4 女王の決断
俺たちを含めて、領民総出でクリスタリブレ号を出迎える。ボロボロで今にも沈みそうではあったが、それが逆に誇らしかった。次々と乗員が下りて来る。しかし、一向に親父達は現れない。そして、最後の乗員は、従軍していたリュドミラだった。リュドミラが俺と姉貴に近付いて来て言った。
「領主様、奥様・・・立派に戦い抜かれました。戦闘で小舟に乗り込み敵陣へ、そのまま行方不明となりました。状況から考えて、もう助かる見込みはないかと・・・お守りすることができず、申し訳ありません」
「嘘だ!!嘘って言ってくれよリュドミラ!!」
「申し訳ありません・・・」
俺は泣き叫んでいたが、姉貴は悲しみを押し殺し、気丈に振舞う。
「分かりました、リュドミラ。ご苦労様でした。ゆっくり休みなさい。そしてこれからも我が領を支えてください。頼りにしてますよ」
「お嬢様・・・」
その後、姉貴は13歳という若さで、領主に就任する。親父達の功績が認められ、男爵位から子爵位に陞爵を果す。俺はというと甘ったれな次男坊のまま、海の男となり、今に至ったというわけだ。
こんな俺達に帝国の犬になれなんて、普通の神経をしていたら口が裂けても言えないだろ?
話を戻すが、戦争が終結したのはドール海海戦の勝利と同じくして、帝国の植民地の多くが反乱を起こしたからだ。これが元で帝国の植民地の多くが独立した。それにこの戦争で帝国海軍の8割は壊滅しているので、これ以上は流石の大帝国も戦争継続はできなかったらしい。
その後は一応平和?にはなった。戦争をしてないのが平和というのならだ。
帝国は帝国でクリスタ連邦国に相当恨みがあるらしい。大帝国の誇りを傷付け、海軍はほぼ壊滅、植民地の多くを失ったからだ。
それで地味な嫌がらせをやり始めた。海賊を私掠船として雇い、クリスタ連邦国の商船を襲ったり、不当な関税を吹っかけたりと。討伐した海賊のほとんどが帝国船籍だ。いくら帝国に抗議しても知らぬ存ぜぬで押し通している。
なので、国民の多くはグレイティムール大帝国への恨みは消えていない。それもそうだ。勝手に攻めて来て大負けした挙句、嫌がらせを続けるなんて、逆恨みもいいところだ。
★★★
そんな思いを抱えながら更に俺は女王陛下に食って掛かる。
「女王陛下!!貴方のことを見損ないました。少しは国民のことを・・・」
言いかけたところで、遮られた。
遮ったのは隻眼のリザードマン、海軍総司令官ザーフトラだった。
「ネルソン坊よ。その辺にしておけ。陛下も腸が煮えくり返っておるのだ。心中をお察しろ」
「でも・・・」
「あの戦争で多くの戦友を失い、片目まで失った我が言うのだ。堪えてくれ。我もあの屈辱を忘れんがためにこの片目は治さずにおるのだ」
そう言われると、言い返せない。
ここで女王陛下が言う。
「今回の無礼は不問とする。それで少し話を聞いてくれまいか?この話があったとき、妾もお主と同じく怒り狂ったものじゃ。帝国の使者を『ふざけるのも大概にせい!!』と怒鳴りつけてやったわい。しかし、帝国の使者が言うには、この話を受けなければ、魔王討伐の前に我が国を連合軍の敵と見做し、神の名の元に討伐するとな。神の名を出されては他の国も従わざるを得んじゃろう。そしてこうも言うた。
『たった1隻ですよ。軍艦を100隻出せと言っているわけではありません。当然活動資金もこちらが全額負担致しますし、お話をお受けいただければ、関税を引き下げ、更には私掠免状も廃止にして、海賊行為は一切禁止に致します。聡明な女王陛下のご決断をよろしくお願い致します』
妾にこの話を呑ませたことをもって、帝国軍や貴族、国民の溜飲を下げさそうという思惑じゃろうて・・・本国では大袈裟に喧伝するじゃろう。「クリスタ連邦国を屈服させた」とな」
本当に汚い奴らだ。お前らの名誉って一体何なんだ?
「考えに考えた妾は決断した。もうネルソン坊やスターシア嬢のような子を生み出したくはないのじゃ。だから、無理な願いだとは分かっておるが今一度頼む。この国の未来のため、受けてはくれまいか?」
「一日考えさてください」
そう言うのが精いっぱいだった。
頭では分かっているんだ。如何に利益があるかということも。でもどうしても感情的に許せない。
エジンバラのドレイク子爵邸に戻り、姉貴や航海士達と相談する。姉貴は受けるしかないという。
「領主として、貴族としては受けるしかないわね。ネルソンの気持ちは十分分かるけど・・・」
「俺も頭では分かってるんだ・・・そうだ、従軍してたリュドミラはどう思う?親父達の仇だからな」
リュドミラは意外なことにこの話を受けることに賛成する。
「受けてみてはいかがでしょうか?その後、殺して鮫の餌にでもすればいいのです。海の上なんて事故は付き物だし、証拠も残りませんからね。私なら1キロ先からでも仕留められますよ」
無表情で言うリュドミラが怖すぎる。一同ドン引きしている。
姉貴が言う。
「リュドミラの発言は冗談として・・・」
絶対本気だ!!
「帝国全体が強欲なクズじゃないと思うの。もしかしたら勇者は人格者かもしれないしね。帝国貴族の中には穏健派もそれなりに居るみたいだし・・・」
「そうですニャ!!帝国への安全な航路が確立できれば大儲け間違いなしですニャ。是非受けるべきですニャ」
ミケは本当に儲けることしか考えてないなあ・・・・
「分かったよ。受けるよ。ザーフトラのおっさんも、女王陛下も苦渋の決断をしたんだ。俺だって、もう子供じゃないしな」
次の日、再び女王の前に立つ。
「昨日の御無礼、心から謝罪致します。申し訳ありませんでした。それで今回の勅命、謹んでお受け致します」
「うむ、苦労を掛けるがよろしく頼む。くれぐれも体には気を付けてな」
「はい」
「それで今回の任務じゃが、まずはサンタロゴス島に行ってもらう。そこの総督の仲立ちの元、勇者パーティーと合流せよ」
女王との謁見を終え、俺たちはエジンバラを出港した。一旦、スパイシアに立ち寄り、領民に報告する。俺が特任大佐になったことと、勇者パーティーの船長になったことだ。詳しいことを知らない領民は、大喜びしてくれた。例のごとく、大宴会が始まる。
「勇者だ!!ネルソン坊は勇者になったぞ!!」
「バンザーイ!!勇者バンザーイ!!」
「勇者じゃないって、勇者パーティーの船長だって!!」
「まあ、どっちでもいいじゃないか。めでたいんだろ?」
「ところで、何がめでたいんだ?」
お前らは本当に飲んで騒げれば何でもいいのか?
でも憎めない。
俺も姉貴もこんな領民が大好きだ。
領民のためと思えば、少々のことは我慢できるに違いない。
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