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33 勇者の麻薬捜査 4

ベイラとリュドミラに勇者を頼んだ俺は、単身バーグ侯爵とゾロタス聖神国の大使が乗る船にハープに抱えられて、乗り込んだ。


「突然の御無礼ご容赦ください。私はクリスタ連邦国海軍特任大佐のネルソン・ドレイク、勇者パーティーの船長です。どうか話だけでも聞いてください。事態は緊急を要します。勇者様はお怒りで・・・」


俺は勇者が今にも魔道砲をぶっ放しそうなことを伝えた。ゾロタス聖神国の大使は訝しがる。


「本当にそんなことが?信じられん」


「それが本当なのです。上級貴族のバーグ侯爵閣下はご存じですよね?」


「あの娘ならやりかねんが・・・」


「ここだけの話、帝都で麻薬の摘発が増えたのは、勇者様の実力ではないのです。本当はレーガン大尉の手腕が大きいのです。レーガン大尉の部隊が発見したところに勇者様も便乗し、手柄を横取りしているのですよ」


「やはりそうか・・・あの馬鹿ができるわけがないしな・・・」


「そこで相談なのですが、勇者様を乗船させるだけさせてもらえないでしょうか?というのも、勇者様が怒ってらっしゃるのは、要求が通らなかったからなのです。臨検がどうとかいうことは一切関係ないのです。なので、お願いです。勇者様をこの船に乗せて、臨検の真似事だけさせてください」


「しかし・・・こちらとしては・・・」


「分かりました。ご理解いただけないようなので、私はこれで失礼しますね。もし生きておられたら、私が警告したことだけは証言してください。言うだけ言いましたからね」


あの馬鹿勇者なら本当にやりかねないと思ったバーグ侯爵は要求を受け入れるのだった。


合図して、勇者たちを船に呼び寄せる。馬鹿勇者は颯爽と登場した。


「船長!!いつまで待たせるんだ!!船長が乗っていても我慢できなくて、勇者砲を撃っていたかもしれないんだぞ!!そうなったら僕は責任を感じて死んでいたかもしれないんだぞ」


もはや意味が分からない。ゾロタス聖神国の大使も納得した様子だった。


「勇者様、早く臨検を済ませて帰りましょう。そうしないと無能な馬鹿勇者って呼ばれますよ」


これから、ここで馬鹿勇者をじっくりと煽っていれば、そのうち麻薬も見付かるだろうと思っていたが、またしても想像を超える事態を引き起こす。

ゾロタス聖神国の大使が呟いたことを勇者は聞き逃さなかったのだ。


「やはり噂通りの馬鹿か・・・それに劣った獣人や汚い犬も連れているし・・・誰が勇者なんかに・・・」


「おい!!聞こえたぞ!!馬鹿ってなんだ!!それに僕の大切な仲間に酷いことを言うな!!

デイジー、マストをへし折ってやれ!!」


コボルトたちを大切な仲間と思っていてくれたことは、少し嬉しいが、なぜそれでその結論になるんだ?もっと貴族っぽく、失言を突いて謝罪させるとか、やり方はあるだろうに。


「承知した!!」


デイジーお前もか!!勇者の命令だったら何をしてもいい的な感じか?

まあ、コイツも帝国貴族には恨みをもっているからな・・・


「百裂突き!!」


無数の突きを受けたマストは綺麗に根本から折れた。

バーグ侯爵が怒鳴る。


「いかに勇者様と言えど、これは国際問題になりますぞ!!」


だが、そうはならなかった。折れたマストの中から大量の麻薬が出て来た。もう言い逃れは出来ない。

積荷や船員の私物から少量出て来たのなら、上位貴族という立場を使って何とか誤魔化せたかもしれないが、この量で、しかもマストの中から出て来たのだから、言い訳のしようもない。

コボル隊長が言う。


「まだまだありそうですよ。それに他の船も調べたほうがいいでしょうね」


すぐに拡声の魔道具でレーガン大尉を呼び出して応援を貰うことにした。多分帝国史上最高の押収量だと思う。臨検にも飽きた勇者がいたので、トラブル防止のため、クリスタリブレ号に連れ帰ることにした。

一応、ご機嫌でも取っておくか。


「勇者様、多分過去最高の押収量ですよ。流石勇者様」


「船長も僕の偉大さが分かってきたのかな?まあ、これだけ側にいて、僕の素晴らしさに気が付かないなんて、余程の馬鹿しかいないだろうしね」


馬鹿で結構だ。お前の魅力なんて微塵も分からない。


そんなとき、拡声の魔道具でレーガン大尉が叫ぶ。


「至急追跡しろ!!軍艦1隻が逃走した!!バーグ侯爵と大使が乗っている。至急追跡しろ!!」


俺たちが引き上げた後、後処理をしていたレーガン大尉たちが逃げられたようだ。

よくあるんだよな。油断して逃げられるって・・・俺たちも昔はあったしな。


まあ、相手は俺たちに船足で勝てはしない。久しぶりに海の追いかけっこをしてやってもいいけどな。


そう思っていたのだが、油断していたのは俺だった。気が付いたら、勇者が主砲から勇者砲を3連発で発射していた。

そのうち1発が軍艦の土手っ腹に命中して大破、今にも沈没しそうな状態だ。


「馬鹿何やってんだ!!勝手に撃つな!!殺したら大問題だぞ!!」


「馬鹿ってなんだ!!逃げた悪い奴を撃って何が悪い。死んでほしいのか?」


全速力でスクリューをぶん回し、救援に向かう。ザドラを中心に必死で救助活動をした。結果、バーグ侯爵とゾロタス聖神国の大使は救助され、乗員も無事だった。更にザドラが潜水で沈んだ船の中を確認したら、こちらもキロ単位の麻薬が発見された。


レーガン大尉が言う。


「油断したら駄目ってことですね。我々も今後は気を付けます。それで、もう言い逃れできないと思ったのか、二人は正直に話していますよ。怪我の功名というやつでしょうか?」


不遇な人生を送ってきた分、勇者は悪運が異様に強いのかもしれない。これが神の加護か悪魔の呪いなのかは分からないけどな。

残務整理を手伝い、陸へと引き上げたところで、ギルドへの招集が掛かった。

内容を聞けば、簡単な市民向けのセレモニーをするみたいだった。帝国上層部としては、上級貴族とゾロタス聖神国の大使が結託して悪事を働いたことに注目されるよりも、勇者と沿岸警備隊の活動を称賛して、真実から目を逸らすことを考えたようだ。


出席者も豪華だった。ノーギー陸軍大将にヤマット海軍大将、コム―ル大臣までいる。詳しいことは言わないが、勇者とレーガン大尉が大活躍したことだけが市民に伝えられた。そこから、勇者達と市民のふれあいイベントが始まった。俺は、馬鹿らしくなっていたところにギルマスに声を掛けられ、会議室まで連れていかれた。

その会議室には、ノーギー陸軍大将にヤマット海軍大将、コム―ル大臣が待機していた。ヤマット海軍大将が言う。


「こうでもせんと話が出来んからな。ちょっとこれからのことを話さんといかんからな」


また、面倒事を頼まれるんだろうな。


それだけは分かる。

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