37 再びサンタロゴス島
ドレイク領の領都スパイシアには、3日程滞在した。
ゆっくりしたかったが、それなりに忙しかった。水夫の入れ替えや捜査官となる者の選定、ドレイク領に関する書類仕事など、仕事はいくらでもあった。心配していたドレイク領の財政状況は良好で、胸をなでおろした。
捜査官という形でコボルトたちを派遣したり、ミケ猫商会の経営が順調なこともその要因だろう。
我らが勇者様はというと、相変わらず姉貴にベッタリだった。滞在期間中、そのお陰で「死ぬぞ」攻撃は受けなかった。決して寂しいとかは思ってないからな。
3日間はあっという間に過ぎる。
水夫を入れ替え、サンタロゴスとバリスに派遣する捜査官を乗船させ、ミケが目を付けた商品をクリスタリブレ号に積み込んでいく。
「ネルソンもアトラちゃんも気を付けてね。ネルソン、アトラちゃんをしっかり支えてあげるのよ」
「ああ」
「お姉さん、また来ます。次も僕の凄い冒険話を聞かせあげるね。と思います」
そして俺たちは、スパイシアを出発し、サンタロゴス島へ向かった。
★★★
サンタロゴス島、正式にはボンジョール王国サンタロゴス領の領都ロゴスに寄港する。早速総督府を訪ね、ポコ総督と面談する。ポコ総督は勇者に苦手意識を持っていたが、そうとは知らない勇者はポコ総督を撫でまわす。
「親切なタヌキさん、久しぶりだね。君のお腹はなかなかの触り心地だ。ミケやコボルトたちのモフモフと比べて遜色ないよ。それ!!」
「勇者様・・・お戯れを・・・」
一通り撫でまわした勇者は満足したようだ。
「いやあ、前回お会いしたときとイメージが変わりましたよ。獣人嫌いが治って嬉しいかぎりです。早速本題に入るのですが、話はある程度聞いています。親書の件も。それで第三王子殿下もこちらに来られます。第三王子が来られてから、詳しい話をしたほうがいいかもしれません。というのも偶然ですが、たった今、第三王子殿下も到着されているのです。奥様もマリー王女もご一緒にね」
「なんだって!!マリーも来ているのかい?僕はこれから、マリーを迎えに行って来るよ!!」
そう言うと勇者は部屋を出て行ってしまった。本当に自由だ。
勇者が出て行った後、ミケがおもむろに絵画を取り出す。高そうな絵だが、奇抜で斬新な人物が描かれていて、俺の好みではなかった。
「師匠、今日はこれをお納めくださいニャ。帝国のとある商会が倒産し、解散したので、競売に出される品をこっそり、お持ちしましたニャ。これも私の実力では捌けないので、お納めくださいニャ」
「おお!!これはピスカの行方不明作品じゃないか!!巡り巡って手元に来るなんて、運命を感じるな・・・」
ピスカ・・・俺でも名前は聞いたことがある有名な画家だ。物凄い値段で取引されていると聞いたことがある。
「ミケも実力がついたようだね」
「師匠程ではございませんよ」
この師匠にしてこの弟子ありだな・・・
そんな会話をしていると、第三王子がやって来た。
「ネルソン殿、久しぶりだね。勇者殿はマリーと遊んでいるから、親書は君から受け取ってくれと言っていたよ。まあ、親書がなくても話は進められるけど、一応外交儀礼ってやつだ。親書を国王陛下に代わって受け取ろう」
第三王子に親書を手渡す。
「確かに受け取った。これで君は勇者の代理、つまり君の意見は勇者としての意見となるわけだ。それを認識したうえで、話をしようじゃないか」
ほう、そうきたか・・・・つまり、これは正式な国際会議の場ということだ。親書を手渡した時点で、俺が大使扱いになると言う訳か。
「嵌められたということですね。でも、こんなことをしなくても勇者に直接言質を取ればいいことでは?それをあえて勇者を外した状態で、正式な話し合いをしようというのは少し疑問ですけど」
