50 七色の勇者砲 3
ポーラが説明を始める。
「これはスクリューにも言えることですが、魔力を如何にしてスクリューや魔道砲に伝えるのかが、鍵となります。魔石を使用した場合、魔力伝導率が良くて10~20%ですね。だから、廃艦となった「アトラ要塞」はスクリューを回すのに大量の魔石が必要だったのです。この効率を上げることが私たち研究者の使命でして、日々努力を・・・」
言いかけたところで、マルカが遮る。
「ポーラ、また悪い癖が出ているよ。話を戻して」
「すいませんでした。それで注目すべきは船長さんのスキルです。詳しく計測は出来てませんが、船長さんのスキルでは魔力伝導率が限りなく100%に近いのではと推測されます。私としては、勇者様より船長さんの研究をしたいのですが・・・・」
「だ・か・ら!!研究の話は後でしてもらうから、今は魔道砲に話を戻して!!本当に研究馬鹿なんだから」
研究馬鹿はお前もだろうが!!
というか、俺のスキルも帝国に研究されているのか・・・
「度々すいません。勇者砲でしたね。例えばの話ですが、最大で100の力が発揮できる魔道砲があったとしましょう。魔力伝導率を10%と仮定すると、魔石なら1000の力を魔道砲に注入すれば、最大限力が発揮できるのです。しかし、勇者様の魔力は膨大で、私どもも計測不能なくらいです。正確な数値は分かりませんが、100の力を出すのに10000くらいの魔力が注がれていることになります。だから、魔道砲の容量を超えた魔力を大量に注いでいるので、魔道砲が壊れてしまうのです」
つまり、魔道砲が想定している以上のとんでもない魔力をアトラは注いでいいることになる。本当に化け物クラスだな。
ここで里長が説明を引き継ぐ。
「クリスタリブレ号の主砲はかなり高性能に作られておる。魔力容量も大きいし、頑丈じゃ。それに自己再生機能も付与されているから、完全に壊してしまわん限りは休ませればある程度修復できる。ただ、魔力注入口はかなりの負担がかかる。壊れるとしたらまずそこじゃ。
簡易的な措置としてこの部分の補強をする。そうすれば20発までは撃てるとは思う。予備の部品も用意しておいてやるからそれでいいか?」
「まあ仕方ないですね。とりあえずそれでお願いします」
ってアトラは?
説明に飽きて、どっかに行っている。お前が勇者砲、勇者砲ってうるさいからここに来たんだけどな!!
「まあ、根本的な解決策は勇者殿が魔力の注入量をコントロールできるようにするか、出力を上げた魔道砲を作るか・・・」
マルカが言う。
「それは無理ですね。そもそも魔力のコントロールなんてできたら、爆発なんてしないし、アトラの魔力をすべて発射できる魔道砲なんて作ったら、それこそ世界が亡びますよ」
それはそうだろう。魔族の技術を使い、世界を滅亡に追い込む破壊力、もう勇者を辞めて魔王になればいいのでは?と思ってしまう。
「後は、勇者殿の魔力を一度、船長に預けて、船長が魔力を注げば理論上は可能じゃろう。やり方は分からんがな。船長が勇者と結婚して、その子供に託すとかしてみたら面白いかもな」
「冗談でもそんなことは言わないでください。本当に「子供が欲しい。そうしないと死んでやる」とか言われたりするんですから!!」
女性陣が盛り上がる。
「それは面白そうッス!!」
「責任取れよ、船長!!」
「領主様に報告を!!」
「うるさい!!黙れ!!里長、早くその作業をしてください。もう俺は帰ります」
★★★
一方、我らが偉大なる勇者様はというと、喜んでいた。別のことで・・・
「20発撃てるんならいいんじゃない?それよりも、この小型の魔道砲がカッコいいんだ。手に馴染むっていうかさあ・・・小さくて可愛いし、持ち運びに便利だし、欲しくなっちゃったな」
「欲しけりゃ、やるぞ。ただ、失敗作も失敗作、儂の汚点と言っていい作品じゃ。ポーラの話ではないが、魔力伝導率が2~3%なのじゃ。注入口に達する前にほとんどの魔力が漏れ出てしまうからな・・・品評会で大恥を掻いたわい。
若気の至りで出品したのじゃが、1発撃つのに大樽一杯の魔石が必要なのをすっかり忘れて、得意げに発表したのじゃ。そうしたら『樽を担いで戦地に行くのか?とんだ軽量化だな!!』と大笑いされたのじゃ。今でも恥ずかしいわい!!」
「だったら、試しに撃ってもいいかな?壊れてもいいんだよね?」
「もちろんじゃ。勇者様にとどめを刺してもらえれば、この魔道砲も本望じゃろう」
しかし、結果は予想外だった。轟音を響かせて、飛んで行った魔力の塊は、大きな木の幹を貫通した。
壊れもない。
「これは驚いた!!怪我の功名とはこのことか・・・見て分かるとおり、発射するたびに周囲に魔力が漏れ出ている。それで膨大な魔力が無駄になっておる。普通なら欠陥品じゃが、勇者殿には、それが良かったんじゃろうな」
欠陥勇者が使う欠陥品が最高って、どんな理論だよ!!
「じゃあ、買うよ」
「いや、タダでいい。それに儂も勇者殿に武器を献上したと英雄譚に加えてほしいからのう。それに欠陥品を勇者殿に売りつけたケチと末代まで言われたくはないからな。実は他にもバージョンがあるから、全部持って行ってくれ」
結局、貰った魔道砲は7つ、通常砲、散弾砲、火砲、電撃砲、水砲、氷砲、光砲だった。
よくまあ、勢いで使えない小型魔道砲のバージョンを増やしたものだ。アトラがいなければ、絶対日の目を見ることはなかっただろう。
それにこの7つの魔道砲も戦闘で使えないものも多い、水砲は水が出て来るだけだし、光砲なんて、何の攻撃力もない光が出るだけだ。目くらましにはなると思うが、それなら大樽一杯の魔石を使ってそんなことをするより、普通に光魔法を放ったほうがいい。初級魔法のライトボールのほうがはるかに効率的だ。
ただ、アトラは大喜びで、貰った魔道砲を撃ちまくっている。
「僕しか使えないし、色々と出て来て楽しいな!!」
おもちゃじゃないんだぞ!!
まあ、アトラがそれでいいならいいか。
ドワーフの里まで来て、できたことは勇者砲が20発撃てるようになったことと、勇者のおもちゃが手に入ったことだ。報告するのはポーラかマルカだし、俺に関係ないからいいか。
我らの女王陛下だったら、多分こう言うだろう。
「おもちゃを手に入れるために妾は高い金を払ったのではないのじゃ!!」
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