42 拠点制圧
「アトラ要塞」は督戦隊として配置されていた神官騎士たちを押し潰す。
まあ、あまりいい気持ちはしないが、因果応報だと思おう。お前たちが獣人たちを人間の楯にしていたのが悪いんだからな。
着陸したが、勢いですぐには止まらなかった。そのとき俺は、重大なことに気付いてしまった。
どうやって止まるか、考えてなかった。
「ぶつかる!!ぶつかる!!何とかしろよ船長!!何とかしないと死ぬぞ!!」
みるみると拠点の砦の城壁が迫って来る。もう駄目だと諦めたところで奇跡が起こる。船首に取り付けてあった衝角が、次々と壁を破壊して行く。後で聞いたのだが、無駄にアダマンタイト鉱石を使用し、さらに強化魔法まで付与してあったみたいだ。
俺は心の中で謝った。
衝角よ・・・使えない無駄装備の代名詞みたいに言って、すまなかった。
勢いも弱まり、漸く止まったところは、拠点の中央付近だった。ここまで来れば、後はレオニール将軍たちの出番だ。
「レオニール将軍!!後はお願いします」
「任された!!全部隊突撃!!一気に制圧するぞ」
「じゃあ、僕も行ってこようかな・・・」
「馬鹿!!お前にはまだやることがあるだろうが!!勇者砲で港を砲撃しろ!!」
「馬鹿とはなんだ!!まあ、言われたとおりにしてあげるよ。船長にしては頑張ったからね」
勇者は船体に取り付けてあった魔道砲に向かう。
「デイジー、マルカは敵が勇者に近付かないようにしろ!!ニコラスは怪我人の治療、ベイラは勇者の補助を!!」
俺も剣を抜いて戦いに備えるが、デイジーが華麗な槍捌きを見せて、敵を近付けさせず、結局、剣を使うことはなかった。勇者はというと、かなりご機嫌な斜めだった。港を砲撃して、ほとんど無力化していたのだが・・・
「なんだよ!!30発撃てるって聞いてたのに、12発で全部壊れちゃったじゃないか!!これじゃあ、僕の実力が発揮できないぞ!!何とかしろ、船長!!」
「勇者様、兵を引き連れて獣人達の解放に向かったらどうですか?かなり感謝されますよ」
「いい!!凄くいいよ!!デイジー、ニコラス、マルカ!!勇者パーティーとして獣人たちを解放しに行こう!!」
勇者は颯爽とメンバーを引き連れて、拘束されていた獣人達の元へ向かった。
「僕は勇者のアトラ・ルース!!僕が来たからには大丈夫、安心してくれ。これでもモフモフには自信があるんだ!!」
獣人たちは、最初は困惑の表情を浮かべていたが、次第に安堵の表情を浮かべ、大歓声に変わった。
しばらくして、女王陛下とザーフトラ総司令官も泳いで上陸してきた。マーマンやリザードマンの兵士たちが続々と上陸して来る。
「女王陛下!!立場を考えてください。ここは戦場ですよ」
「妾も血が騒いでのう。それにしても、戦場に立てと言ったり、立つなと言ったり、一貫性のない男は嫌われるぞ」
俺と女王陛下が、軽口を叩いている間もザーフトラ総司令官が指揮して、獣人たちを保護し、降伏した神官騎士達を次々と拘束して行く。
★★★
「アトラ要塞」が「空飛ぶアトラ要塞」となり、拠点に突っ込んでから半日が経った。戦闘は終了し、現在は戦後処理に移行している。
こちらの損害だが、死者はゼロだ。怪我人は多数いるが、重篤な者はいない。それに戦艦も砲撃戦で数隻が破損したが、自力航行はできる程度の破損なので、大きな損害ではない。ただ、大型揚陸艦「アトラ要塞」だけは別だ。スクリューは弾け飛び、マストは折れ、船底は穴だらけになり、勇者用に作った魔道砲もすべて大破している。無傷なのは船首の衝角くらいだが、これを何に使えというのだろうか?
