49 七色の勇者砲 2
領主ドーガンの話は続く。
「我を含めてドルドナ王国には3人の王子がおった。第一王子の長男が王太子、我とは反対に知略に優れ、バランス外交ができるので、誰も文句は言わなかった。兄だけは軽口で『ドーガンが国王になってもいいんだぞ。俺は外交官としてのらりくらり、楽しくやるからな』とよく言っていた。我も『だったら我が騎士団長になって兄上を守る!!難しいことは兄上に任せる』と言い返していたものだった。
面白くないのは、第二王子だった。兄程、知略に優れているわけでもなく、我よりも武力は劣る。今思えば、強く劣等感を感じていたのだろう。そこを帝国に付け込まれた。
帝国の甘い言葉と数々の援助で第二王子派は勢力を増す。帝国商人を優遇し、他国の商人を排斥した。怒った他国との関係は当然悪くなる。基本的に帝国に攻められそうになるとボンジョール王国や周辺各国に助けを求めるのが常だが、それが出来なくなってしまった。国王の父が諫めればよかったのだが、病床であったから事態は更に深刻になった。
後は簡単だ。難癖なんていくらでもつけられる。当時我は騎士団を率いて魔物の討伐に出向いていたのだが、帰って来たときにはすべて終わっていた。病床の父は死去、王太子は戦死、知り過ぎた第二王子は、数々の不正が発覚したとして処刑されていた。
我は名ばかりの王となり、ドルドナ王国最後の王として、属国となることを受け入れたのだ。帝国には我が槍を振り回すしか能のない扱いやすい馬鹿と思われていたのだろう。一矢報いるために戦ってもよかったが国民に多くの犠牲が出る。いくら頑張っても流石に皇帝までは槍が届かんからな。
それで、デイジーには苦労を掛けることになるのだが・・・・」
予想通り、暗い話になった。
「つまり、その悪い奴を僕が倒せばいいんだね!!よし!!やろう」
しかし、我らが偉大なる勇者様はあまり話を理解していなかったようだ。
「勇者殿は面白い方だ。少し話過ぎた。我はこれで失礼する」
多分、もう出発まで俺たちの前に現われないと思ったので、第三王子からもらった紹介状を手渡した。国ばかりでなく、領主や商人への紹介状もあったのだ。すると領主ドーガンは笑い出した。
「ワハハハ、これは傑作だ。なるほどな、貴殿も苦労しておるようだな。何かあれば貴殿を頼ることにする」
領主ドーガンは退出した。
残された俺たちは話し合う。
「もし可能なら、デイジーをしばらくここに残していけばいいんじゃないか?ドワーフの里に行った帰りに迎えにくればいいし。親父さんとも久しぶりに会ったんだろ?」
「それは申し訳ない。我も勇者パーティーの一員だからな」
「アトラはどうだ?」
「僕は構わないよ。勇者砲がパワーアップすれば、悪い奴も一撃さ」
「セガスは?」
「お世話係も必要でしょう。アデーレを残します」
お世話係じゃなくて、監視係の間違いだろうけど。
「みんな感謝する。ここでは鍛錬に励むとする」
「デイジー、代わりと言っては何だが頼みがあるんだ。俺に一つ・・・・」
「そんなことでいいのか?まあ、構わんが・・・」
次の日、俺たちはドワーフの里へ向けて出発した。
★★★
ゆっくりと3日かけてレーン川を遡る。川沿いに集落を見付けた。これがドワーフの里だと言う。
ベイラが取り持ち、里長に挨拶をする。
「事情はさっき、説明したとおりッス。お土産は帝国産の麦酒と火酒、クリスタ連邦国産のスパイシーリキュール、ボンジョール王国の最高級ワインと火酒ッス。好みが分からなかったので、色々持ってきたッス」
「おお!!ベイムの娘が大きくなって!!ベイラと言ったな、合格じゃ!!詳しい話は明日だ。今日は飲むぞ!!ベイムは儂の弟子じゃからな。遠慮することはない。力になってやろう」
