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46 勇者と宣教師 3

クリスタ連邦国の王都エジンバラに着くと、すぐに担当者に宣教師パウロを引き渡した。今回は女王陛下と謁見はしなくてもいいとのことで、俺たちはまず、造船所にクリスタリブレ号のメンテナンスに訪れた。親方が言う。


「かなり無理したな?ギアが焼き付いているぞ。まあ、丁度交換時期だから問題はないんだが、こんな無茶はあまりせんでほしいな」


「分かっているッスよ、今回だけの特別ッス」


「ベイラよ、怒っているわけじゃねえんだ。勇者パーティーの船なんだから、多少の無理は仕方ねえ。余程厳しい任務だったんだと思って、少し心配してただけさ」


ある意味、今までで一番厳しい任務だったと思う。


「動力関係以外は問題ないみたいだし、明日にはメンテナンスも終わるから明日取りに来な。頑張っているようだから、少し安くしておくぜ」


少し勘違いしている親方に礼を言い。俺達は酒場に繰り出す。


「俺たちは戦いに勝利した!!戦勝を祝って乾杯だ!!飲むぞ!!」


「「「ヤッター!!」」」


というのも、報酬は前払いで、食料や消耗品の経費も出してくれていて、更にミケが仕入れた積荷が高く売れたので、俺たちの懐は温かいのだ。普段は行かない高級店を貸し切っての大宴会が始まる。


「ああ、疲れたなあ・・・アトラもご苦労だった」


「流石の僕も疲れたよ。ニコラスやデイジー程じゃなかったけどね」


デイジーとニコラスにも労いの言葉を掛けると、流石のデイジーも愚痴を漏らす。


「ニコラスに逃げるなとは言ったが、我も逃げたくなったぞ。当初は論破してやろうと息巻いていたが、奴は頭の回転も速いし、知識も豊富だ。すぐに耐え忍ぶだけの展開になった。劣勢を耐え続けた自分を褒めてやりたいくらいだ」


「言ったでしょ。パウロ様を言い負かすなんて無理だってね。僕の苦労も分かって欲しいよ」


「だが、嘘はいかんぞ。そこは反省しろ。ただ、あれで罰は十分受けたと思うがな」


「そうだね。もう嘘は付かないよ。天罰が下ったと反省するよ」


俺も会話に入る。


「しかし、アトラの「死ぬぞ」攻撃を封じ込め、カウンターを喰らわすなんてな。一体誰が勝てるんだか?」


「政敵であるスニア派の連中が厄介払いにしたのも頷ける。あの調子で糾弾されたら、堪ったものではない。戦いを挑んだ我だから言えるが、スニア派の連中に同情するぞ」


「スニア派の幹部を捕まえたら、1日10時間のパウロの刑にしてやるけどな」


「まさに天罰だろうな!!」


そんな感じでみんな盛り上がっていた。ある男が入ってくるまでは・・・・


★★★


俺たちが飲んでいるところに入って来たのは、特殊部隊の長官だった。名前は知らないし名乗らない、どこの誰かも分からない謎の男だ。


「ネルソン殿、明日の朝一番で王宮に出頭してください。女王陛下から勅命が下ります」


「ちょっと、どういうことですか?理由は?」


「そうですね。いきなり言われても困りますよね。じゃあ少し説明を・・・」


特殊部隊の長官の説明ははこうだった。

女王陛下は謁見でパウロ宣教師を手ぐすねを引いて待っていたそうだ。謁見の場で言い負かし、すぐに追い返す。そして、さらに教会に文句を言ってやろうと思っていたそうだ。しかし、女王陛下はパウロという男を侮っていた。


『よく来たのう。麻薬を売りつけ、神を騙って悪事を繰り返す、イカれた宣教師殿。布教活動は許可するが、誰もお主の話は聞かんぞ。宗派がどうとか言うが、同じ穴のムジナじゃろうて』


