43 その後の話
ゾロタス聖神国に対して、三ヶ国による抗議が行われたが、案の上、「聖神教会の一部の会派がこのよう蛮行を起こしたことは深く謝罪する。しかし、これはスニア派が独自で行ったことで、スニア派の幹部も行方不明となっていることから、詳しくは調査して回答する」という国ぐるみでやっていないという回答だった。
このまま、のらりくらりと調査をしていることにして、回答を引き延ばすのだろう。また、エルドラ島で指揮を取っていた幹部クラスは軒並み行方不明となっている状態で、また同種の事件が起こらないとも言えない。
話を帝国に移すと、まずレオニール将軍が中将に昇格した。これで焦ったのは主戦派だ。海兵隊の最高位が中将なので、慌てて最高位を大将にしてしまった。理由は苦しいもので、サウザン海賊団の討伐や今回の麻薬密売組織の壊滅などの功績により、海兵隊も海軍や陸軍と同等に扱うといったものだった。
しかし、裏を返せばすべてレオニール将軍のお陰ということになり、レオニール将軍は階級も実力も押しも押されもしない、海兵隊ナンバー2となってしまった。更にレオニール将軍の発言力は増すこととなる。
他国なので関係はないが、また多くの軍艦が沈むことになると、同情しているところである。
一方、我らが偉大なる勇者様はというと、演劇にハマっていた。
ベルダンでも本格的に劇団の活動がスタートしたことも大きい。俺も連日、勇者とともに演劇を鑑賞させられている。最初は断っていたが「一緒に見てくれないと死んでやる!!」と言ってうるさかったので仕方なく演劇鑑賞に付き合うことになったのだ。
サウザン海賊との戦いを描いた「勇者アトラと海賊団」、今回の出来事を描いた「勇者アトラと空飛ぶ戦艦」は連日大勢の観客が詰めかけていた。この二作品はまだいい。演劇なので多少脚色されたり、誇張されたりすることは許容できるし、勇者の活躍とレオニール将軍の心の葛藤を中心に描かれているで、真実を知っている俺からしても、少しホロっとくるところもあった。
しかし、興行収入トップは意外にもこの二作品ではない。
虚言癖の馬鹿勇者の妄想力が爆発した「勇者アトラとクラーケン」だ。なんと、この作品は俺の活躍?にスポットが当てられている。前の二作品がシリアスな展開や心の葛藤を描いた人情ものであるのに対し、こっちはコメディものだ。
勇者が妄想するクリスタリブレ号船長(モデルは俺)は、小太りでコミカルな役者が演じ、冒険の合間に勇者にセクハラをしたり、着替えを覗いたりする。またクラーケンとの戦いのときは、ひたすら勇者の陰に隠れて震えていたのに港に帰ると、さも自分が大活躍したように吹聴し、挙句の果てにこっそりと触手を切り取って売り、小銭を稼ぐのだ。
そして、調子に乗って触手を売りまくり、8本ある触手が残り2本になったところで悪事がバレ、お仕置きされるというオチだ。
これが元で、悪事は一度すると癖になるという意味の格言「触手を1本盗むと6本盗んでしまう」が誕生したのである。
「おい馬鹿勇者!!嘘も嘘、大嘘の演劇を作るんじゃない!!今すぐ公演を中止しろ」
「小さく「これはフィクションです」って書いてあるから問題ないよ。ギルマスが触手を盗んで捕まったことやクラーケンを一撃で倒したことを詰め合わせると時間が足りなくなるからこうしたんだ。事実を繋ぎ合わせて、ここまでの作品にした僕の手腕を褒めて欲しいものだ」
悪びれることもなく、そう言う勇者に開いた口が塞がらなかった。
後年、他の勇者アトラシリーズの演劇にも俺?が登場することが定番となる。シリアスな展開に少し笑いの要素を入れるのに最適のキャラだという。役者の間では、コミカルな船長役を演じられて一人前という風潮にもなってしまった。
今更になって思うが、あの時しっかり止めていればと、非常に後悔している。
★★★
~勇者アトラ研究者の論文より抜粋~
知られざる勇者アトラの功績を紹介している本稿であるが、今回は勇者アトラが打ち出した政策についての考察をする。まず現代では当たり前の概念「適材適所」が挙げられる。鼻が利くコボルトやインプ、ゴブリンなどを積極的に麻薬捜査官として登用し、多くの実績を上げたことは知られるところである。また、世界的な犯罪に対応するために設立された「国際警察機構」であるが、元をたどれば、これも勇者アトラに行き着く。
前述したコボルトたちを積極的に他国に派遣し、捜査能力を高めたことが始まりなのだ。
話は少し変わるが「軍艦に空を飛ばせる」という有名な格言がある。有名な古典演劇「勇者アトラと空飛ぶ戦艦」から生まれた格言で、敵の思いもよらない起死回生の一手を打つという意味だ。
物語の舞台であるエルドラ島には、そのときに使用した戦艦の一部である衝角が展示されている。この衝角を分析したところ、アダマンタイト鉱石で作られており、強化魔法も付与されていたそうだ。
軍艦が空を飛んだ原理は未だに謎だ。たかが衝角でさえ、ここまでこだわっているのだから、軍艦本体は当時の最先端技術をふんだんに取り入れていたのだろうと推察される。それを廃艦にしてまで多くの人命を救ったことは称賛に値する。
勇者アトラが残したかったものは、制度や技術ではない。何よりも人を大事にするという信念であると本稿は結論付ける。
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今回で第三章は終了です。第四章は少し、小ネタの詰め合わせになります。




