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47 勇者と宣教師 4

ドレイク領の領都スパイシアに寄港した。姉貴にはハープに手紙を持たせて先に接触してもらい、パウロのヤバさを伝えていた。今回も住民総出で出迎えてくれる。

その光景を見て、パウロは勘違いして感動していた。いつもこうなんだけどな。


「なんということでしょう。皆さんは神の教えを伝える私の到着を待ち望んでいたのですね!!よし!!今まで以上に頑張りましょう」


頼むから頑張らないでくれ!!


舩から降りると姉貴が住民達の代表としてパウロを出迎えた。


「ドレイク領の領主スターシア・ドレイクです。遠路はるばるお越しくださり、ありがとうございます」


「宣教師のパウロです。温かいお出迎え感激いたしました。粉骨砕身努力いたします。早速ですが、教会を見せていただきたいのですが」


「教会?ああ、集会所のことですね」


このドレイク領に教会ってあっただろうかと思ったが、思い出してみれば集会所の隅に祭壇ぽいのがあったよな。国中に教会を作ったはいいが、使わなくなったという話をリザドから聞いたが、ドレイク領も例外ではなかったようだ。


集会所は、台風や火事で家を失った領民を一時的に住まわせたり、宴会などのイベントに使われる。今回は大規模の宴会なので外でするが、集会場にその料理が所狭しと並んでいた。


「今日は感謝祭をしようと思っています。時期も丁度いいので少し早めですがね」


「神にまず料理や酒を奉納し、それをみんなでいただく、このようなところにも神の教えが行き届いている・・・」


いつも料理をここに置くだけだが、パウロがいいほうに勘違いしているので、放っておく。


そしていよいよ感謝祭が始まった。姉貴が代表して挨拶を行う。


「じゃあ、皆さん感謝祭を行います!!ではこのような祭が開けることを感謝し、すべての領民の健康とご多幸を祈念して乾杯!!」


「「「乾杯!!」」」


これにパウロが待ったを掛けようとする。


「ちょっとお待ちを・・・もっとこう・・・神の教えを説いて、感謝祭の主旨を・・・」


言ったところで、ベイラ達ドワーフにパルロは連れ去られた。


「何言ってんスか?とりあえず飲んでからッス!!一緒に飲むッス」


「なるほど、この領では乾杯の後に説法を行うのですね。それに飲まなければ失礼ですから・・・」


ベイラに頼んだ作戦は成功した。ドワーフが数人がかりで取り囲んで飲ませれば、勝ち目はない。1時間程パウロは粘っていたが、「神の教えを説かなければ・・・」と言う言葉を最後に安らかに眠っていた。


「なかなか頑張ったッスけど、これで私達の任務は終わったッス。後は楽しく飲むッス」


ありがとうベイラ!!パウロに勝利したのは君が初めてだ。


姉貴のほうを見るとアトラがべったりだった。


「凄いわね、アトラちゃんは。是非その演劇も見たいわ」


「僕が大活躍をして、軍艦が空を飛び、敵をやっつけたんだ。獣人を解放してモフモフして。お姉さんにも見せたかったよ。と思います」


「「勇者アトラとクラーケン」はこの領でも大盛況だったわよ。とにかくネルソン役の役者さんが面白くて、アトラちゃんにセクハラして、最後は悪事がバレてお仕置きされたときは、みんな大笑いしてたわ」


おい!!なんでドレイク領でも上演されているんだ?

それも絶対、上演して欲しくないやつを・・・姉貴まで信じてるし・・・


「ごめんね、ネルソンが迷惑を掛けているようで」


「大丈夫です。ネルソンなりに頑張っているしね。まあ、勇者の僕がフォローしているから心配はいらないよ。と思います」


「アトラちゃんはいい子ねえ。是非ネルソンのお嫁さんになってもらいたいわ!!」


なんてことを言うんだ姉貴は!!流石のアトラも赤面しているし。


「おい!!姉貴、変なことを言うな。あれは創作だぞ。それもほとんどが嘘だ」


「あらあら、照れちゃって。多少誇張はしていると思うけど、ネルソンがアトラちゃんに気があるのは確かでしょ?」


「ないない、絶対ない」


これにアトラが反応する。不敵な笑みを浮かべて。


「そうか、ネルソンが僕を好きだってことは気付かなかったな。でも僕は勇者、使命を果たすまでは、誰の気持ちにも答えることはできないんだ。まあ、どうしてもというのならしっかりアピールするといい。それで僕を振り向かせられるかどうかは分からないけどね」


