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31 勇者の麻薬捜査 2

1ヶ月が経った。

もうすでに昨年の押収量を超えている。


「出来高払いで契約した理由が分かりましたよ。こんなことなら、定額給付にしておけばよかったですよって冗談ですがね。新たに予算もついたので、バンバン捕まえましょう」


レーガン大尉も大喜びだ。

というのも、レーガン大尉がコボルト達の活躍を見て、鼻の利く獣人たちを海軍や陸軍、一般募集などで集め、コボルト達に指導してもらうことを提案した。すぐに申請が通り、その人員が配備されたのだが、最近では彼らだけで摘発することも、しばしばあった。

そのこともあり、喜んでいるのだろう。


ところで、我らが偉大なる勇者様はというと新聞と雑誌の取材を受けていた。


「つまり大事なのは、悪い奴を許さないという熱い気持ちだと思うんだ。それがあれば・・・・」


普段接する俺たちと違い、記者たちは熱心に話を聞いてくれる。勇者も気を良くしていつも以上に饒舌だ。このまま、ずっと取材を受けていれば、どれ程楽かと思ってしまう。

そんなとき、インプ隊長のブーイが飛んでやって来た。


「船長、いいのが来ました。コボルトたちには少し待つように言ってます」


ブツを持っていそうな船が来たら、今日だけは臨検せずに報告するように言っている。すべては勇者様のご機嫌対策のためだ。


「勇者様、実際に記者さんに見てもらってはいかがでしょうか?ちょうど1隻停船させてますし」


「そうだね。今日は気が利くなあ。記者のみんなも実際のところを見たいようだし、行くとするか」


結果は、これもポチの大活躍でかなりの量を押収することができた。

勇者はご満悦で、後ろに倒れるんじゃないかと言うくらい胸を張っている。


「こういう地道な僕たちの活動が帝都の治安を守っているんだ。それと、目立たないがいい仕事をしているポチにも注目して欲しい。僕の右腕と言っても過言ではないからね」


目立たないというが、ポチの活躍がすべてだろうが!!


と思ってはいるが、言ったらまた怒り出すので言わない。


というか、ポチってこんなに大きかったっけ?


まあ、子犬はすぐに大きくなるっていうしな。特に気にすることでもないか。



★★★


数日後、勇者の記事は新聞の一面で特集を組まれ、更に多くの雑誌で目玉記事として取り上げられた。馬鹿勇者は今も、俺の前に新聞や雑誌を並べ、ドヤ顔を浮かべている。


「こんなにいっぱい記事があるのに、船長のことは一言も触れられてないって、少し可哀そうになって来たよ。ニコラスやデイジー、マルカも特集記事が組まれているのにね。これじゃあ、ポチ以下だね」


というか、ポチがいなければお前の活動自体が成り立たないだろうに・・・


「そんなことはどうでもいんだが、記事が出たこともあって、これから仕事は少しやりづらくなるぞ」


「なんだよ!!負け惜しみか?僕に掛かれば今まで通り摘発してやるさ!!」



経験から向こうさんも、考えて来るだろう。今まで通りとは行かない。

だが、それもある程度計算できるから大丈夫だ。


案の上、目に見えて摘発件数は減っていく。3日以上摘発できないなんてざらになって来た。勇者の機嫌も悪くなる。


「なんでだ?こんなに一生懸命やっているのに!!死にたい・・・」


「仕方ない。相手だって考える頭を持ってる。しばらくは作戦でも考えて、様子を見ているんだろう。だが、そろそろ、ベルダンにブツを届けないと大変なことになる。あの手この手を使ってくるだろうな。これからは化かし合いが始まるぞ」



すぐに報告が来た。応援が欲しいとのことで、クリスタリブレ号を商船に横付けして乗り込んだ。若い経験の浅いコボルトが言う。


「甲板からほのかに匂いはするんですが。見付けきれません。困ったので応援を・・・」


するとコボル隊長がその若いコボルトの頭に拳骨を喰らわせる。


「お前は何のためにインプたちを連れてんだ!!隠し場所の典型的な例を教えただろうが!!」


「えっと・・・そうか!!インプ隊で僕をマストの見張り台まで運んでください」


結局、マストの見張り台に大量の麻薬があった。敵も敵でよく考えるものだ。でもこんなことは使い古された手だ。それを若いコボルトにコボル隊長は教えたのだ。周囲で見ていたレーガン大尉の部下の獣人たちは、しきりにメモしていた。将来彼らが成長すれば、帝都への密輸は大幅に減るだろうな。


次の日もお決まりのパターンだった。目の前で、麻薬が入っていたであろう木箱を海に投げ捨てられた。


「あっ!!すいません。落としちゃいました。高かったのに・・・残念です。協力しようと思ったのですが・・・」


ワザとらしすぎる。

当然対策をしている。すぐにザドラが海に飛び込んで回収した。


「協力感謝するよ。アタイの仕事を作ってくれてな!!今日で何回目だい。いい加減にしておくれよ」


こんなことを繰り返しているが成果は上がっている。


更に強行突破を図って来る馬鹿もいた。停船命令に全く従わない。勇者は興奮している。


「これって、撃っていい奴だよね?そうだよね?」


何事にも見せしめは必要だ。勇者の御機嫌取りのためにも犠牲になってもらおう。


「撃っていいが、木っ端微塵は駄目だぞ。航行不能にするだけだからな」


「分かっているよ!!勇者砲、発射!!」


勇者の隣のリュドミラが上手く照準を合わせてくれていたので、沈没は避けられた。ただ、勇者砲の威力は半端ないので、船尾を破壊し、マストを3本へし折った。


「やったあ!!命中だ!!今日もいい仕事をしたよ」


おい!!今の任務は船をぶっ壊すことじゃないぞ。あくまで禁止薬物の押収、摘発だからな!!


結局、その船からも大量の麻薬が見付かった。勇者様はご満悦だ。


「僕の目に狂いはなかったね」


目は正常だろうが、頭は狂っているぞ!!


そうとは言えない自分が悲しい。



あの手この手の密輸作戦も防ぎ切り、俺達は一端陸に戻ることにする。レーガン大尉の艦隊も20隻に増強され、新規に採用した獣人たちも育ってきた。それにマルカが開発した簡易の検査キットの承認が下りたことも大きい。鑑定士がいなくてもこの検査キットで陽性反応が出れば、一時的に拘束できるようになったのだ。


なので、最近では積極的な臨検はレーガン大尉に任せ、逃げた船を追いかけて、勇者砲で制裁を加えることがメインの任務になっていた。そしてこの任務も無くなってきている。それはそうだ。逃げたらあんなヤバい攻撃を喰らうんだからな。


★★★


ということで陸に戻り、冒険者ギルドにやって来た。ミケとアデーレもここで合流する。


すぐにギルマスに応接室に案内された。


「いやあ、大活躍だな。流石は勇者様御一行といったところか。でもこっちはこっちで頑張ったんだぜ。まずはこれを見て欲しい。ミケさん解説を頼む」


「はいニャ。まず末端価格が10倍になっているニャ。これは大量にブツを押さえたことが大きいニャ」


「効果は大ありってとこだな」


「それは当然ニャ。供給量が減れば価格が上がるのは常識ニャ。それで面白いことが起きているのニャ」


「ミケ、勿体ぶらずにさっさと言えよ」


「これはギルマスたちの手柄だから、ギルマスに譲るニャ」


話を振られたギルマスは言う。


「俺達も勇者様の英雄譚に加えてもらえるように頑張ったんだぜ。聞いて驚けよ・・・」


まあ、冒険者もなかなかやるじゃないか。

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