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5 サンタロゴス島

領民と姉貴に見送られ、俺たちは一路サンタロゴス島を目指した。


サンタロゴス島、正式にはボンジョール王国サンタロゴス領、狸獣人の大商人ポーン・ポコが総督を務め、全長約30キロメートル、幅約10キロメートルの南北に細長い島で、領都ロゴスが港町として大発展している。地理的には、クリスタ連邦国、グレイティムール大帝国、ボンジョール王国の丁度中間点にあり、それを利用して交易の島として発展してきた歴史がある。


侵略国家のグレイティムール大帝国がこの島に目を付けないはずはない。なのになぜ、ボンジョール王国の領土となっているのか?


それはポコ総督の巧みな戦略によるものが大きい。まず、ボンジョール王国は大国ではあるが、グレイティムール大帝国と領土を面していて、度々武力衝突を起こしている。陸軍戦力では帝国に劣るものの海軍戦力に力を注ぎ、何とか帝国と渡り合ってきた歴史がある。如何に海軍力では帝国に勝っているといっても全面戦争となれば、分が悪い。


そこでポコ総督は、捨て身の政策に打って出る。


まず、関税を撤廃し、魔物対策の最低限の部隊をサンタロゴス領の直轄部隊に編成替えし、国軍すべてを本国に引き上げさせた。ボンジョール王命で現地商人の自治に任せ、ボンジョール王国は統治から手を引くと宣言したのだ。当時の正式文書には「この島を我は平和の島にしたい。領有をめぐり争うことは愚の骨頂である。それならば、誰もが自由に出入りして暮らせる島としよう」と記されている。


これには帝国も困った。定番の「島民が圧政に苦しんでいる」との大義名分は使えないし、帝国が統治して関税を課せば反発が起きることは間違いない。合わせて商人達も「自由が奪われるなら、この島から撤退する」との声明を出す。税も取れない、商人もいないではせっかくこの島を奪い取っても割に合わない。よって、帝国としては正式にボンジョール王国の領有は認めていないが、帝国の領有権も主張しないことになった。

そして、今に至るというわけだ。


「何度聞いても凄いな。捨て身の自爆攻撃みたいなもんだ。攻撃したら道連れにしてやるってな。流石はミケの師匠だけはある」


「師匠は凄いニャ。ここだけの話、税金は取らないけど、港の使用料やなんやかんやで税金と同じように儲けているニャ。本国に行くはずだったお金はすべて、師匠の懐の中ニャ。それに港の主要な施設の利権はボンジョール王国が持っているから、税金という形ではないけど、本国も儲かっているニャ」


「まあでも、公正な取引さえしてくれたら、誰も文句を言わないんだろ?だったらいいじゃないか」


「そうニャ、国籍、種族を問わず公正な取引が信条ニャ。たとえ海賊でも悪魔でもニャ」


そんな話をしながらも船は進み。俺達はサンタロゴス島に到着した。


港町で領都のロゴスに寄港すると大々的に歓迎会が開かれた。というのも、俺達を使ってこの島の商人が一儲けしようと企んでいたからだ。多くの見物客に囲まれて大変だった。ミケはちゃっかり見物料を取っていたけどな。


歓迎会が終わり、ポコ総督に総督府に招かれた。交渉の責任者として、ミケも同行している。


「師匠、ご無沙汰なのですニャ。これはほんのお気持ちですニャ」


ミケが差し出したのは、キラーホーンシャークの牙だった。どこで抜き取ったんだ?

丸ごと一匹、女王に献上したはずだが・・・


「おお、これは凄い。キラーホーンシャークは珍しいからね。欲しがるものは多いでしょう。特に帝国の見栄っ張り馬鹿貴族とかね。本当にいいのかい?」


「まだまだ私ごときでは、捌ききれませんからニャ。師匠にお譲りしますニャ」


「ミケもなかなかの悪よのう。誰に似たのやら」


「いえいえ、師匠には及びませんニャ」


お決まりの挨拶を交わしている。

いつもこんな感じだから、凄いことをやっているが、微笑ましく見ることにした。女王の献上品の一部を抜き取るなんて、普通はできないからな。


「前置きはこれくらいにして、本題に入ります。今後の流れですが、ここでしばらく待機していただき、勇者様と合流していただきます。こちらも商売ですので、セレモニーも考えております。代わりといっては何ですが、こちらでの滞在費はすべて負担させていただきます」


「それで構いませんよ」


「実は諸事情で、勇者パーティーの到着が遅れております。勇者パーティーの到着は予定では1ヶ月後になります。それで一つ討伐依頼を受けて欲しいのですが・・・」


「まあ、暇ですからいいですよ。ミケがお世話になっているようですしね」


「それは有難い。冒険者ギルドを訪ねてもらえれば詳細はそこで分るようにしておきます。当然報酬は弾みますよ。そんじょそこらの艦隊では太刀打ちできない相手ですから」


海洋ギルドはクリスタ連邦国のみの団体で、他国では冒険者ギルドが依頼の仲介を請け負っているのだ。港町のギルド支部には海洋部門が設置されているので問題はない。


次の日、俺たちは冒険者ギルドを訪ねることになる。


★★★


ミケの師匠だけはある。騙された・・・・


討伐対象は悪名高き大ダコ、クラーケンだった。体長20メートルはある大ダコで沈められた商船や漁船は数知れず、ボンジョール王国海軍やグレイティムール大帝国海軍が討伐に乗り出すも、ことごとく失敗している。最近では専ら、魔道砲を撃って追い散らすだけになっている。しかも出現場所が良くない。

サンタロゴス島からグレイティムール大帝国の帝都までの航路上だった。


ドル箱航路がつぶれている状態は商人達にとって大きな痛手だ。勇者達の到着が遅れているのもこれが原因のようだった。この航路が使えないから陸路でボンジョール王国まで移動して、別航路でやって来るからだ。


ギルドマスター直々に説明をしてくれる。やけに丁寧だった。聞いてみたら俺の特任大佐という階級は、冒険者で言えばAランク相当になるみたいだ。Aランク冒険者はボンジョール王国でも数える程しかいないので、そういった対応になるようだ。


「それで、更にご無理を言うのですが・・・できましたら、原形を留めたまま持ち帰ってほしいのです。と言いますのも、少し大きめの大ダコを大量に持って来て、クラーケンを討伐したと言い張って、報奨金を騙し取ろうとした輩がおりまして、ドレイク特任大佐を信用しないわけではないのですが・・・・」


「できるだけそうするよ」


「ありがとうございます。当然、報酬はアップさせていただきますから」


今回の依頼は雑魚狩りがメインだった前回のホーンシャークの群れとは異なり、本気の戦闘になるだろう。準備もしっかりしないとな。そんなとき、ミケが声を掛けてきた。


「私はここに残って、勇者パーティーの出迎えの準備をしていますニャ。もし依頼中に勇者パーティーが到着したら大変ですからニャ。それにセレモニーの利権も抑えておきたいニャ」


というかお前、クラーケンと戦いたくないだけだろうが!!


まあ、ミケが居ても戦力にはならないし、いいんだけどな。

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