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45 勇者と宣教師 2

帝都ベルダンを出発して3日目、とうとうパウロが本性を現した。


当初は「私室に祭壇を設置させて欲しい」という要望があったり、船首像を何時間も磨いたりという奇行が見られたが、周囲に迷惑を掛けることはなかった。しかし、その日は違っていた。


いきなりニコラスを大声で怒鳴っていた。


「貴方が送ってきた報告書には、「この船は敬虔な信徒ばかりで毎日祈りを欠かさない」と書いてありましたが、あれは嘘だったのですね!!この3日間、誰一人としてお祈りを捧げている乗員はいませんでした。それに普通、敬虔な信徒なら、司祭の私が乗船し、祭壇まで設置したのだから、多くの乗員が訪ねて来てもいいものを・・・信じたくはないですが、貴方は大嘘吐きだと言わざるを得ません」


「そ、そんな・・・皆さんは仕事が忙しく・・・日常生活で祈りを・・・」


タイミングが悪いことにゴブリン達と賭けポーカーをしていたザドラの声が響き渡る。


「神様、どうかアタイに力を!!お救いください!!祈りよ届け」


パウロが冷たい目でニコラスを見ていた。


「あれが、貴方の言う祈りですか?私には神の教えを理解しているとは思えないのですが?」


「祈りは人それぞれでして・・・」


「寄港先で熱心に布教しているのも嘘ですね?」


どうやら、ニコラスは教会に布教活動が上手く行っているという嘘の報告書を提出していたようだ。そもそもニコラスが布教活動をしているところなんて見たことがない。


問い詰められているニコラスに颯爽と勇者が助けに入る。


「宣教師さん、その辺にしておいたらどうだい?みんなは僕みたいな、神に近い存在がいるから、遠くにいる神を祈るなんて、できないんじゃないのかな?そうだよね、ニコラス?」


「勇者様も勇者様です。この3日間、貴方の生活態度を見させていただきましたが、欲望のままに惰眠をむさぼり、船の仕事も碌に手伝わないばかりか、食事だけは人の倍以上食べ、自室の清掃もメイドに任せきっている。私からしたら、勇者としての自覚があるとは思えません」


おお!!勇者にここまでいう奴は初めてだ。

もっと言ってやれ!!


「僕だって忙しいんだ!!色々やっているんだ!!」


「忙しい?一体何が忙しいのですか?もしかして、ミケさんに高額の現金を手渡し、良からぬことをしていることが忙しいと?」


「そ、それは・・・・もうそんなことを言うと、この場で死んでやるからな!!」


勇者は伝家の宝刀「死ぬぞ!!」攻撃を繰り出した。しかし、ダメージは与えられない。


「何と嘆かわしい!!自分の命を人質に不当な要求をするなどテロリストと大差ありません!!勇者としての絶大な力は、一歩間違えれば世界の破滅につながります。これは少し指導しなければなりませんね」


いいぞ!!やってしまえ!!


「そうだ、勇者。少しは自分の馬鹿さ加減を反省しろ!!パウロ先生、ご指導をお願いします」


「何だと!!馬鹿船長!!お前を道連れに死んでやるからな」


「ああ怖い!!テロリスト勇者に殺される・・・」


ここまでは良かった。

パウロという秘密兵器が出来たことに大喜びだった。しかし、パウロの矛先は俺にも向いていた。


「船長も船長です。勇者と船長の仲が最悪だと、使命は果たせません。乗員を見てください。呆れかえっています。私としては船長にも指導が必要だと考えます。とりあえず、私の部屋で厳しく指導します。二人とも、ついてきなさい!!」


そこからは地獄の時間だった。


「まずはキチンと名前で、そして敬意を持って呼び合ってください。まずは挨拶からです。じゃあ、やってください」


「おはようございます、アトラさん。今日もいい日ですね」

「ネルソンさん、おはようございます」


「よくできました。次は感謝の気持ちを伝えていきましょう」


「いつもありがとうございます、アトラさん」

「こちらこそありがとうございます、ネルソンさん」


「よくできました。それでは、挨拶と感謝が大事だという章句が教典の第3章6項にあります。一緒に詠唱することとしましょう!!」



結局、解放されたのは深夜だった。


「おいアトラ、少し話があるんだが」


「最近よく気が合うね。僕もだよネルソン」



★★★


深夜だったが、航海士たちを緊急招集した。


「これは危機だ!!かつてないほどの」

「そうだ!!この危機をみんなで乗り越えるんだ!!」


「どうしたんスか?二人が仲良くなっているッス。これは天罰でも下るんスかね?」


「ベイラ!!危機意識が足りないぞ!!このままでは、この船は終わりだ」

「そうだね。世界の滅亡かもしれない」


リュドミラが落ち着いた口調で言う。


「パウロ宣教師のことですか?事故に見せかけてればいいのですか?」


そこまでは言っていない。


「殺すのは無しだ。帝国からの依頼でクリスタ連邦国に届けるというのは任務だし、下手したら国際問題だ。なので全員が協力して、とにかく早くエジンバラに到着させる。俺とアトラは操舵室に張り付く。スクリューを限界までフル回転させてやる」


「ネルソンの言う通りだ。少しは僕が仕事をしているところを見せないといけないからね」


「名前で呼び合ったりして、なんかあったんスか?まあ、いいッスけど。私はスクリューの力を最大限に生かせるように調整するッス。エジンバラではメンテナンス予定ッスから多少は無理しても大丈夫ッス」


有難い。航海士たちも息が詰まっていたようだ。


「ハープも頼む!!」


「分かったよ~こっちもギリギリまでやってあげるよ~」


「じゃあアタイは水夫たちと追加の帆を張ることにするよ。帆が多いほうが早く進むだろ?」


マルカも続く。


「私は開発中の水流ジェットでサポートします。多少はスピードが上がると思いますよ」


ここで、俺は苦渋の決断をする。


「ニコラス、お前に最重要任務を与える。パウロを足止めしろ」


「そ、そんな・・・」


デイジーが言う。


「ニコラス、そもそもお前が嘘の報告書を提出していたことが原因だ。責任は取れ。我も勇者パーティーの一員として、ニコラスの不始末の責任は取る。命に代えてもニコラスと共にパウロを足止め致す。ニコラス、お前も覚悟を決めろ」


「分かったよ。船長、とにかく早くエジンバラに到着させてください。そうじゃないと僕の命が持ちません」


「何としてもお前を助ける。全員配置に着け!!任務開始だ!!」

「勇者の力を見せてやるぞ!!」


「「「オー!!」」」


かつてないほど、俺たちは団結していた、このまま魔王でも倒せるんじゃないかと思うほどに。


そして、達成した。帝都ベルダンからクリスタ連邦国王都エジンバラまでは、通常航行で15日前後の期間を要するところ、8日という早さで到着することになった。3日間を通常航行で進んでいたことを考えると異例中の異例だろう。


その代わり、みんなヘトヘトになったけどな。

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