34 親玉の親玉
ノーギー陸軍大将にヤマット海軍大将、コム―ル大臣と急遽会談することになった。ヤマット大将が話始める。
「まず、今回のことはご苦労だった。そして、これだけでは終わらんとも言っておこう。お主も感じているところだろうが、親玉の親玉を潰さんと今回の問題は、根本的には解決せん。帝都の麻薬密売関係を牛耳っていたのはバーグ侯爵とその配下であるゴーヨック商会じゃが、もう立ち直れはせんだろう。しかし、また新たな密売組織が誕生するかもしれんし、たちまちは他の町に、帝都に流れるはずだったブツは流れるじゃろう。例えばお主の故郷とかな」
「それは俺も思うところだが、何か手はあるのか?」
「お主は一度クリスタ連邦国に里帰りしたいという申請を出してきたな。目的は麻薬密売に関する注意喚起、水夫の入れ替え、レーガン大尉の依頼を受けて、コボルト、インプ、ゴブリンの捜査官の帝国への派遣じゃったかな?」
「その通りだ」
「実を言うと皇帝陛下の許可も下りた。それで、そこに一つ二つ任務を加えさえてもらう。まず、捜査官の派遣だが、ボンジョール王国とサンタロゴス島にも派遣してもらいたい」
「それはどういった理由だ?」
ヤマット大将が言うには、この海域から、麻薬組織を締め出したいそうだ。捜査員を派遣することで、密輸をやりにくくするというのがその狙いだ。それで、その派遣を対価としてグレイティムール大帝国、ボンジョール王国、クリスタ連邦国の三ヶ国で一時的な軍事同盟を結び、麻薬の生産工場を叩くというのだ。
「帝国だけでやればいいんじゃないか?レオニール将軍の部隊に打って付けの任務だろ?」
「単純に潰すだけならそれでもいい。じゃが、場所が場所だけにな・・・」
説明を聞くと分かった。それならそうする必要があるな。
「面白いんじゃないか?神に選ばれた勇者様が、神様に喧嘩を売るんだからな」
「それは頼もしいことじゃ。後の細かいことはコム―ル大臣に任すとしよう。儂らは先に帰る。一緒に返っては、妙な勘繰りをされるからな」
ノーギー陸軍大将とヤマット海軍大将は先に部屋を出て行った。残されたのは俺とコム―ル大臣だ。
「なぜ彼らと一緒にいるか疑問だっただろうが、これも戦略の一つだ。私は日和見派として知られているが、実は戦争反対の穏健派なのだよ。そうしておいたほうが何かと都合がよくてね。主戦派が私を引き抜こうとして、色々と情報をくれるからね。
まあ、前置きはこれくらいにして、まずはこの親書をクリスタ連邦国女王陛下、ボンジョール王国国王陛下、ポコ総督に渡して欲しい。親書の内容はこちらに書いてあるとおりだ。ざっと把握しておいてくれたら助かる」
親書を確認すると、一言で言えば「勇者とともに悪に立ち向かおう」という内容だった。形上は勇者を全面に出すしかないからな。
「ボンジョール王国の窓口は第三王子になると思う。旧知の仲だろ?」
「仲は悪くはないですが・・」
「まあ、文面的に断れないないようになっているし。メインで攻め込むのは帝国だから、形だけでも軍隊を派遣してくれればいいんだ。そして、これは直接今回の件と関係ないんだが・・・・」
これは重要なことだった。
気持ちの上においてはだけど。
船舶は基本的に自国の国旗又は所属が分かる旗を立てなければならない。特に他国の港に入港するときは、絶対だ。そうしないと不審船と思われてしまう。だが、勇者パーティーの船であるクリスタリブレ号は少々事情が違う。今もクリスタ連邦国、ドレイク領旗、グレイティムール大帝国旗、聖神教会の旗、ボンジョール王国旗が掲げられている。
そこで、帝国の馬鹿貴族が一つの提案をした。帝国旗を一番目立つように配置しろと。
しかし、それでは帝国以外の国を勇者の船が航行するとき、反感を買ってしまうし、クリスタリブレ号に国旗を掲げて欲しいという国も減ってしまう。なので、コム―ル大臣がこのように提案したのだ。
「航行する海域を管轄する国家の国旗を一番目立つように掲げる」というものだった。まあ、落としどころとしては、いい線を行っている。
「ネルソン殿としては、自国旗を常に掲げたいだろうが、これくらいが限度なのだ。堪えて欲しい」
「ご配慮痛み入ります。それに自国に帰れば、帝国を従えているように見えますし、帝国領では帝国がすべてを従えているように見えますし、いい案だと思います」
「ありがとう。それでは、また何かあれば連絡をくれ。因みに私もゴーストの一員だからな。最後に皇帝陛下の前では、堪えてくれよ。爆発されると庇いきれんからな」
まあ散々煽られるのは覚悟しておくか。
★★★
そして、俺は皇帝の前に立った。傍らには勇者がドヤ顔で立っている。
機を見て少年皇帝は話始めた。
「クリスタ連邦国海軍特任大佐ネルソン・ドレイク殿。貴殿の働きも、なかなかだったと報告がある。労を労っておうこう。それに余は感心をしているのだ。我が帝国のすぐれた捜査技術を学びたいという貴殿の先見の明に」
はい?優れた捜査技術を学びたい?
