスを出港して3日後、俺が船長室で休んでいるとセガスとアデーレが訪ねて来た。
とうとう、俺は始末されるのだろうか?まあ、冗談だが。
すぐにアデーレが報告を始める。
「どうやら旧ドルドナ王国の各地で、独立の機運が高まっているようです。歴史的なことを言うと旧ドルドナ王国は、領土の多くを帝国の別の領に割譲され、現在のドルドナ自治領は領都ドンバスとその周辺しか統治していないのです。先日勇者パーティーに遊牧民の討伐依頼があったと思いますが、その遊牧民もドルドナ王国の独立を願う者たちが、遊牧民に偽装して引き起こした可能性が高いようです」
また、厄介ごとか・・・
「そうか、それで?デイジーの親父さんはどうするんだ?」
「決め兼ねているようでした。しかし、先日の船長たちのやったパフォーマンスで心は決まったようですがね」
「どういうことだ?」
「独立の意思を固められたということです。ドルドナ王国の国旗を高らかに掲げるクリスタリブレ号を見たとき、ドーガン様は仰られました。
『誇りを捨てるなということだな!!デイジー!!我は決めた。苦労を掛けるがやるぞ!!もう帝国に誇りを踏みにじられるようなことはさせん。それに勇者殿も応援してくれているからな!!』
そして部下達に指示を出していました。すぐに戦争になることはないでしょうが、それでもレーン川周辺の住民たちはドルドナ王国旗を掲げるクリスタリブレ号を見て、誇りを取り戻したと思われます」
それって、俺たちが内戦の火種を作ったってことか?
帝国としては皮肉だろうな。だって他国で戦争を起こさせようとしていた勇者パーティーが、帝国の内乱を誘発することになるなんてな。
「それで俺にどうしろと?独立をしようと計画しているなんて知らなかったしな」
「ただ、こういうことがあったとお伝えしただけです。私はただのメイドですから」
ただのメイドなわけがないだろうが!!
セガスが言う。
「今後は、帝国を含めて、勇者パーティーの活動は戦争の火種になると思って慎重に行動してください。旧ドルドナ王国の関係はすぐに戦争にはらないでしょうが、危険な状態に変わりはありません。なんたって、この船には危険人物が多く乗っていますからね」
それはお前らもな!!
今後は少し、考えて行動しよう。
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