「アトラちゃんも、こう言っているから、しっかり頑張りなさいよ」


腹立たしい状況に俺はベイラとザドラと一緒に吐くまで飲んだ。次の日は航海士、水夫共々、寝過ごしてしまった。それで、計画が台無しになった。酔いつぶれたパウロを残して、こっそり出港するという計画が。



★★★


次の日の昼、領主館の姉貴の執務室を訪ねるとパウロが姉貴に食って掛かっていた。


「信仰心がある領民たちと思っていたのに失望しました。感謝祭の意味さえ知らず、毎日の祈りも捧げていないなんて!!」


ああ、やっぱりこうなるよね。

しかし姉貴も引き下がらない。


「勝手に期待して、勝手に失望して怒り出す。貴方、女の子にモテないでしょ?」


「私は神に仕える身、そんな浮ついた気持ちは一切ありません」


「モテない男の子は、みんなそう言うのよ。それに教えを広めにきたんでしょ?だったら私が心からお祈りしたくなるようにしてみなさい!!例えばこの山のような書類を片付けるとかね。しっかり教会で教育を受けて来たんでしょ?「困っている人を助けなさい」っていう教えがあったわよね」


「第2章32項です。そのとき神は仰っられ・・・・」


「神のことはいいから、とりあえず結果で示しなさい!!」


「は、はい・・・」


姉貴がパウロを黙らせた!!凄いぞ姉貴!!


俺はこのことをアトラや航海士に伝える。話し合った結果、面白そうなので、もう少しスパイシアに滞在することにした。かなり急いで航行したから、日程にはかなり余裕があるからな。


★★★


パウロは意外にも領民たちと馴染んでいた。怪我人や病人を治療し、姉貴の書類仕事を手伝い、漁から帰ったリザードマンたちと模擬戦を行ったりしていた。噂通り、そこそこ戦闘力は高い。デイジーともいい勝負をしていた。

3日後、スパイシアから徒歩で半日ほどの場所にグレートボアが出現したという届け出が領民からあった。普通なら力自慢を募って、討伐に出向くのだが、今回は勇者パーティーとパウロで討伐に向かうことになった。


結果は次の日、見事討伐して、グレートボアを丸ごと持ち帰った。アトラは自分がさも活躍したと話していたが、ニコラスに話を聞くと、実際はパウロとデイジーがメインで討伐したらしい。アトラは普段の訓練をサボり気味で、相手についていけず「勇者砲があれば無敵なのに」とほざいていたらしい。

少しは勇者としての自覚を持てと思ってしまった。


次の日、俺たちが出発することもあり、仕留めたグレートボアを肴に宴会をすることになった。宴会の挨拶が始まる。


「パウロ、普段から頑張っているし、今回のグレートボアの討伐も見事でした。領主としてお礼を言うわ。それで3分だけ時間をあげる。しっかり神様の教えを伝えてもいいわよ」


努力が報われたと思ったパウロは表情が明るくなり、興奮気味に説法を始めたのだが・・・・


「はい、時間切れです。皆さん、飲みますよ!!乾杯!!」


「「「乾杯!!」」」


パウロが不満を口にする。


「領主様、それはあんまりです。これからがいいところなのに!!」


「話の長い男の人は嫌われるわよ。短く要点を押さえて伝える。その辺を勉強しなさい」


「なるほど・・・短く簡潔に・・・難しい・・・」


パウロは姉貴に手懐けられていた。


飲みの席で、姉貴にパウロについて聞いてみた。


「問題がある人を排除するだけじゃ駄目なのよ。ゴブリンだってコボルトだって、魔族領から逃げて来たでしょ。パウロだって教会から追放されたようなもんでしょ。だったらここで力をつけて、見返してやればいいのよ。今じゃ、ゴブリンたちを馬鹿にする奴なんてほとんどいないでしょ?」


姉貴も成長したなあ。流石領主様だ。


もう大丈夫だろう。女王陛下も心配しているかもしれないから、次の日俺は海洋ギルドに女王陛下宛ての手紙を預け、スパイシアを出港した。


「女王陛下へ

手短に伝えます。姉貴は凄いです。パウロを飼い慣らしています。今ではパウロは領の文官であり、武官であり、治療士です。いい人材をくれた女王陛下に姉貴から、お礼の手紙が正式に届くと思います。取り急ぎお伝えしました。

ネルソンより」

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