一言も言ったことはないんだが・・・・
「勇者殿やレーガン大尉にコボルト族たちを帝国で研修させて欲しいと頭を下げたと聞いておる。我らの優れた捜査技術が流出すると反対する者もいたが、寛大な余は受け入れることにした。世界に範を示す使命のある我が帝国が、そのようなケチな考えではいかんからな」
何をどうしたらそういう話になるんだ?
俺は頼まれたほうだぞ!!
更に皇帝の話は続く。
「そして、恥を忍んで我が帝国の優秀な研究者たちに頭を下げ、貴殿らの船の性能を向上させてほしいと懇願したことも聞いている。そして、貴殿らの船の性能を最大限生かすには勇者殿の力が必要ということが判明し、勇者砲と呼ばれる魔道砲や未知の技術であるスクリュー・・・・」
頭を下げられたのはこっちだ!!
勇者だけが酷いんじゃなくて、帝国の上層部が勇者と同じ思考回路なのか?
研究者という括りであれば勇者パーティーのマルカもそれに該当する。広い意味では下げたことになるけど、それにしても納得がいかない。
そして、これも腹立たしいことだが、勇者が扱ったほうが主砲の威力は比べ物にならないくらい強力になる。それにスクリューを回すのも俺がやるよりも勇者が回したほうがスピードが出るのだ。
勇者がスクリューを回せると分かったのは偶然だった。勇者がクリスタリブレ号を「これは僕の船だ」と言い出したので、売り言葉に買い言葉で「だったらスクリューを回せるようになってから言うんだな」と煽った。
実際にスクリューを回させてみると、俺よりもスピードが出たというわけだ。ベイラが「壊れるッス!!もっと力を押さえるッス」と叫んでいたけどな。
それで帝国の研究者たちは、勇者砲に続いてスクリューの研究もしているらしい。
「皇帝陛下!!そうなんですよ。僕がいないと船の能力は引き出せないんだ。だから船と僕が巡り会ったのは運命だと思うんだ。まさに僕のための船だね!!そう思います」
何がお前の船だ!!
レンタルだぞ、乗員つきでレンタルしているだけだからな!!
するとノーギー大将も煽ってくる。
「ネルソン殿も本国で勇者船の性能を見せつけてやって欲しい。そうすれば、我が帝国と戦争しようなんていう考えは起きんからな」
打ち合わせ通りだが、腹が立つ。更にヤマット大将も続く。
「じゃったら二つ名を「クリスタの亡霊」なんてのはもう止めんか?例えば・・・そうじゃのう・・・ゴーストオブクリスタをもじって、ミラクルオブアトラ・・・「アトラの奇跡」とかはどうじゃ?」
すると、勇者は今日一番の笑顔を見せて言った。
「いいよ!!凄くいい!!「アトラの奇跡」か・・・・いい響きだ!!」
反対なんて雰囲気的にできない。これ以後、帝国では「アトラの奇跡」と我がクリスタリブレ号は呼ばれるようになった。
これも腹立たしいが、亡霊やゴースト呼ばわりされるよりはマシだと、自分に言い聞かせた。
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