36 里帰り 2
俺達は女王陛下と数人の護衛、隻眼のリザードマンで海軍総司令官のザーフトラ、数人のドワーフの技師と一緒にクリスタリブレ号に乗り込みやって来たのは、取り壊し予定の灯台だった。実はここに逃走した麻薬密売組織のメンバーが立て籠っているらしい。
人質とかはいないので、灯台ごと壊して構わないそうだ。
ここに来る途中、調子に乗った勇者は「勇者ブースト!!」と叫びながら、高速で船を進めていた。更に護衛の艦隊を引き離し、「僕の船は凄いだろう!!」と宣っていた。
非情に腹立たしい。
女王陛下や総司令官、ドワーフの技師たちが乗り込んできたのは、軍事的理由からだろう。勇者が言った「帝国が研究している」という言葉が引っ掛かったみたいだ。こんな船を何隻も作られたら、俺でも危機感を覚える。
灯台の周辺に配置し、灯台を取り囲んでいた部隊を引き上げたの見計らい、女王陛下自ら拡声の魔道具で最終勧告を行っていた。
「麻薬の売人どもに告ぐ、大人しく降伏して縛り首になるか、ここで木っ端微塵になるか選べ!!・・・・返答がないようじゃから、勇者殿、存分にやってよいぞ」
それじゃあ、どっちも殺すって言っているようなものじゃないか!!
「分かりました。勇者砲、発射!!」
放ったのは2発、1発目が天辺の灯室を吹き飛ばし、2発目が根元に直撃し、あっという間に崩れ去った。
「他愛もない。勇者は悪を打ち倒したのであった。という感じです」
勇者はまた、ドヤ顔だ。その後、ドワーフの技師達に取り囲まれていた。その中にはベイラとマルカもいる。
そんなとき女王陛下が声を掛けてきた。
「聞きしに勝る威力じゃのう。こんな船が大艦隊で攻めてきたら、流石に降伏を考えるかのう?勇者の力とは何とも凄いものじゃ」
「女王陛下!!お言葉ですが、勇者砲は1日に10発が限度です。それにスクリューは回せますが、スピードが速いだけで、細かな操船はできません。戦争には使えませんよ」
海軍総司令官のザーフトラが会話に入って来る。
「ネルソン坊、それこそが脅威だとは思わんか?1日10発だけ撃って颯爽と去って行く。そんなことをされたら、こちらはお手上げだ。これほど嫌がらせに使える軍艦はないぞ」
「それはそうですが、それはアイツの力じゃなくて、作戦を立てた者とか軍の総合的な・・・・」
言いかけたところで、女王陛下が口を挟む。
「ネルソン坊はまだまだ子供じゃな。妾には、おもちゃを取り上げられそうになった子供が騒いでいるようにしか見えん。妾が助言するならこうじゃな。
僕ちゃん!!お友達と仲良くおもちゃで遊びましょうね」
「陛下!!もう子供じゃないんで、からかわないでください。用が済んだんなら、もう帰りますよ」
「それが子供なんじゃがな・・・」
後の処理は警備隊に任せて、エジンバラに帰還した。
★★★
次の日、エジンバラで一番の造船所にやって来た。女王陛下からの紹介状があるのですぐに対応してくれる。用件は船のメンテナンスと勇者砲の強化だ。
ここの代表はドワーフで、昨日、勇者砲を撃つところやスクリューを回すところを間近で見ていたので話が早い。それにベイラの師匠でもあるのだ。
「まず船だが、よく手入れがされていて問題ない。あの戦争を戦ったとは思えんくらいだ。ベイラの腕も上がったと見える」
「嬉しいッス。師匠!!」
「それで、勇者砲だが、正直専門外だ。魔道砲の開発担当のドワーフに聞いても、よく分からんそうだ。どうしても強化したいなら、ドワーフの里にでも行かんとな・・・・」
「帝国の奥地だし、ちょっと厳しいですね。10発で何とかなるような戦い方をします」
「そうしてくれ。代わりと言っちゃなんだが、スクリューは強化しておいたぞ。かなり魔力を込めても大丈夫なはずだ。それにヤバくなったら警告音が鳴るようにしておいたぞ」
「ありがとうございます。それだけで、ここに来た甲斐がありました」
「うむ。ベイラ、しっかり管理するんだぞ」
「はいッス!!」
勇者はそれで満足していた。勇者砲をもっと撃ちたいと言うかと思ったけど・・・・
★★★
そして、王都での仕事を終えた俺達が向かったのは、我が故郷、ドレイク領の領都スパイシアだ。
港に着くと住民総出で出迎えてくれた。先頭には姉貴がいる。
早速勇者と挨拶を交わしていた。
「ネルソンの姉で領主のスターシアよ。本当に可愛い勇者さんね。アトラちゃんって呼んでいい?」
「いいですよ、お姉さん。船長もよく頑張っているよ。そう思います」
二人は仲良く、歩いて行った。
馬鹿の相手をしてくれて、姉貴には感謝している。まだ日は高いが、みんな期待しているし、やるか!!
「おい!!みんな!!これから宴だ!!帝国産の酒を持って来てやったから、吐くまで飲め!!」
「「「やったあ!!」」」
そこからいつも通り大宴会だった。
勇者パーティーも馴染んでいた。デイジーはザドラの紹介でリザードマンと飲んでいて、盛り上がって槍対銛で模擬戦をしていた。「酔ってそんなことをしたら、大怪我するぞ!!」と注意はしておいた。多分聞いてないけど。
ニコラスは多くのコボルトに囲まれて幸せそうだったし、マルカはインプ達の前で飛行魔法を披露していた。50センチほど浮き上がり、5メートル程移動していた。インプから拍手が起こる。
「師匠!!出来ました!!」
「まだまだだが、よく頑張った。これからも厳しい修行は続くぞ!!」
マルカとブーイは抱き合っていた。美しい師弟愛だ。
勇者はというと姉貴にベッタリだった。久しぶりに姉貴に構ってもらおうと思ったのに・・・こういうところが、子供って言われるんだろうな。
しばらくして、勇者はかなり酒を飲んだようで、姉貴に膝枕をされて眠り込んでいた。俺は姉貴に酒を勧めながら話し掛ける。
「馬鹿の相手をしてもらって、感謝してるよ。大変だっただろ?」
「普通の女の子だったわよ。可愛らしいね」
「そんなはずは・・・・」
勇者の知らない一面を聞かされて戸惑う。
「それはそうと、アトラちゃんと、かなり仲がいいようね。でもキチンと節度は持ってよね。嫌われるからね」
「何を急に!!仲なんて良くないし、それに何もしてないぞ」
「そうなの?アトラちゃんが言うには、悪口を言われたり、着替えを覗かれたり、必要以上にベタベタしてくるってね。それで、『ネルソンは素直じゃないからね。好きな子には意地悪するのよ。そういう男の子は多いのよ』ってアドバイスしたんだけど、余計だったかしら?」
この馬鹿勇者はどこまで虚言癖が酷いんだ!!
それに騙される姉貴も姉貴だけど・・・
「こいつは虚言癖があって、9割が嘘で・・・」
言いかけたところで、勇者が苦しそうな声を出す。どうやらうなされているようだ。涙も流している。
「嫌だ・・・ママ行かないで・・・アトラはいい子・・・殺さないで・・・」
こんな勇者の姿を見るのは初めてだった。どうしていいか分からない。
「帝国や教会って、本当に最低だわ。こんな可愛らしい、いい子に色々と背負わせて・・・・ネルソン、しっかりアトラちゃんを守ってあげなさいね」
「ああ」
それしか言えなかった。
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