具体的な話は何も聞かず、宴会が始まってしまった。
料理は肉とキノコが中心で、何よりも特産の火酒がとんでもなく酒精が強かった。
里長が言う。
「外の人は大体面食らうんじゃ。まあ、水か炭酸水、それか果実水で割って飲んでくれ」
対抗してストレートで飲もうと思ったが諦めた。炭酸水で割ると、かなり美味しかった。やっぱり無理はいけないな。
あんなに飲んだはずなのに、次の日の朝、ドワーフたちは平然としていた。
「仕事の話をしよう。相談があるそうじゃな?」
ベイラが状況を説明する。
「なるほどな・・・ちょっと見せてもらおうか」
しばらくして、里長は言う。
「かなり時間が掛かる。今日のことにはならんな。技術者以外はどこかで時間を潰しておいてくれ」
ということで、ベイラ、マルカ、ポーラを残して、俺たちはドワーフの里を観光することにした。
ドワーフの里というだけあって、武器や防具はかなりいい物が揃っていた。ザドラは早速自分の銛とデイジー用に槍を買っていた。
「落ち込んでいる妹分に土産でも買ってやろうと思ってね」
「多分、すごく喜ぶと思うよ」
リュドミラは、武器屋の主人と口論になっていた。
「弓は大したことがないですね。エルフの弓には敵いません」
「それはそうかもしれんが、こっちはどうだ?手に取って見るといい」
「これは・・・なかなかの矢ですね。認めましょう。矢だけは素晴らしいと」
「矢だけではないがな。まあ、値段が張るから、ここぞってときの為に何本か持っておくのも悪くないぞ」
「では10本いただきます」
いい矢が手に入ってリュドミラは嬉しそうだった。
3日くらいはそうして過ごした。俺はアトラに付き合わされて、レストランや酒場を巡る。また、武器屋の前で「死ぬぞ!!」攻撃を喰らい、結局、皮鎧を買わされてしまった。
「まあ、なかなかの性能だから、どうしてもというのなら使ってあげるよ」
そして、里長の所を訪ねるとある程度の分析はできたみたいで、説明があった。
まずはポーラからだ。
「結論から言うと、要望のあった勇者砲を取り外すことは無理です。勇者砲はクリスタリブレ号と複雑に接続されていて、まるで勇者砲に船がくっついている感じです。なので、取り外そうとすると船も勇者砲も壊れてしまいます」
「そんな!!だったら僕は船に乗ってないと勇者砲を使えないってこと?」
「馬車に引っ張らせるなどして、船ごと目的地まで運べば可能ですが、現実的ではないですね」
「だったら新しく作ってよ!!できるんでしょ?」
里長が言う。
「無理じゃな。これはドワーフの技術の他に魔族の技術も使われておる。ベイラにドワーフの里の秘伝の技術と知識を教えておいたから、魔族の技術者がおれば作れんことはないじゃろう」
「よし!!だったらすぐに魔族領に行こう!!明日にでも出発だ!!」
「おい!!お前は馬鹿か!!俺たちは魔王を倒しに行くんだろ?それで魔王が復活した魔族領に行って「魔王を倒しに行くので、勇者砲を作るのに協力してください」って言うのか?その技術者が「分かりました。協力します」とか言うわけないだろうが!!」
「馬鹿とはなんだ!!もしかしたら魔王はいい人で、親切に協力してくれるかもしれないじゃないか!!」
「魔王がいい人なら、倒さなくてもいいだろ?論理が破綻しているんだよ」
「うるさい!!もう死んでやる!!」
アトラが怒り出したところで、里長は言う。
「もう一つの課題、勇者砲の発射回数を増やすということであれば、できんことはない。少し、理論的な話になるので、ポーラ、説明してやれ」
ポーラは説明し始めた。
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