『女王陛下、御言葉を返すようですが、一括りにされるのは心外です。ここに悪事を働いたマーマンがいたとしましょう。その一人のマーマンをもって、すべてのマーマンは邪悪な種族だと断じるこができるでしょうか?いえ、できません。女王陛下が仰っているのはそう言うことです』


『ああいえばこう言う詐欺師じゃな。神の教えを都合よく解釈してからに』


『神の教えのどの部分を言っておられるのですか?』


『それは、その・・・』


『では少し教えて差し上げます。まずは教典の・・・』


パウロの説法は長時間続いたらしい。耐えかねた女王陛下は言った。


『もうよい!!今日の公務は終了じゃ。腹が立つ、酒でも飲まんとやっておられん』


『失礼ですが、女王陛下!!女王とは国民に範を示す存在です。その貴方がそんな態度でどうするのですか?それに臣下の皆様方の態度を見るにこれが初めてではありませんね?

そして臣下の皆様方にも申し上げます。仕える主君が間違いを犯したのなら諫める。それが真の忠臣であります。どうやら女王陛下だけでなく臣下の皆様にも指導が必要ですね』


それから地獄の時間が始まったそうだ。


「仕事柄、隠密行動が得意な私がその場を抜け出し、陛下の密命を受けてここに参ったわけです。女王陛下は『エジンバラに置くとわらわが被害を受けるじゃろうが!!わらわだけではない。お主らもあ奴の被害を受けるのじゃぞ!!』と言って、パウロ宣教師をドレイク領で布教活動をさせることにしました」


あんなに盛り上がっていた場が一瞬で静まり返った。俺の酔いも一瞬で覚めてしまった。


「ということですので、明日の謁見で正式に勅命が下ります。くれぐれも遅れることのないようにお願いいたします。それと、もし逃げるようなことがあれば、国家反逆罪を適用すると仰ってましたよ」


女王陛下までやり込めるとは、なんて奴だ。ヤマット大将が「勇者殿とレオニール将軍を足して2を掛けたような男」と評したのも、今なら納得だ。


周りを見るとアトラは天を見上げ、デイジーは頭を抱え、ニコラスは涙を流している。


国家反逆罪を適用するとか言うくらい女王陛下も追い込まれたのだろう。まだ、俺たちはいい。問題は姉貴や領民だ。もしかしたら、ドレイク領の存亡の危機になるかもしれない。もしそうなるなら、リュドミラに・・・・


「私の使命は果たしましたので、これで失礼いたします」


「分かりました。外までお送りします」


俺は長官とともに店の外に出た。


「面倒事ばかりを押し付けて、大変申しわけないと思っています」


「気にしないでください。貴方が悪いわけではないので」


「そうですか、そう言ってもらえると助かります。代わりにと言っては何ですが、情報を一つ。セガスという男には気を付けたほうがいい。かなり危険な男です。それにアデーレとかいうメイドもね。言えることはここまでです」


「ちょっといきなりそんなことを言われても・・・ってどれくらい危険なんですか?」


「私どもが総力を上げて不意打ちを喰らわせれば、差し違えることができるかどうかですね。まあ、今のところは大人しいようなので問題はないのでしょうね」


長官は去って行った。

というか、俺の船はアトラを筆頭に危険人物ばかりじゃないか!!



次の日謁見を終え、俺たちの船にパウロが乗船してくる。


「私の熱意が女王陛下に伝わったようで、紹介状と任地まで賜りました。これも神のご加護ですね」


笑顔のパウロと対照的に乗員は深く沈んでいた。


神は乗り越えられる試練しか与えないというが・・・・

まあいい、やれることはやろう。


「全速力でドレイク領スパイシアへ向かう!!任務は前回と同じだ。総員配置につけ!!」

「勇者の戦いはここからだよ!!力を合わせよう」


「「「オー!!」」」


俺たちの生き残りを懸けた戦いは、始まったばかりだ。

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