「流石に冷静だな。まあ、ちょっと意地悪をしただけだ。それで、勇者殿をこの場から外したのは、君に少し頼みたいことがあったからなんだ。まず質問するが、今回麻薬密売組織の拠点はどこか知っているかね?」
「エルドラ島だと聞いています。ここから10日程北東に行ったところです」
「そうだ。それで麻薬組織の親玉は知っているかね?」
「神様だって聞いてます」
「帝国もかなり君を信頼しているようだな。試して悪かった。相手が相手だけにこっちも気を遣うんだ。ここからは本音で話をする。帝国の担当者から聞いた話と被る内容になるかもしれないが聞いてくれ。私たちが相手にしようとしているのは、聖神教会のスニア派の連中だ。これはここだけの話にしてもらいたいのだが、「強欲なクズ、神を騙る悪魔」、まさにゴミ虫だ・・・・」
そうか・・・・、俺がそいつらの息のかかった奴じゃないと確信を持つために俺を試したり、回りくどい言い方をしたんだな。
「ちょっと言葉はアレですが、同意はします」
「まあ、これも試験みたいなものだ、気にしないでくれ。前置きがかなり長くなったが本題に入る。エルドラ島に麻薬工場があることは、三ヶ国とも掴んでいる。そしてエルドラ島を管轄しているのは聖神教会のスニア派の連中だ。表向きは遺跡の調査で、神話時代の貴重な遺跡があるということにしているがね。ここで質問だが、麻薬工場の実態は知っているかね?」
「そこまではちょっと・・・」
「麻薬工場で働かされているのは、獣人や魔族の奴隷たちだ。それも異教徒で、怪しい教えを広めたという無茶苦茶な理由でね。私の本音は彼らを救い、そしてクズどもを断罪したい。君の船の乗員は魔族や獣人が多いし、獣人の妻と娘を持つ私の気持ちは理解してくれると思うんだが・・・・」
思ったよりも酷いな。それに許せない。俺の仲間がそんな目に遭ったらと思うと腸が煮えくりかえる。
「それを聞いてよかったですよ。遠慮なく神様に喧嘩を売ってやります」
「頼もしいね。ただ、事はそう簡単ではない。三ヶ国の思惑が複雑に絡み合うんだ。私の個人的な思いもあるが、ボンジョール王国としては麻薬被害を防ぎたいから、今回の作戦は大賛成だ。
では帝国はどうだろうか?
元々は、スニア派の連中と結託して、我が国や周辺国に麻薬を売りつけてきた経緯がある。しかし、自分の国、それも帝都で売られては話が違ってくる。帝国も一枚岩ではないから、激怒している有力者も多いことだろう。そこで、ボンジョール王国とクリスタ連邦国に催促されて仕方なく、今回の作戦に参加したという体裁にした。スニア派とつながっている貴族達もこれならスニア派に言い訳が立つ。問題なのは有耶無耶に解決しようとすることだろう。例えば奴隷の獣人が勝手にやったとかね。そうはさせたくはない。
そこで君の出番だ。クリスタ連邦国の思惑を知りたいし、できればクリスタ連邦国をこちらの陣営に引き込んでもらうのに協力して欲しいんだ。流石の帝国も2対1では分が悪い。帝国に聞かせたくない話だから勇者殿には席を外してもらったというわけさ」
つまり、俺にボンジョール王国とクリスタ連邦国の橋渡しをしてほしいということだな。
「多分、ウチの女王陛下だったら、その話を誠意を持ってしてもらったら、協力すると思いますよ。麻薬の類は大嫌いだし、聖神教会も嫌ってますしね。旨い酒の1本でも持ってお願いしたらそれで大丈夫でしょう」
「そうか、ではその橋渡しを君にお願いすることができるだろうか?」
「まあ、ここまで聞いて嫌とは言えません。乗りかかった船です。やりましょう」
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