まあ今回も派手に最新鋭艦をぶっ壊したレオニール将軍だったが、女王陛下は評価したようだった。
「馬鹿だとは思っていたが、ここまでの大馬鹿とは思わなんだ。勝手だが、貴殿をクリスタ連邦国海軍名誉中将に任命する。勲章は後で送るとして、旨い酒と妾の髪飾りでもやろう。貴殿がいる限り、帝国とは戦いたくないものじゃ」
「身に余る光栄、有難く拝命いたします」
第三王子も続く。
「ボンジョール王国も名誉中将にすることを国王陛下に進言しよう。却下されることは、まずないだろうな。それでこちらは私のお気に入りのワインを進呈しよう。勲章の授与は是非、我が国に訪問されたときに大々的に行おう」
「ありがとうございます」
多分、帝国に帰国したら中将に昇格するだろう。それを見越して、女王陛下と第三王子は結託して、このような手を打ったに違いない。これで、海兵隊の最高位中将となってしまえば、かなりの実力者となる。ボンジョール王国にもクリスタ連邦国にも良い印象を持つレオニール将軍は海兵隊でも冷遇はできないだろう。
被害確認や褒賞関係はこれくらいにして、保護した獣人たちからの事情聴取、島内の施設の捜索、捕虜の取調べを行ったところ、驚愕の事実が判明する。絶対に認めないだろうが、ゾロタス聖神国の国ぐるみのビジネスだったらしい。これは幹部クラスはすでに島から脱出しているので、悔しいが証明することはできない。
そして麻薬の製造工場で働かせていたのは、異教徒の獣人や魔族たちだ。遺跡の発掘作業というのが表向きの理由だが、そんなことは全くなかったようだ。奴隷は全部で1000人を超えている。彼らの処遇も考えなければならない。
結局、リザードマン、マーマンなどの種族はクリスタ連邦国が引き取り、コボルト、ゴブリン、インプの三種族併せて43名はドレイク領で面倒を見ることになった。そして残った獣人たちは、すべてボンジョール王国で面倒を見ることになった。これは第三王子の奥様が虎獣人であることも大きく影響している。
勇者はというと、奴隷だった獣人たち、とくに子供たちと戯れていた。
「よし!!みんなでモフモフしよう。勇者のモフモフは凄いんだぞ!!」
「「キャー!!勇者にモフモフされる!!」」
子供たちは喜んでいる。辛い目に遭ってきた子供たちの久しぶりの笑顔だと、獣人たちは微笑ましくその光景を見ていた。
「女王陛下、今後はどうされるのですか?」
「まあ、形だけになろうが、ゾロタス聖神国にこの三ヶ国で抗議することにはなるだろう。まあ、こちらとしては、付き合いで置かせてやっておる教会施設を取り壊し、宣教師たちも本国に強制送還させるくらいはしてやろうとは思う。そもそも我が国に信者なんてほとんどおらんからな」
第三王子も続く。
「こちらはクリスタ連邦国みたいに教会自体を追い出すことは流石にできないが、聖神教会施設すべてに抜き打ちの強制捜索をしようと思う。どこも小さな横領や不正蓄財くらいはやっているだろうから、かなりの嫌がらせにはなる。そしてそれをもって更に抗議して、反応を見ようかな」
「だったら帝国は、怒っているクリスタ連邦国とボンジョール王国の二ヶ国とゾロタス聖神国の間を取り持って、調停者としてのポジションで利権をむしり取ろうとするでしょうね。さも自分たちは関係ないフリをしてね」
この発言に女王陛下は驚きの表情を浮かべて言った。
「ネルソン坊よ、本当に外交官に転職してみんか?その国際感覚と先見の明があれば、十分務まるじゃろう。勇者パーティ―の船長にしておくにはもったいない」
「本当にいいんですか?俺がいないとあの馬鹿勇者が野放しになりますよ。それでいいなら、女王陛下のご命令に従いますが・・・」
これに笑いながら第三王子が答える。
「そうなれば大変です。所かまわず勇者砲を撃ちまくるでしょうな。ネルソン殿を勇者パーティーの船長から解任するようなことがあれば、ボンジョール王国としても抗議せざるを得ません」
「冗談じゃ。そんなことをしたら、それこそ世界の滅亡じゃ。ネルソン坊以外に勇者パーティーの船長が務まる奴は、世界を探してもおらんじゃろうしな」
世界の滅亡を食い止めている俺は、少し勇者っぽいのかもしれない・・・・
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