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32 勇者の麻薬捜査 3

ギルマスが自慢げに語った内容はこうだった。


麻薬の末端価格の急上昇で、怒り狂った売人や末端乱用者達は、ある商会を襲撃し始めた。港の倉庫や商会所有の集積所を中心に。当然警備の仕事の依頼が冒険者ギルドにも来る。それで、ギルマスは報酬を弾み、諜報能力の高い冒険者を複数送り込んだそうだ。

その冒険者達がいい仕事をしてくれたらしい。


「冒険者達の報告では、商会長が『そろそろ、ブツを運びこまないと大変なことになる。少々無茶してもかまわん。使えるもんは何でも使え。それにこの危機を乗り越えれば大儲け間違いなしだ』と部下に指示していたらしい。それに鼻が利く獣人の冒険者が言うには、ブツは見つけられなかったが、どうも使った後の匂いがする部屋が多くあるらしい」


間違いないな。その商会が、帝都での密輸の元締めだろうな。


「ところで、その商会っていうのは?」


「ゴーヨック商会ニャ!!侯爵家がバックについていて、帝国の御用商人でもあるニャ。だから、なかなか手が出せないニャ」


「ミケさんの言う通りだ。今の段階で踏み込んで、多少ブツが出て来たとしても、使用人が勝手にやったとか言って逃げられちまう。前から怪しいって言うのは分かっていたしな。だが今回は違うぞ。とっておきの情報を手に入れて来たんだ。ただ、これも厄介でなあ・・・・」


それは一介のギルマスでは無理な話だろう。


「僕の為に頑張ってくれてありがとう。後は僕に任せてよ」


最近ちょいちょい、この馬鹿は勇者っぽいことを言うようになったな。自覚が出て来たのか?

違うな、偶然だろう。


「ところで他の都市の状況はどうだ?」


「ああ、アンタの睨んだとおりだ。バリスもサンタロゴス島も麻薬の押収量は増えているらしい。クリスタ連邦国はまだ回答が返ってきてないから分からんが、増えてるんじゃないのか?」


「増えてるに決まっているニャ。倫理的な問題を気にしなければ、麻薬も商品ニャ。作るにも運ぶにもコストがかかるニャ。取引先が潰れたら、また次に取引先を探すのは当たり前ニャ」


ブツと俺たちが呼んでいる麻薬は、帝都では「パウダー」と呼ばれている。白い粉で、作るにも大掛かりな工場が必要だ。それにはコストもかかる。そこを叩かなくては、別のところで捌かれるだけだ。下手したら、それが母国クリスタ連邦国かもしれない。


「本当は製造工場を潰してやりたいが、とりあえず帝都の問題を片付けよう」


「そうしてくれ。あまりに話がデカくなりすぎると俺たちは関われなくなるからな・・・

おっとそうだ!!ゴーストから手紙が届いてたんだ。忘れるところだった。帰りに受付で受け取ってくれ」


受付で、手紙を受け取る。


「順調なようで何よりじゃ。今回は手短に。例の話は了解した。理由はこちらで考えたが、お主が腹を立てる内容になっておる。そのときは儂らもお主をその場で煽るから、くれぐれもどっかの美少女みたいに爆発するなよ。

ゴーストより」


美少女は間違いないが・・・まあ、その場で俺が我慢すればいいだけなら、それでいい。どっかの美少女程、理不尽なことは言われないだろう。



★★★


「久しぶりの麻薬捜査だね。今日もバンバン撃てたらいいな」


冒険者ギルドで話を聞いた後、勇者は捕まった。悪いことがバレたのではない。ファンや記者、貴族たちにだ。それから5日は接待漬けだったらしい。美味しいものが食べられて、チヤホヤされたのでご満悦だ。一人一人の接する時間が短かったので、勇者のヤバさがバレなかったのもその要因だろう。

しかし、5日もそんな生活をすると流石に飽きたようで、こちらに戻って来た。


今回の作戦にはどうしてもコイツが必要だったので、本当によかった。


「お願いします。船に乗ってください」


なんて、口が裂けても言いたくないからな。


今回の作戦は少し特殊だ。ギルマスの情報によれば、相手さんは大型船で一気に密輸する作戦だ。その量は俺たちが押収した麻薬の量と同程度だと言う。儲けが多い反面、摘発されれば言い逃れできないし、量が量だけに死刑になってもおかしくない。

そんなリスクを背負ってまで密輸しようとする理由は、裏組織との契約があるかららしい。期日までに必要な量を収められなければ、死の制裁が待っているそうだ。なので、賭けに出たようである。


こちらからしたら、願ったり叶ったりの状況だが、一つ問題がある。麻薬を積載した船にはゴーヨック商会の後ろ盾のバーグ侯爵が乗船し、更にゾロタス聖神国の大使も乗船させている。

臨検を受けても、権威でねじ伏せる作戦のようだった。ゾロタス聖神国は聖神教会の本拠地がある国で、皇帝陛下に献上品を持って来た大使の船を調べること自体が不敬だと言うつもりだ。


この件をレーガン大尉に伝えたところ、かなり慌てていた。


「これは私の判断では・・・下手したら国際問題になります。上司に相談を・・・」


「まあ待ってくれ。そんなことをしたら、捕まえることはできないぞ。今までの苦労が水の泡だ。それどころか、連中を大儲けさせてしまう。そして、麻薬が溢れかえった帝都は・・・・」


「しかし、たとえヤマット海軍大将でも奴らを止める権限はないかもしれません。ましてや、私になんて・・・」


「一人いるだろうが、すべてを超越する存在がな。だから俺達もレーガン大尉も知らなかったことにするんだ。勇者様の暴走に付き合わされた被害者という立ち位置をキープする。それなら、たとえ空振りでも、責任を取るのは勇者様だ」


「分かりました。私は勇者様を信じます」


レーガン大尉が勇者信者でよかった。


★★★


そして、とうとうバーグ侯爵とゾロタス聖神国の大使を乗せた船がベルダン近海に姿を現した。バーグ侯爵とゾロタス聖神国の大使が乗船している船は大型船で3本マスト、魔道砲も搭載しているが、戦闘用ではない。代わりに軍艦3隻を護衛として引き連れている。


早速、拡声の魔道具で停船命令を発する。


「これより臨検を行う。直ちに停船せよ」


「こちらはバーグ侯爵閣下の船であるぞ!!しかもゾロタス聖神国の大使様も乗船しているのだ!!そんなものに応じられるか!!」


予想通りの回答だ。

俺の計画では、ここで勇者を煽り散らかす。そして、拡声の魔道具で怒鳴ってもらい、臨検を開始するという流れだ。「勇者様、馬鹿にされていますよ」くらいでも十分かもしれないが、日頃の恨みもあるので、盛大に煽ってやる。


そう思って、勇者を見ると主砲の砲撃手席に座っていた。


「これって撃っていいよね?みんな仲間だから、4隻とも沈めていいよね?」


流石に駄目だろ!!他国の大使が乗っている船を臨検に応じないという理由だけで撃沈していいわけがない。


俺は慌てて拡声の魔道具で返答する。


「勇者様が大変お怒りです。話だけでも、お願いします」

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